第4話 大きな犠牲

「俺はカッシュっていうんだ、今は臨時で兵士をしているが普段は麦を育てたり野菜を狩ったりして生活してる、お前が活躍したら人参わけてやるから頑張れよ」


 カッシュさん……カッシュでいいや、は馬鹿力で俺は腕を引っ張られ連れ出されてしまった、今は街中を会話しながら走っている。

 命を賭ける代価が人参か、安いな俺の命。


 んっ?


 野菜を狩ったり?刈ったりじゃなくて?

 というか、両方「かった」と聞こえているだけなのだが「狩った」という言葉の意味までもが理解できてしまっている、さすが異世界というべきなのか、変な翻訳機能が働いているのかもしれない、実に都合がよろしい。


 野菜を狩るってなんだろう?すごく気になる聞いてみよう。


「野菜を狩っているんですか?畑から引っこ抜いたり刈り取ったりじゃなくて?」


「なんだ、流れ人はそんなこともしらないのか、今は魔神がいるからよお、畑で野菜は育たないんだ、麦ぐらいなら育つが収穫は今一良くないな、俺が子供の頃は倍はとれていたんだが……畑で野菜は育たないんだが代わりに身体から野菜を生やした獣がわくんだ、そいつらから野菜を収穫しているってわけだ」


 おう、なんてファンタジーな、耳から人参生やしたウサギとかいるんだろうか?それは見てみたいな。

 魔神は見たくない、いや魔神とか美女だったりするのがお約束だ、美女は見たい。

 美女じゃなかったら幼女かもしれない、野菜が嫌いだから野菜を魔物に変えて逃がしてるとか、幼女魔神、とてもお約束的存在だ、一家に一柱欲しい。



 ☆ ☆ ☆



 カッシュと会話をしながら、街の中をしばらく進むと、街の一部を囲むバリアのようなものに体当たりしている羽の生えた黒い人型の生き物が見えた。

 バリアに魔族の身体が触れるたびにバチバチと音が鳴り、煙が吹き上がり見ている限りは痛そうなのだが、魔族が気にしている様子は無い。


 あたりには弓を持った兵士や、狩人と思われる者が数人いるが市民の避難がまだなのか、はたまたバリアがあるせいで内側からも手出しできないのか見ているだけである。


 更に進むとデシアーナさんが数人の兵士に指示を出している様子がうかがえた、なぜにメイドのデシアーナさんが指揮をとっているのか? と気になったが、こちらを見ると慌てた様子で駆け寄ってきた。


「何でコンテナさんがここにいるんですか!? カッシュ、あなたが勝手に連れ出したんですか?懲罰ものですよ!」


 デシアーナさんが俺を無理矢理に連れてきたカッシュさんに詰め寄る。


「はっ! 隊長代理どの、本人がどうしても力になりたいと申しまして」


 隊長代理? メイドが隊長代理をするとかこの世界はおかしい……いやいやそれよりも

 おいコラ、カッシュしれっと嘘を吐くな!

 怒鳴りつけてやりたいが、このカッシュお調子者みたいだがムキムキなおっさんなので敵に回したくない。

 黙っていよう。


「はー……コンテナさんは市民登録もまだですから一人で魔法障壁に近づくと危ないですよ、怪我をされても困りますので魔法障壁の内側で待っていて下さい、スキルは使わないこと、あなたのスキルは直接見たわけではありませんが報告を聞いた限りでは街中で使うには危険すぎます」


 市民登録、魔法障壁に近づくと危ない、覚えておいて後でちゃんと聞かないとな、重要な事だと思うのだが説明不足が多すぎると思う……領地のトップが領を離れていたり、兵士が臨時雇用されていたり、メイドが隊長代理していたりするぐらいだから人手不足なのだろうが、なんか事件があったのだろうか、考えたくはないが戦争でもしているとか?


「そうですね、僕もあれに当てる自信はありません」


 魔族はビュンビュン空を飛んでて素早い、コンテナの『投射』をしたのはミリアーナさんの家が不幸な事故にあった一度きりである、空を飛んでいるものに当てる自信は無い。

 今のところ「スキルスタート・コンテナ」と詠唱しなければならず連射が効かない。

 更に言えば後ろにある民家を破壊してしまいそうだ。

 破壊してしまったら俺にできるのはコンテナとの『融合』でしかない、家具も一緒に再生できてそれは取り出せるが、外壁なんかは一体化しちゃっててどうしようもない、生き物が中にいる間は入り口を閉めれない、窓をつけたりとか融通は利かない、不幸な事故を繰り返すわけにはいかないだろう。


