第13話「コピ・ルアックの受難04:だって猫は気まぐれだし」
(承前)
簡単かどうかはともかく。
先の「電子経済戦争」で敗戦した結果を受け、防衛力以外を解体される運びとなった〈東海連邦〉宇宙軍は、当然ながら保有する航宙艦船も大規模に処分された。
1/3は戦勝国である〈関東合衆国〉に譲渡が決まって、防衛戦力として再編される1/6は残留させたが、全体の1/2の約200隻の航宙艦は他国の軍隊へと売却されることになったのである。
売却方法は競売で、入札は非公開、なおかつ各国の軍に限定されていた。
そこで、
その際に、船籍を〈ピークォット(Pequod。白鯨でエイハブ船長が乗っていた捕鯨船の名前。ピークォドとも)〉に書き換えて、現在の所属にしたのだった。あとは受領書を適当に作り上げて直接受け取り、請求自体は〈白浜九州連邦〉に送られるように仕向けると、自分たちはまんまと逃走したのである。
それにしても腐っても正規軍の艦船である。ポテンシャルだけはずば抜けて高くても、商用運用ベースである〈コピ・ルアック〉とは基本が違っていた。だが、それだからこそ、
まるたちは吟味したうえで、ブリッジから遠い空いている船内ブロックに実体化した。空気中でワープシェルを解除した際に起きる、押しのけられた空気による風の衝撃はあったろうが、敵の運用の隙を突いたはずで、気付かれるまでには若干の時間的余裕がある筈だった。〈
だが実際は、内側の空間が折りたたまれているため、実質80mほどの大型艦載艇なみの容積を持っている。だから、7人+3匹でも余裕はたっぷりだった。
「さて、現在時刻は〈コピ・ルアック〉襲撃の30分前ね」
「ねえまる。大丈夫? もう少し前に戻った方がいろいろと改変できるから、安全性が上がるかもと思うんだけど」
神楽が心配して聞いてくる。
ラファエル副長は肩をすくめる。
「船長と「ふぇりす」が相談して決めた時刻でね」
『「ふぇりす」? 「ふぇりす」って〈コピ・ルアック〉の頭脳?」
『はい、私が「ふぇりす」です。〈コピ・ルアック〉搭載コンピュータのコア部分で構成されているサブモジュールコンピュータです』
いきなり白猫が喋り出して、神楽はちょっとびっくりした。
「……いきなり猫が増えてるわね。まる船長以外に……2匹?」
「気にしちゃダメ。2匹とも猫に見えるけど、実体は知性を持ったコンピュータだから。でも、あくまでサブセット。うちの本来の
2匹はちょっと抗議の視線をまるに送ったが、まるは平然と流した。
「さて、やるべきことはいっぱいあるわよ。作戦開始しましょ」
§
当日、
ただその作業の中で、神楽コーポレーションのサーバーだけは、誰の趣味だか相当に高いセキュリティ対策が施されている独立サーバーだった為、彼も苦労させられた。
だが、神楽コーポレーションは〈コピ・ルアック〉と最も密接な情報のやり取りをしていたので、
その間も、駆逐艦〈ピークォット〉の整備、クラック用プログラムの開発など、様々なタスクを
そして、コピ・ルアックの運航スケジュールを確認し、物理的接触のタイミングをうかがっていたのである。
まるたちが戻ってきた時間は、まさにその物理的接触を行おうと待ち伏せしていた時間だった。
「私たちの目的は3つ」
まるはぐるぐるとせわしなく歩きながら言った。
「一つはこのエイハブ野郎にうちの船をクラックさせないこと。正確には、ダミーを用意してクラックさせて、あたかもクラックが成功したかのように見せかけること」
まるがそういうと、「ふぇりす」が自信満々に応える。
『その点に関しては、準備は万端です。この船のネットワークにアクセスできれば何とか出来ます』
まるは頷いて、続きを話した。
「二つ目は敵の攻撃開始の1分前までにこの時間線の私たちに事前に危機を知らせること。
「最後は、今の私たちがこの時間線の私たちに
この件に関しては秋風技術部長が自信たっぷりに口を開く。
「この2点に関しては、
「ふむふむ」
よく分からない
「〈
まるは眉をひそめて聞き返した。
「ただ?」
「
