2 獣の生まれた理由

「――浮気!?」

 裏口近くの廊下を歩いていた時、外からひねりの声が聞こえてきた。

「バカ、声がでかい!」

 負けず劣らずでかい声は、おそらくユイ。

 俺は足を止め、ドア越しに外の会話に聞き耳を立てた。

「だって、あのアキ先輩が浦野先輩と……」

 ひねりは声をひそめたが、ユイは変わらぬ音量で答えた。

「本当なのよ。目撃情報だってあるんだから」

「それって、浮気の現場?」

 半信半疑な口調のひねりに、ユイは力強く言った。

「そうよ。なんでもアキさんから誘ったって話よ」

 アキと浦野の浮気――か。

 俺は苦笑する。

 そんな噂などとっくに知っている。事実あいつらには肉体関係があるんだから、噂になっても仕方がない。

 ――そして、まさにそれこそが、俺に殺人犯となる事を決意させた原因……。

 俺は頭を振ってその場を去る。

 そう、俺にははっきりとした動機があるのだ。だからこそ完璧な工作をする。

 ……自分が犯人である事を隠すために?

 いや――。

 俺はほくそ笑んだ。

 ――楽しむために、だ。

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