「そろそろ、魔法障壁の魔石がもちませんね、今から私があの魔族を倒しに行きますがくれぐれも勝手はしないように、カッシュはコンテナさんのそばについていなさい」

「はっ! 隊長代理どの、了解であります!」


 臨時兵士なせいか、カッシュの返事はやたらと芝居かかっているな。


「あれ、倒せるんですか?」

「暴走状態も長いようですし弱っているのでしょう、あの程度なら、まあ何とかなるでしょう」


 弱っててあれか……近寄りたくないな。

 胸の大きな美人さんを危険な目に合わせたくはないが、この世界のメイドさんは強いのかもしれない、邪魔をせずゆっくり見学させてもらおう。


 ☆ ☆ ☆


 デシアーナさんが着ているメイド服のスカート丈は膝がギリギリ隠れない程度、ハイニ―ソックスを履いており地肌は完全に隠されている。

 デシアーナさんはスカートを少しまくり上げると、ガーターベルトからナイフを抜き、空中の魔族に向かって投げ放つ。


 太ももがちらり、と見えてドキリとする。


「ギャッ!ググッ!」

 左脇にナイフが突き刺さり、悲鳴を上げる魔族。


 デシアーナさんはそのまま走り出すと、二本目のナイフを抜き、魔族へ投げ放つ。


 太ももがちらり、ドキリ。

 全身の動きに少し遅れるタイミングで大きな胸が上下に揺れる、ドキドキ。


「「おおっ!すげえ!」」

 デシアーナさんの見事な投げナイフの腕前に、兵士達から歓声が上がる。


 二投目の投げナイフは、デシアーナさんの方向に向き直った魔族が腕を振るうと、腕から伸びた身の丈の半分程度の長さを持った白銀の刃に弾かれるてしまう。


 更に走るデシアーナさんは、続けて三投目を投げ放つ。

 もも、ちら、ドキ。

 むね、ぷるん、ドキドキ。


「「「うおおー! いいぞー! 何であれで行き遅れてんだ? やっちまえー!」」」

「私はまだ23です! 行き遅れてませんから!」


 デシアーナさんの見事な投げナイフの腕前に、兵士達、避難したはずの民衆、そして俺から歓声が上がる。

 不穏な声には、即抗議のデシアーナさん。


 三投目も魔族に弾かれるが━━━


 バチッ! バチバチバチバチ!

「ギッ! ギエアアアアアー!」


 ━━━魔族の腕から伸びた白銀の刃がバリアに接触すると、魔族はひときわ大きな悲鳴を上げて、二度、三度、バリアに弾かれながら地面に落下した。

 平気でバリアに体当たりを繰り返していた魔族だが、白銀の刃はバリアと相性が悪いようだ。


 デシアーナさんは落下する魔族の方角を確認すると、四本目のナイフを抜き再度走り出す。

 ももむね、ちらぷるん、ドキドキドキ。


 ナイフ多いな、邪魔になったりしないのか? いや、ナイフと取り出すときに見えた鞘は一本分しかなかった、マジックアイテムとかアーティファクトとかみたいなものかな? 無限にナイフが取り出せるとか? カッコいいな、いいな欲しいな。

 あの太ももとか胸とか欲しいな。


 落下した魔族に接近するとデシアーナさんはナイフを振るう、振るう。

 魔族はナイフで切り付けられながらも体制を立て直し白銀の刃でナイフを受け止める。


 デシアーナさんはなおもナイフを振るう、振るう、振るう。

 魔族は白銀の刃でナイフを弾く。


 手数はデシアーナさんの方が多く押しているようだ、がしかし、切り付けられた魔族の傷は白い煙とともに治ってしまっているようでダメージと回復が拮抗しており倒しきれないでいる。


「チッ! 意外としぶといですわね、仕方ありませんか……スキルリリース・リスパルミアーレ!」


 デシアーナさんが左手を胸に当て詠唱すると、その姿は光の粒子につつまれ━━━

 ━━━光の粒子はデシアーナさんの背に集まり翼をかたどり、

 ━━光の粒子はデシアーナさんの右手に握られたナイフに集まり輝く光の刃をかたどり、


 ━そして、デシアーナさんの胸にはあるべきものが無かった。


「ああ……なんてこった……」

 誰かが絶望を漏らす。


「……なんで……なんでこの景色には絶望しかないんだ……」

 誰かが絶望を漏らす。


「それを捨てるなんてとんでもない」

 誰かが絶望を漏らす。


 気付けば周囲の誰もが膝を地面についていた、泣いているものさえいた。

 デシアーナさんが光の刃を縦横無尽に振るう。

 メイド服胸部の余った布が悲しく揺れる。

 刃を振るう音は無く、魔族は悲鳴を上げる間もなく無数の光の粒子となって消えた。

 かくして辺境の街は平和を取り戻した。

 あまりにも大きな犠牲を払って。

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