「ええ、ほとんど魔法のような技術よね。おそらく
「ただ、
「あら?それは知らなかった」
まるは、前回こういう仕組みを細かく知らずに
「あ、でもそうすると、いちいち現在の位置まで送り届ける必要があるのかしら?」
「そうなりますね」
まるはちょっと困った顔をしてイライジャと神楽の方を見た。
「この二人をあらかじめ
「ええ、それは問題ないようですね、マーカーを分離できるようです」
「あとは現在地までの時間ね……足りるかしら」
イライジャは眉をひそめて尋ねた。
「さっきから聞いていれば、ブレンドだのヒモだのと。何の事だ」
<むー、私だってこんがらがってるんだから。余計な手間かけさせないでよ>
「あのねイライジャ坊や」
「ぼ、坊や?」
「私たちは過去に戻ってきてるんだけど、現代に戻ったら、この時間線の自分たちが居るの」
「お、おう」
「でも、旅行の結果は伝えたいわよね?」
「そりゃ、その為に来たんだし――」
「そこで、そこら辺の辻褄をこの〈
「そ、それは面倒だな」
「そうしないと、新旧の時間線の自分が同時に存在する状態のままになっちゃうわけよ。おっけー?」
まるは捲し立てた。イライジャはちっこい猫に完全に気圧されていた。
「お、おう」
「じゃあ、タイムラインとしては……少し時間経っちゃったので28分以内にクラッキングを済ませたら、脱出して時間線を戻って、元の時間の10分前に戻ったら、〈キングハウンド〉と〈桜扇子〉にイライジャと神楽を返して、5分前までに〈コピ・ルアック〉に戻る。と。これでいいわね」
計画を説明すると、「ふぇりす」からツッコミが有った。
『改変時間線に戻ることになりますので、不測の事態への対応で30分前に戻った方がいいかと思います』
「そうか……そうね、では30分前に戻る。私と「ふぇりす」はこれからクラッキングのために艇の外で活動するわ」
全員が
「小峰と渡辺は援護に来て。〈
「了解です」
「では、作戦開始!」
§
猫二匹が隠密活動をしている様は、まるで野良猫が縄張りの外をおっかなびっくり歩いているようだなぁ。
と、まるが想像していると、「ふぇりす」が気にかけてきた。監視カメラなどのセキュリティを避けるために配線区画の中を這いまわっていると、特にそういう感じがした。
『船長、何かありました?』
「大したことじゃないわ、敵もまさか侵入してるのが猫とは思わないでしょうねと思ったら可笑しくて」
『ふむ、外見上はそうですね。ところで、現状ではまだコンピュータにアクセスできる端末と遭遇していません。探索速度を上げないと間に合わなくなります』
淡々とした返事に、結局「ふぇりす」は
「そうね……ブリッジに直接行けば当然アクセスは出来るけど、それは無謀以上の何物でもないから却下よね。どこかにアクセス可能な端末があるか、もっと効率のいい探索法はあるかしら」
『それでしたら、私が分裂すればいいでしょう』
言うが早いか、「ふぇりす」は8匹の小さな猫に分裂した。
正確には「ふぇりす」の猫型
「う、いいんだけど、そのままの形で分裂はやめて。気持ち悪いわ。せめてもうちょっと仔猫っぽく」
『効率上は特に関係ないのですが、了解しました』
分裂した「ふぇりす」はわんぱく盛りの仔猫のような外見になった。
ついでにそれぞれに柄がついて、白、キジ、鯖トラ、トラ、八割れ黒、八割れ茶、サビ、黒ネコになった。
『では、探索に行ってきます』
仔猫は白猫1匹を除いてばっと四方に走り去っていった。
『船長はここでしばらくお待ちください』
<仔猫にして、とは言ったけど、何だか子供を使役しているみたいで気が引けるわね>
自分の発言をちょっと反省しつつ、まじまじと仔猫を見つめた。そして、どうも「ふぇりす」――というか、たぶん
『あ』
白い仔猫が声を出す。
「見つけたの?」
『いいえ、探査体の一体が敵の監視に引っかかりました』
「あちゃあ」
まるは顔に前足をのせた。が、ふと問題を思い出して「ふぇりす」に伝えた。
「絶対に正体を見抜かれない様にして。あと、探索は更に急ピッチでね」
§
「船内で仔猫が発見された」
だと?
