第5陣第一部隊隊長
ガチ百合な二人から逃げ出してきた俺は、行くあてもないので適当に城内の散策をしていた。
(何というか、これがまさに城って感じだよな)
かつて異世界に行った時も城はいくつもあったが、この日本の伝統文化とも言えるこの城こそ、まさに本物だと思う。
さっきはゆっくり眺めることができなかったけど、この全体の白い壁と、木で出来ている床とのマッチングがすごく合っている。現在裸足で歩いているのだが、この歩き心地の良さがたまらない。
「まさか本物の城をこうして歩けるなんてな……」
日本の歴史の一部に触れながらも、これがまだ一部である事は外から見たときに分かる。果たしてどんな要素がここにあるのか気になるところだが、今日はこの辺りにしておこう。
(部屋戻っても、百合っぷりを見せ付けられるだけだし、どうしようかな)
歓迎会までまだ時間あるし、かといって何か特別にする事もない。誰か新しい歴史人物探してみるのもいいかな。
「そんな所で何をしているんですか? ヒスイ様」
と、そんな事を考えながらボーッと歩いていると、後ろから誰かに声をかけられた。この声の主は、ノブナガさんに間違いないだろう。
「俺の部屋に邪魔者が入って、部屋にいられなくなったんですよ。だからちょっと城の散策を」
振り返りながらそう応答する。
「邪魔者って、まさかヒデヨシの事ですか?」
やれやれとため息をつきながらノブナガさんはそう答える。
「あ、やっぱり分かるんですか?」
「当たり前じゃないですか。彼女はかなりの暴れん坊なんで困っているんですよ」
暴れん坊か。確かにあれを見たら誰だってそういう第一印象を持つに違いない。何せ人の服を脱がして水をぶっかけようとしたくらいなのだから(おまけに彼女は百合だ)。
「それでノブナガさんこそ何をしているんですか?」
「私も実は暇なんですよ。よかったらここをご案内してあげましょうか?」
「え、本当ですか?」
それは助かる。一人だけでは分からないことばかりだし、この城の主である彼女に直接教えてもらえるのは他の誰かに聞くより全然いい。
「でも歓迎会の準備とか手伝わなくて大丈夫なんですか?」
「ヒスイ様はお気になさらなくて大丈夫ですよ。歓迎される側なんですから」
「いや、ノブナガさんの方は?」
「私の方は気にしないでください。さあ、行きましょう」
「あ、はい」
という事で一度やめようとした城の散策を再開。今度はノブナガさんに城内を案内してもらいながらだったので、大体の構造を理解できるくらいの知識は得られた。
「これだけ広いと覚えるの大変じゃないですか」
「作らせたのは私なので、ほとんどの構造は理解しているんですよ。まあ最初は迷子になってばかりでしたけど」
「この広さですからね」
二人でそんな会話をしながら、約一時間近くノブナガさんと城を回った。
■□■□■□
大体の案内が終わり、ミツヒデから歓迎会の準備が終わったとの連絡が入ったので、二人で一緒に向かった。その会場はどこにあるかというと、
「何というか、俺の想像通りだな」
城の上階の方にある大きな縦長の座敷。歓迎会というよりは大物だけが集まるあの食事会の感覚を覚える。人数もあの場にいた三分の一にも満たないくらいの人数だし、これは果たして歓迎会と呼べるものなのだろうか?
(何か重いな、これ)
これから重大な戦に向かう気分だ。
「さあヒスイ様、こちらに」
ノブナガさんに案内されて座ったのは、何と彼女の席の隣。ここって俺が座るべきところなのだろうか? もっと偉い人が座るところだと思うんだが……。
(うわ、何か緊張してきた)
ガチガチになりながら俺が座ると、その緊迫感は一気に増す。その中でノブナガさんが口を開いた。
「ではこれより、ヒスイ様の第一攻撃隊、隊長継承式及び、歓迎会を行ないたいと思います」
ん? 今歓迎会の前に別の単語が聞こえたような……。
「の、ノブナガさん。今なんて?」
「あれ? もしかして伝えられていませんでしたか? ヒスイ様は明日から我が軍の隊長として働いてもらうことに決まりました」
隊長? 俺が?
「い、いや、それはいくらなんでも突然過ぎませんか?」
「そうですか? 実力があるものが上に着く。それがここの常識ですよ?」
「いや、何となく言いたいことが分かりますけど……」
俺はまだこの軍に入ってから一時間ちょっとしか経っていないし、いくら魔法が使えるといってもそれがどこまで通用するかなんて未知数。それに二年くらいのブランクがある。
そんな俺に、そういった地位は似合わないような気がするんだけど。
「何を悩むことがある。貴様のあの力があれば、どんな敵でも倒せるのだぞ」
会った時は色々言われたミツヒデに何故か背中を押される。最初に牢獄に閉じ込めたくせに、俺の力を知ったら手のひら返しかよ。
「ヒッシー、なっちゃいなよ。ヒッシーの下なら私も働けるし」
「だめですお姉様は、私から離れないでください」
百合二人からも声が聞こえる。何かカオスすぎないかここ。上の位の人達がこのレベルって、よく生きてこれたな織田軍。
「ヒスイ様、これは私からもお願いさせてください。ヒスイ様のあの力は、今の私達にとってとても重要なものなんです。いきなりの話すぎて受け入れられない気持ちは分かりますが、どうか……」
ノブナガさんからも何故か懇願される俺。しかも頭まで下げられてるし。ますます断りにくくなる。
『お願いします!』
「えー! 総出で頼むほどなのか?」
更にノブナガさんに続いて、その場にいる全員が頭を下げて頼んでくる。さっきまでのあの緊迫した空気はどこにいったんだよ。
(でも、ここまで頼まれると……)
かつて世界を救った時も、これくらい頼まれたような気がする。あの時は何もかも全てが初めての俺だったから、すごく拒絶していた。しかも世界の命運がかかっているから、そのプレッシャーは大きかった。
だけど今はこの頼みを受け入れてもいいかな、と思っている自分がいる。何せ脇役だった俺が、今度は軍を率いれるくらいの主役になる絶好のチャンスだ。このチャンスを無視していいのだろうか?
(いや、できない)
「そこまで言うなら……。なりますよ俺が。第一攻撃隊、隊長に。力になれるか分かりませんけど……」
わぁぁぁぁ
俺のその一言で、一気に場が盛り上がる。どれだけ前隊長が頼りなかったんだろうか。後で聞きたいくらいだ。
「ありがとうございますヒスイ様」
「い、いえ。こ、これくらいやらなきゃ、ここにいる意味がなかったんで」
まあ別の思惑があったけど、それは内緒って事で。
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