第3話 兵士の覚悟

 結局、ミリアーナさんには謝り倒して許してもらうことができた。

 いや、許してもらえたというより諦めてもらえたというのが正しい。

 一か月もすれば辺境伯とかいうお偉いさんが帰ってくるそうで、そうしたら経緯を説明して補償金を出してもらうそうだ。

 今日のところは兵士が交代で入り口の見張りについてくれるとのこと、詰め所のすぐ近くなので負担も少ないだろう。


 宿泊施設は無いのかと思い聞いてみたが、ミリアーナさんかデシアーナさんのどちかが、詰め所にすぐ駆け付けられる場所にいなければならないらしく、デシアーナさんが近くの寮に住んでいるとはいえ何かあった時の為にミリアーナさんも近くにいるのが望ましいらしい。


 コンテナになっちゃったミリアーナさんの家に関しては、すでに俺のスキルの影響下にあるので建物ごと出したり消したりができる、瓦礫も残らない。

 消している間はどこにいってるんだろうか?

 考えてもわかるはずもないので気にしないでおこう。


 今は食事も済ませてベッドの中で今日あったことや、スキルについてを考えている。


 考える。

 なぜ自分は元の世界に帰りたいと思わないのだろうか?

 記憶を失っており、このまま帰っても今より良い状況になるという確信がもてないからだ。

 それにスキルというものがあるこの世界の方が記憶を取り戻すには有利な気がする。


 記憶さえ取り戻せば帰りたいと思うようになるだろう、こちらの世界よりは元の世界の方が安全で豊かな生活を送れるのは間違いないだろう。

 なんたってトイレが壺なのだから、ウォシュレットと壺、あまりにも明確な文明の差だ。

 ちなみに壺にするのは嫌だったのでコンテナを使った、簡単に消せるから臭いも残らない。


 初めてスキルを有意義に使えたのがトイレか……壊れたミリアーナさんの家をコンテナ化したその時はチートを手に入れたと思ったのだが意外と使い勝手が悪い。

 有効活用するには検証と練習が必要だろう。



 ☆ ☆ ☆



コンコン


「コンテナさーん、起きて下さい、お食事をお持ちしましたよー」


「ふあーい」


 気の抜けた返事になってしまった。

 腕時計を見ると7時を回ったところ、この世界の時間にあっているかはわからないがこまめに確認すればある程度は時計としての役割を果たしてくれるだろう。


「初めまして、私はローリアと申します」


「初めまして、不本意ながらコンテナと申します」


 ローリアさんはほうれい線の目立つ少し年かさの女性だった。

 ミリアーナさんとデシアーナさんが着ていた青と白のメイド服とは違い、割烹着のような質素な服を着ていた。


「不本意ですか? 親しみのあるいいお名前だと思いますよ」

「親しみありますか……この街って港に近かったりするんですか?」

「いえ大陸の中央、内陸部ですよ、ファドーグ王国に港のある街はありませんね」


 港も無いのならコンテナへの親しみはどこから来たのだろうか?

 きっとお世辞の国とかがあってそこから来たのだろう。


 この国の名前はファドーグ王国というみたいだ。

 内陸部なら塩は高いのかもしれない、スープの味も薄かった。

 でもミリアーナさんが嫌がらせに塩水持ってきてくれたりよくわからんな、塩水はスープの味の調整に役立ったけど。



 ☆ ☆ ☆



 ローリアさんは食事が終わるまで待っていてくれた。

 食事が終わると今後の事について話があるということでついてくるように言われついて行ったのだが、部屋から出て少し歩くと何やら廊下の先が慌ただしい。


「慌ただしいようですが、何かあったんでしょうか?」

「聞いてきますね、ここで待っていて下さい」


 ローリアさんが廊下の先にいる兵士のところに行き、何やら話をした後、兵士と一緒にこちらへ戻ってきた。


「街の中に魔族が入り込みやがったんだ、何かの役に立つかも知れねえ、コンテナお前も着いてきてくれ」


「ええっ、魔族? それって危ないんじゃ……」


「おう! 市民が危ないんだ、俺達が守らないといけねえ! お前には遠距離攻撃ができるスキルがあるんだから自分の身は心配するな、間違って民家とか壊しても魔族がやりましたって言っときゃいい」


「ええー……」


 うわぁ……この人ひでえ……市民を守るといいながら失敗しても責任は無視するつもりか。

 昨日この世界に来たばかりの兵士でもこの国の人間でもない俺に無茶振りはやめてほしい。

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