乗組員は全員身に覚えがないそうだ。
彼らが引き受けたときからすでに船内に居たのだろうか。
いや、それも考えにくい。数週間エサ無しで過ごしていたことになる。いやそれとも、エサを含め、知らない荷物が船内に残っていた可能性はどうだろうか。もしそうなら厄介だ。
仔猫は暴れていたそうだが、乗組員が鶏肉を与えたら大人しくなったらしい。
エサを食べる年頃の猫、だという事は、一匹で紛れ込んでいた可能性もある。よく分からないな――。
「まあ、大事の前の小事ではあるか」
他の乗組員に後の事は任せて、クラッキング用プログラムの調整を進めよう。そう決心する
§
『敵に捕まった八割れ黒の
「上手く誤魔化せると良いんだけど」
通信機をシークレット・ポシェットから取り出して回線を開く。
「こちら船長。渡辺君、そちらの調子はどう?」
やや間が有って返事が返ってくる。
『こちら渡辺と小峰。敵乗組員は初期の観測通り
「敵が少なくて何よりね」
『ですね。一人は「ふぇりす」の小型探査体の世話をしていますし、
「自動端末?」
『はい、警備用の攻撃能力を持った自動端末が結構巡回していますね。干渉し過ぎるとこちらの存在がばれてしまうので、詳しい数は把握できていませんが、200体くらいは居そうです。いざという時は敵を殲滅して――と云う作戦は難しそうですね』
「それで少ない人員を補っているわけね。それにしても、たった6人の船に〈コピ・ルアック〉がしてやられたというのはちょっと癪よね――。よし、お疲れ様。2人は一旦〈
『お役にたてず済みません』
「その情報だけで充分よ。私たちはここでドンパチやるために来たわけじゃないもの。とにかく敵に見つからないようにね。後の活動は私と「ふぇりす」で何とかするわ」
『船長、そのことなのですが』
会話に「ふぇりす」が割って入る。
『船内ネットワークへのアクセスに成功しました。ただ、こちらが標的にしているツールを
「なによそれ。攻撃の直前までファイル弄ってるんじゃないわよ。納品ギリギリまでプログラム弄ってるゲーム会社じゃあるまいし」
「これは、どこかで陽動をして敢えて軽く警戒させて、ファイルを閉じさせるしかないかもね。敵からの攻撃と思わせずに……」
ファイルを閉じたくなる……と云うと、コンピュータの不調を感じるとか、電源の不調を感じるとか。船の危険を感じるか。
「現在のこの船の状況は?」
『〈コピ・ルアック〉の航路に向けて速度を上げて接近中です』
まるは戦術を吟味していた。ん?そういえば――。
「この船の船内標準時は分かる?」
『はい、現在11:45。もうすぐお昼ですね』
「やっぱり。仔猫に餌を与えたって云う話で食事の時間が近いと思ったわ」
『全員で一斉にお昼を取るわけではないようですので、たぶん巡回中の二人が食事を運んでくるのだと思います』
「船内カメラをハックして確認して」
『はい、既に確認中です。……ブリッジに向かって食事を運んでいますね』
「よし。じゃあ私たちは何もせずに待機よ」
こっちもお腹が空いたわねーと思いながら、じっと待機する。
『軍用糧食パックを持ってブリッジに入って行きました。あ、でもファイル編集を閉じないまま食事を始めるようです』
「お行儀の悪い子ね。ママにお仕置きをして貰わなきゃ。ブリッジの端末に干渉できる?」
『はい、システム全体を掌握しているわけではありませんが……』
「十分よ、彼の弄っている端末以外のどれかの端末をバグっぽい表示にして」
『了解。メモリ不調を装ってアクセス。アクセス痕跡は消去しました』
§
「何だ、どうした?」
「分かりません。マシンの不調かも」
「急いで調査しろ」
彼はちょっと不安になって編集中のファイルを保存して閉じて、食事を再開した。
「航法コンソールのメモリの不調のようですね。使用するモジュールを切り替えます」
大事の前の小事――とはいえ、重なるのは不吉だな。
「巡回はもう一度精査しろ。
§
