第4陣戦国百合事情
テストを無事合格し、織田軍への仲間入りをした俺に、早速城内に専用の部屋が用意されていた。
といってもやはり部屋の形式は変わらず、ノブナガさんの部屋より多少小さくなったくらいのレベルの部屋だった。
「うわぁ、畳の部屋なんて久しぶりだなぁ」
さっきノブナガさんの部屋に行ったばかりだとういうのに、そんな感想を述べる俺。でもこうやって畳の部屋で何もせずにボーッと寝転がっているのもなんだか悪くない。なんというかこの居心地の良さがたまらなく好きになる。
「平和だなぁ」
今自分が戦の時代にいるとは思えないくらい平和だ。これくらいの平和があの世界に元からあったら、絶対俺は魔法なんて覚えなかっただろうなと思えてくる。
「ふわぁ……」
久しぶりに魔法を使ったせいか、一気に眠気に襲われる。そういえばこの世界に来てから、一度も睡眠を取ってなかったっけ。
「よし、歓迎会の前に一眠りするか」
準備が終わるまでは自由にしていいと言われたので、初日は特にやることは見つからない事もあり、俺はそのまま軽い睡眠を取ることにした。
だが、それから僅か数分後に俺の平和をかき乱す乱入者が現れる。
「いやっほー、お邪魔します―」
突如元気な声とともに扉が開かれ俺の部屋に誰かが部屋に入ってくる。本当に邪魔だから困るんだけど、ここは我慢しなければ。
「って、あれ寝ちゃってるのかな」
謎の声は、無視して目を瞑っている俺を寝ていると勘違いしているらしい(実際寝ているが)。このまま大人しく立ち去って……。
「仕方がない。とりあえず服を脱がして、その上から水をかけて目覚めさせようかな」
くれなかった。むしろ命の危険に晒されるところだった。
「待て待て、何だその発想は! 怖すぎるよ!」
身の危険を感じた俺は、慌てて体を起こし、謎の人物から距離をとった。どうやら俺を起こそうとしていた人物は、この目の前にいるショートカットの金髪の小柄な少女らしい。
「なーんだ、起きてるのか。つまんないの」
「寝てたらやるつもりだったのかよ」
「勿論」
当然のように答える少女。これで本気で寝てたら、俺は知らぬ間に死にかけていたかもしれないと思うと、ゾッとする。
「初対面の人に対してやる事じゃないよな絶対」
とりあえず命の危険を回避した俺は、やれやれと畳の上であぐらをかいた。
「どうした、座らないのか?」
「こうしていると人間を見下しているようで楽しい」
「はいはい、そうですか」
あまりに変わっている性格のため、俺は適当に受け流す。そもそも勝手に入ってきておいて、謝りもしない時点で、無礼すぎると思う。
おまけに俺と少女は初対面でもあるので、それなりの礼儀というのはあってほしい。
「それで、勝手に人の部屋に入ってきて何の用だ? あと誰だ」
「何の用って。それは勿論からかいにきたに決まってるじゃん! どこから来た人間か分からない謎の武器を使う少年、そんな一生に一度会えるか会えない人物をからかわずにして何ととる。この世界一美少女のヒデヨシ様は、どんな時でも常に遊び心を忘れないのよ」
何か周りにキラキラエフェクトを出しながらそんな事を語るヒデヨシという名の少女。
(何かすごく滅茶苦茶な事を言っているけど、頭大丈夫かこいつ)
それに今どさくさに紛れて自分の名前を名乗っていたけど、ヒデヨシってまさかと思うけど、信長亡き後にその座を継いで、天下をとったかの有名な豊臣秀吉なのか?
「あのさ、あんたの苗字ってもしかして羽柴?」
「え? 何で知っているの? この今は知る人ぞ知る羽柴秀吉の名を。まさかお主、かなりのやり手だなぁ」
またもや有名人に巡り合えたことに、俺は胸を躍らせた。織田信長や明智光秀に次いで、まさかあの羽柴秀吉にさえ会えてしまうなんて、嬉しいこの上ない(だが女性である事には、もうツッコむ気力もない)。
「何を言っているかさっぱり分からないけど、とりあえずあんたの名前はヒデヨシでいいんだな? 俺は桜木翡翠だ。適当に何とでも呼んでくれ」
「じゃあヒッシーで。私のことはヒデヨシ様と呼ぶのよ」
「誰が呼ぶか! あとその呼び方は恥ずかしいから勘弁してくれ」
そんな有名人に変なあだ名をつけられ、思わずツッコミを入れてしまう。適当にとは言ったけど、その名前は適当過ぎると思う。
(どう変換したらヒッシーになるのかさっぱり分からん)
ヒデヨシの扱いに一人悪戦苦闘している中、遠くから何やら誰かを読んでいる声が聞こえた。
「ヒデヨシお姉さま~」
ものすごい足音と共に、ヒデヨシをお姉様と呼びながら入ってきたそいつは、走ってきた勢いをそのまま使って、俺なんか目にくれずヒデヨシに抱きつこうとする。
「ヒデヨシお姉さま。こんな所にいらしたんですねぇ」
「っと、いきなり危ないじゃない」
が、華麗にそれを避けられ顔面を強打する。おいおい、もろぶつかったけど大丈夫か?
「ネネ、またあんた私を追いかけてきたの?」
「お姉様の為なら例え火の中、水の中です」
そんな俺の心配とは裏腹に、すぐに彼女は立ち上がり、次の態勢へと入ろうとしている。
彼女の目はまさに餌を狙う獣の目。あ、これもしかしてそっち系のやつですか。
「さっぱり意味が分からないわよ」
「分からなくていいのです。私の愛は、誰にも理解されなくていいのですから」
再びヒデヨシに襲いかかるネネと呼ばれた女の子。その短い茶髪の髪の毛と顔立ちからして、体が小さいヒデヨシと比べると決して年下に見えないのは俺の気のせいだろうか?
それに確かネネって、秀吉の奥さんになる人だった気がするけど、明らかに愛の形が違う気がする。簡単に言えばガチ百合?
「あ、もしかしてあんたが噂の新人ね。私がいる限りお姉様には、一切手出しさせませんからね」
「いや、別に手を出す気は一ミリもないから」
「私はあんたがいる事ですごく危ない目にあってんだけど! あとヒッシーもサラッと酷いこと言わないでよ」
「そんな事ないですよ。私の愛は絶対安全です」
「その愛の形が絶対間違っているわよ!」
うん、それは正論だなヒデヨシ。
「いいえ、間違いではありませんわ。私はどれだけお姉様を愛しているか……」
何か一人で語りだすネネ。ライトノベルとかでは見かけたことあるけど、本物の百合ってこんなに怖いんだ。こんなのと関わりたくないし、
ここは、一旦逃げよう。
「俺はお邪魔なようなので、この辺で。あとはお二人でごゆっくり」
「あ、ちょっとヒッシーどこに行くの。決して私は百合とかそういうの興味ないから! だから助けて」
「お姉さま、どこへ行こうと言うのですか? 私の愛の言葉をしっかり聞いてください」
「聞く気ないわよ~」
ネネに抱きつかれて困っているヒデヨシの悲痛な声が聞こえるが、そんなの無視。人の睡眠を妨げた罰だ。
(俺の折角の新しい部屋が荒らされそうだけど、まあいっか。とりあえず今は)
そっとしておこう。
「ヒッシーの裏切り者ー」
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