第3陣決意新たに

 テストすると言われ、ノブナガさんに連れられてきたのは兵士の訓練所。事前に渡された簡易的な鎧を身につけてそのど真ん中に立たされた俺は、これから一体何をしようとしているのか察しがついた。


(恐らくだけど、もしかしたら……)


 俺のあの力をアピールする絶好のチャンスなのかもしれない。


「ではヒスイ様、これよりテストを開始いたします。ミツヒデ、例の物をお願いします」


「了解いたしました」


 少し離れたところで、ノブナガさんとミツヒデの声が聞こえる。どうやら、テストが始まるらしい。さて、何が出てくるのやら。


「ヒスイとやら、これは貴様が生きるか死ぬか二択しかない重大なテストだ。生き残りたければ、これを乗り越えてみるがいい」


 ミツヒデが遠くからそう言うと、広場の端にある巨大な扉が開かれ、巨大な影が現れた。


「うげ、何だあれ!」


 歩くたびに砂埃と大きな音を鳴らしながら迫ってくるその影。足音の大きさが広場に鳴り響く中、俺は緊張しながらもその時を待っていた。そしてその影がすぐそこまで来て立ち止まり少し経った後、舞っていた砂埃が晴れ、その巨大な影が姿を現した。

 こ、こいつは……。


「もしかして巨人?」


 大きさ五メートルくらいに渡る巨大な人間だった。なんだってこんなに大きい人間が、この時代にいるんだ? いや、もしかしたら俺が知らないだけで本当はいたのかもしれない。まあ、どちらにせよ。


(一撃でも食らったら、確実に死ぬよなこの装備だと)


 こんなボロボロな装備だと耐えられるはずがない。つまり普通の人間なら、生か死か絶望の二択しか与えられないという、何とも不利な状況だ。


 そう、普通の人間ならば……だ。


 だが俺は普通の人間ではない。俺はこの世界で唯一魔法が使える人間、魔法使いなんだ。


「テストの内容は、この巨人から五分間生き残るか、もしくは倒すかです。では、始めてください」


 ノブナガさんの開始の合図が聞こえる。それと共に、巨人は爆音を立てながら俺に迫ってくる。一歩一歩の振動が大きく、うまく立っていられない。


(こんなに大きな人間が、迫ってきたら誰しもがビビるなこれは)


 でも俺は、全く怖くない。何せこんなもの幾度も見てきたのだから。


(生き残るのが条件だけど、絶好のアピールタイムだし、倒すとするか!)


 体の中に秘められている魔力たちを再び呼び覚ます。さあ、久しぶりの戦いだ。本気で行くぞ!


「かかってこい!」


 ■□■□■□

 最初の一撃は巨人からだった。迫る勢いを使って、背中に背負っていた巨大な斧を縦に振りかざす。俺はそれを簡単に避け、振り下ろされた腕を使って宙へと飛び上がり、すぐさま魔法の詠唱を心の中で始める。


(手始めに、簡単な火の魔法でも使うとするか)


 誰しもが一番最初に覚える火の初級魔法、フレイムを唱え、すぐにそれを発動させる。魔法陣などは必要はない。

唱えた直後無の空間から、直径一メートルくらいの巨大な火の玉が飛び出し、それを巨人の体にぶつける。本来フレイムは初級魔法なので、火の玉はさほど大きいものではないのだが、俺はそれすらも上級魔法並みの威力に変える力を持っている。


(久しぶりの魔法だから、衰えていないか心配だったけど、これなら大丈夫そうだな)


 少しだけ安心する俺に対して、まともにそれを食らった巨人はというと、効果は絶大だったのかよろけて今にも倒れそうになっている。

ちょっと本気出しすぎたか?


「え? 何ですか今のは」


「わ、私にも分かりません」


初めて魔法を見た人達は、今一瞬何が起きたのかさっぱり理解ができていないようだ。そりゃあそうだ。いきなり火が出てきたと思ったら、それが巨人にぶつかって倒れそうになっているのだから、何がなんだか分からないはずだ。

 

(俺も最初はそうだったよなぁ)


けれど、ある人に魔法を教え込まれ、俺は今こうして立派な魔法使いになれたんだ。


(それじゃ、トドメを刺すとするか)


 次に唱えたのはこれまた初級魔法のアイスという氷魔法。頭上に巨大な氷の塊を出現させ、それを敵の頭に落とす。それを食らった巨人は、頭に食らったこともあってかその場フラフラし始める。

 俺はそれに追い打ちをかけるかのように、もう一度アイスをぶつける。すると巨人はいとも簡単に地面とこんにちわして、そのまま動かなくなった。


「あ、あの巨人が一瞬で……」


「な、何が起きたんだ今」


 全てが終わったのを察したのか、ノブナガさんと一緒にこの戦いを見ていた兵士たちが口々に感想を漏らす。俺は止めていた息を吐きながら、ノブナガさん達がいる方へ体を向けて一言こう言った。


「え、えっと、お、終わりました」


 その瞬間、何故だか周りの兵士達から歓声が沸いた。驚くのは分かるけど、歓声をあげる必要があるか?

 思わぬ反応に驚いているとノブナガさんが目を輝かしたまま俺のもとへやってきた。


「す、すごいですヒスイ様。い、今のは何ですか一体」


「え、えっと、ちょっと説明すると長くなるんで、後で説明するって事でいいですか?」


抱きついてきそうな勢いだったので、俺は少しだけ動揺しながらも冷静に答える。


「はい! 勿論です。テストも当然合格ですし、是非我が軍の戦力になってください」


「あ、ありがとうございます」


 こうしてテストは無事合格。俺は晴れて織田軍の一員になることになった。

別に望んでなったわけではないけど、またこうして魔法が使える場ができたのはすごく嬉しい。しかもそれが誰かの力になるというのなら尚更だ。


『魔法は自分の為に使うのではなく、誰かの為に使いなさい。そうすればきっと、あなたも立派な勇者のお供として成長できますから』


 いつか師匠がくれた言葉を思い出す。異世界に来たばかりの頃の俺は、突然勇者のお供になる為に魔法を覚えろと言われ、かなり混乱してしまっていた。

 そんな俺に師匠がかけてくれたこの言葉は、今でも忘れていない。それ以外にも師匠は沢山の言葉を俺にくれた。それらは今思い出すとどれも大切なことばかりで、俺がここまで成長できたのは彼女のおかげだと言える。


(またいつか会えないかな師匠)


 会って成長した姿を見せたい。けど、それは今となっては叶わぬ願いなのも理解している。しているからこそ、俺はその気持ちがより高くなるのであった。


「では、戻って歓迎会を開きましょう。ミツヒデ準備を」


「かしこまりました」


 俺が師匠の事を思い出している間に、いつの間にか事が進んでいた。歓迎会なんてわざわざ開いてもらえるなんて、少し嬉しかった。

 自分の力がまた誰かに認めてもらえた、その事実は俺の心を喜ばせた。


「ヒスイ様も、ただいまお部屋の準備を致しますので、中に戻りましょう」


「あ、はい」


 もうかつて旅した世界には戻れないかもしれない。だけどこうしてまた新しい場所に巡り会えた。それが運命なのかまでは分からないけど、きっと誰かが俺を必要としてくれたのだろう。


「ノブナガさん」


だったら俺は、その気持ちに応えたい。この力で。


「何ですか?」


「俺絶対に頑張りますから」


 決意を新たに、俺の新しい旅は始まりを迎えようとしている。

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