『ファイル閉じられました、クラック開始。複雑ですので1分ほどかかります』
「相手に気取られないようにね」
「後、船内の警備レベルが引き上げられたようです、この艦内配線用の空間もそろそろ危ないですね」
「
『クラッキングを行っている
「端末を残して撤収したらまずい?」
『現在戻ってきつつある分だけで充分です。残った分はただのナノマシン端末ですから。分解してしまえば追跡できません』
「了解、じゃあクラックしている端末は自壊するようにして。捕えられている端末は、私たちが去っても形状と単純な動作を保持できるようにできる?」
『動作は単純になりますが可能です。現状眠った振りをさせていますので、そのまま維持しましょう』
「ふぇりす」の仔猫端末たちが走って戻ってきた。
『合流、クラック共に完了しました』
「よし、撤収開始」
まると「ふぇりす」の仔猫たちは、配線用の空間を伝って〈
§
まるたちは倉庫の上の配線用スペースから
わたらい》
「戻ったわ、ハッチを開けて」
見えない空間にパカッとハッチが開いた。
「お帰りなさい、船長」
ラファエル副長が顔を出して、二人を迎え入れた。
「ただいま。守備は万端よ。さて、急いで脱出するわよ」
ラファエルたちは、まるに続いてぞろぞろと入ってくる仔猫に目を丸くした。
「まる……さん?」
「何?……やだ、私の子じゃないわよ。」
「ふぇりすですー」
仔猫たちは一斉に答えてニャーと鳴いた。
彼らは船内で持ち場につくと、次元時空エンジンを始動した。
§
〈キングハウンド〉のブリッジでは、〈コピ・ルアック〉の救援について、神楽とイライジャの丁々発止のやり取りが続いていた。
「
「あら、初対面の女性に対しておまえ呼ばわりとか。私イライジャ様の奥方ではございません。幼年学校からやり直した方が宜しいのではないですの」
このやり取りに吹き出すイライジャの部下たち。
きっ、とイライジャが睨むと真っ青な顔で圧し黙る。
「じゃあ言ってやるがね。まるの姉御が敵わない相手に、俺たちがどう立ち向かえばいいっていうんだね。正直手も足も出ずに損害だけ出して敗走というのが目に見えているだろう。だから……おお?」
「……戻って……来たのよね?吉田?」
「はい、現在は救援に向かおうというお話の時点ですね」
3人は時間旅行から
「おい、女社長とその部下、さっさと自分たちの船に戻りな。おいヒューゴー、この件については片付いた。あとで説明するから船を回せ、まる姐の救援に向かうぞ!」
「分かってるわよ、さあ吉田、私達も救援に向かうわよ」
§
まるたちはイライジャ、神楽、吉田の3人をまず自分たちの船に戻した後、自分たちの船に近づいていた。
『FERIS《フェリス》に、敵からのクラッキングの際にメッセージが伝わるようにしてあります。ここの船長たちはその指示に従って、やられた「フリ」をしている筈です』
「おっけー。……あでも、それだと船の損害は……」
『安心してください、対策済でそちらも大半はフェイクです、損害は軽微ですよ』
「よし、それ聞いて元気が出たわ。さあ、
§
〈コピ・ルアック〉内は停電しているフリをしていた。
もちろん船員は退船していない。
「よし、時間旅行から帰還したわ。ドーラ、敵艦位置を補足して」
「既に捕捉しています。いつでも砲撃できます」
「敵はこちらを掌握していると勘違いしているのよね?」
『こちら
「面白いわ。暫く敵の為すがままにしてみましょうか」
まるは多分、自分はチェシャ猫のような顔をしているんだろうなと思った。
§
多少の抵抗は覚悟していたが、まるで赤子の手をひねる様に、かの船が手に入りつつあった。
「艦長、接近しつつある船が有ります」
「確認しろ」
「宙賊の類のゴロツキの船ですね。もう一隻、商船も近づいています。其方は船籍を確認。〈神楽コーポレーション〉の〈桜扇子〉です」
「ほほう、こちらのクラックにでも気が付いて救援を呼んだか。もう遅いがな」
