第12話 後片付け
「そろそろローリアが来てしましますし、汚れてしまったところだけでも片付けましょうか」
デシアーナさんが服の乱れを直しつつ提案してくる。
「そう……ですね」
顔を見るのが凄く気恥ずかしい。
気の向いたセリフでも言いたいが何も出てこない。
「とは言ったもののどうしましょう」
デシアーナさんが周囲を見回した後、諦め顔で告げる。
部屋の大きさは感覚的にだが12畳ほどはある、それが一面芋の海だ、ローリアさんに知られないように片付けるのは打つ手無しなのだろう。
「スキル暴走させたばっかりで申し訳ないんですが、コンテナを出してその中に入れていくというのは……駄目ですか?」
「コンテナが飛んで行って壁を壊しちゃったりしませんか?」
「飛ばさないようにはできます、すでに何度か試しました」
スキルの使用禁止を無視していた事を話してしまうのはためらわれたが、この際正直に話してしまった方が良いだろうと判断した。
「出したコンテナが大きすぎたりして状況が悪化したりしませんか?」
「大きさもコントロールできます」
「これ全部収納できるんですか?」
「いくらでも入りそうな気がします」
「他に手もなさそうですし、お願いします」
許可が出たのでスキルを使って芋の海の上にコンテナを出現させる。
最初はティッシュ箱程度の大きさのコンテナを出して、芋が潰れてしまわないかを確認しながら、徐々に大きくしていった。
コンテナを出して、二人で芋を入れて、コンテナを回収してを繰り返す。
スキルコンテナをまともに収納スキルとして使ったのは初めてじゃないだろうか?
収納用のコンテナは回収さえしてしまえば重さも感じないし便利だ、回収したコンテナは倉庫にしまっているイメージで処理する、その倉庫には重力も物理的な制限も無いし縮小もできる、再度出す時には元通りになるけども。
「そう言えば、結構大きな音がしていたと思うんですが、誰も来ませんでしたね」
「えっ、私の声そんなに大きかったですか?」
デシアーナさんの手を口に当て、顔を再び朱色に染める。
声の大きさだとか気にしてる余裕なんて無かった。
思い返しても、かなり響いていたような気もするし、小さかったような気もするし、どっちだかよくわからない。
「声は可愛かったと思いますが、そうではなくてコンテナから芋が飛び出した時の音が大きかったと」
デシアーナさんが照れたまま少しはにかんだ表情になって、俺の頬を指でつついてきた、可愛かったと褒めたのは正解だったのだろう。
「この部屋は防音設定を切り替えられますからね、今は外からと内からの両方を防音設定にしてあります。
ドアをノックする音だけは聞こえますし、私が出向かなければならない事があればミリアから連絡が来るようになっています」
デシアーナさんが手首のリボンのようなものを見せてくる。
「このリボンに魔力を通すと、セットになっているリボンが共振するようになっているんです」
スマホや携帯とは比べるべくもないが、それなりに便利そうだ。
転移前の世界では、屋外でなら旗信号や狼煙などが古くからあったと思うが、屋内で壁越しの通信となると近代的なイメージがある。
足元が見える程度には片付いた頃、コンコンとノックの音がした。
「ローリアです、お食事をお持ちしました」
「どうぞ、足元に気を付けて下さい」
「足元? ……ひゃっ! 何ですかこれ?」
「芋です」
「スキルの実験に失敗しまして、この事は内密に」
俺の端的な一言にデシアーナさんが補足を入れ、秘密にするよう告げる。
他の人に知られたら不味いんだろうか? 不味いんだろうなあ。
「片付けるのでローリアも手伝いを頼みます、コンテナさんもまたスキルをお願いします」
三人で片付けたら思いの外早く終わった。
その後、調理室に行き両手で抱えられるサイズのコンテナを芋が詰まった状態で空いているスペースに設置すると、木製のかごに移し替える。
もちろん綺麗なのを出した。
早速、翌朝から朝食の食材として使ってみるようだ。
「ところで芋って高いんですか?」
「食料品はどれも高騰していますが、芋はまだ安い方ですね、それでもかご一杯に銀貨10枚の値段にはなっていたはずです」
「デシアーナさん、昨日は銀貨15枚まで上がってましたよ」
デシアーナさんが両手を体の横幅と同じぐらいに広げて答えたが、かごの大きさを表現しているというより胸の大きさを強調しているように見えた、それをローリアさんが手をちょいちょいとやりながら値段を修正する。
流通している硬貨には種類があるらしいが、最も普及しているものでは、金貨1枚で銀貨100枚の交換レートになる。
兵士の給金として金貨4枚貰ったけど、安いという芋がそれほど高いなら一人分の食費だけで全部無くなってしまいそうだ。
俺が金貨1枚で出せた芋は500杯分ぐらいはあるしまだまだ出せそうだった。
最低でも50倍以上の量にになるのか、もちろん売れば値下がりするだろうがそれでも一気にお金持ちになれるだろう。
当分はデシアーナさんにお任せするつもりだけども。
「高いですね……それって、かなり危ない状況なんじゃ」
街で見かけた人はそれほど痩せているような感じでは無かったが、どうやって食糧を確保してるんだろう?
「遠征さえ上手くいけば狩りに人手を回せるので食糧不足も落ち着く見通しなのですが、南側の街道から外れた村などはかなり厳しいことになっていますね。
なので早速明日から食糧の供給をお願いしてよろしいでしょうか?。
買い取り価格はかなり安くなってしまうので申し訳ないのですが、自由にできる資金も余裕は無いので無理を承知でお願いします」
「食糧の供給はかまいませんが、買い取ってもらえるんですか?」
仕事中に生産したものだし給金以外にお金がもらえるとは思っていなかった。
ここで断っても自分で売りに行くこともできないし、仮に売りに行けたとしても大量に売ると騒ぎになりそうだ、犯罪に巻き込まれない保証も無い。
デシアーナさんも俺に選択肢が無い事をわかっていて聞いているのだろうが、申し訳無さそうな表情は嘘じゃないと思う。
「状況にもよりますが、兵士が職務中に得た成果物は市価の二割程度で買い取る事になっています。今回はそれよりも少なくなってしまいます、もちろん功績としては報告させていただきますが」
「全部お任せしますよ」
「ありがとうございます」
デシアーナさんがほっとしたような笑顔になった。
今はまだ照れ臭くて言えないが、そのうち「報酬はデシアーナさんの笑顔で充分」だとか言ってみたい。
デシアーナさんとは台所で別れて、部屋へ帰る途中、ローリアさんがニヤニヤしながら近寄ってきたので、何だろう? と思っていたら、
「デシアちゃんは良い子だから大切にするのよ、街の人にはファンも多いからもし泣かせたら酷い事になるわよ、私は応援してあげるから頑張りなさい」
、そんな事を耳元で囁かれた。
何故ばれてるのか?
ともあれ、二人で慌てて片付けたのは無駄だったらしい。
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