そういいながら
「よし、こいつを使おう。接近する宙賊船に〈コピ・ルアック〉の重核子砲の照準をセットしろ」
§
『敵は本船の火器を使って〈キングハウンド〉を攻撃するつもりのようですね』
「その通りにしましょうか。ただし狙いは駆逐艦〈ピークォット〉の動力部。出力は最低で」
ドーラもにやりと笑いながら操作する。
「準備完了」
『ドーラに敵からの発射信号を回します』
「トリガー来ました、発射!」
〈コピ・ルアック〉の重核子砲が一閃して、駆逐艦〈ピークォット〉のナセルを破壊した。
§
「何故だ! 〈コピ・ルアック〉は完全に掌握しているはず――」
「艦長、沈黙しているはずの〈コピ・ルアック〉から通信が!」
「なに! ビュアーに回せ!」
『こちら独立武装貨物航宙船〈コピ・ルアック〉、船長のまるよ』
ビューアに出たのは一匹の三毛猫。
「ふざけてるのか、ラファエル船長を出せ!」
『私は副長です。当船の船長はまるさんですよ。クラッキングしててそこら辺の情報も得てないんですか?』
通信の画面では、にこやかにラファエルが横から顔を出す。
「何……だって……どうやって船の制御を――」
『当船は最初から制御など奪われていません。制御を奪われているのは旗艦の方ですわよ?』
「畜生、コピ・ルアックの動力をねらえ!」
「ダメです、当艦の火器の制御は敵船に掌握されています!」
『はい、チェックメイト』
「猫……猫だと? まさか!」
『あ、あの仔猫はもう寝てるだけの玩具だから。世話しなくても大丈夫よ』
「何……ってこった……」
§
〈東海連邦〉の警備宇宙軍に〈ピークォット〉を引き渡す際、まるは
「猫の船長――」
「ええ、内緒の船長やってますのよ」
「諦めないぞ。この程度の事ではな」
「残念ながら無理だと思うわ。幾らあなたが天才クラッカーだからと言っても、あらゆる電子回線を使わない、破壊も困難な牢獄から、どうやって脱獄するつもりかしらね。エイハブ船長さん♪」
「なんだと?」
「食糧の自給自足機構つき小惑星に、略式裁判で禁固1000年ですわ」
「略式裁判!?」
「羽賀参事官、宜しければ説明お願いできます?」
やって来たのは、
「どうも、大和通商圏の筆頭参事官を務めております。羽賀です。このたびは独立武装貨物輸送船〈コピ・ルアック〉から星間略式裁判の申告を承り、判決を出しました」
「そんな出鱈目が通用するか!」
「参事官特権、並びに銀河第三渦状腕調停組織特権を使いましたので」
「無茶苦茶な――」
「そうでしょうか? 〈東海連邦〉の裁判ですと、今回の件、死刑は免れませんよ? 軍の艦船の略奪と不法な行使、数々の対外国へのクラック行為など、余罪は数えきれません」
「ただしね」
まるが口を開く。
「恩赦条件が有るのだけど」
「は?」
「銀河第三渦状腕調停組織では、優秀な技術者を欲しておりまして。条件次第ですが」
「何でもいい、話してくれ!」
「人類辞めてくださいます?」
「……ぐ……はっ」
その後の話し合いは、羽賀氏と
ちなみに、
「結果として、よかったのかしら」
まるは〈コピ・ルアック〉の船長席で顔を洗いながら言った。
「まあ、敵じゃなくなったのですから、良いのではないでしょうか?」
ラファエル副長は少し微笑みながら答えた。
「そうね、羽賀さんも優秀な部下が手に入ったことだし」
「でも、なぜ羽賀氏を呼んだりしたのです?軽減したとはいえ、損害も受けた相手でしょう?」
「さあ? 私が猫だからかもね。だって、猫って気まぐれじゃない?」
まるは顔を洗う手を止めて、コンソールに向かった。
「さて、本日は〈蝶の翅太陽系〉の「ピンイン」からの注文の品を届けに行くわよ」
「ワープシェル、いつでも展開可能です」
「じゃ、向かいましょうか」
今日も〈コピ・ルアック〉の忙しい日常は続いて行くのです。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます