第43話 冒険をしない冒険者たち
「二年間攻略されてない? どうしてですか」
試練の迷宮は難易度が高く、いくらはじまりの迷宮をクリアした才能ある者たちだとしても、一年に一、二グループといったところだろう。だがそう考えると、二年間もクリアする者たちがいなかったとすれば、それは少し不自然ではある。
「正確には、第八層ボスエリアで攻略は止まっているわ。第八層ボスはリビングアーマーの群れ。今はどうやっても勝てない。……だから、このトウザイトは現在、陸海空すべてが閉鎖されてしまっているのよ」
それはシオンにとってあまりに衝撃的であった。試練の迷宮といえど、攻略者はそれなりにいると聞いていたし、各階層ボスが討伐された後の『ボス不在期間』を利用すれば、最悪シオン一人でも試練の迷宮を抜けられる可能性すらあると考えていた。――いや、それは出来すぎた話だとしても、まさか二年間も攻略されていないとは想定外であった。
「あれ? でもなぜ急に第八層ボスが倒せなくなったんですか? 有力な冒険者が育っていないということでしょうか」
「……そうね、もう話してしまってもいいわよね。――リビングアーマーは鎧のモンスターよ。正確には鎧や武器を操る不定形の魔法生物ね。ちなみに試練の迷宮の一階層を除くほとんどは魔法生物系のモンスターよ」
そこで一旦区切ったアリーは少しの間目を閉じてから続きを話しはじめた。
「……二年前、ある冒険者パーティがそのリビングアーマーたちに挑んだ。彼らは実力もあったし装備も充実していた。間違いなく勝てるはずだった。そして実際にリビングアーマーを追い詰めていた。……でもそこで不運が起こった。病気の発作で前衛が突然倒れたの。それでも粘ったけど負担の増えた残りの前衛もまた倒れてしまった。仲間は一旦逃げるしかなかったわ。不運はさらに重なった。瀕死のリビングアーマーたちは彼らの強力な装備を新たな宿主としたの。もうわかるでしょう? ……力を得たリビングアーマーたちは冒険者たちを返り討ちにしてはその装備をさらに充実させていった。……今はギルドで挑戦することを禁止しているけど、遅かったわ。まさかリビングアーマーが最下層ボスすら超える強さになってしまうなんて……」
見てきたようにそう語るアリーの手は固く握りしめられていた。シオンは何となく、このエルフのお姉さんが関わっていることなのだと察した。そもそも、アリーもほとんど隠しとおせると思っていたわけではないのだろう。
迷宮のボスも生物であるため、戦闘経験を積んでいくことがある。逆に傷を負って弱体化することもある。
それでもその個体が一度倒されてしまえば、新たに生み出される個体は戦闘経験がリセットされている。つまりは多少の強さの変動はつきものなのだが、今回は特別なのだ。リビングアーマーと冒険者の強力な装備ががっちりかみ合ってしまい、
「八階層迷宮区まででレベルアップ可能なのは十九レベルまで。それ以上は敵が格下すぎて経験値がほとんど入らない……。気の遠くなるような数のモンスターを倒すか、七階層までのボスで稼げるわずかな経験値を貯めてゆくしかないの」
「レベルアップができないんじゃあ、さらにすごい武器や防具を装備していくしかないんじゃないですか?」
「そうね、それも一つの正攻法。でもさっきも言ったとおり、それで負けたらまたリビングアーマーが強くなる。挑戦は慎重にならざるを得ないわ。もっとも、それもあってこの街はドワーフによる鍛冶が盛んよ。外の技術の再現もしてもらっているし」
この島国は迷宮を通してしか、外との貿易が出来ない。その迷宮もそうやすやすとは越えられないため、もっぱら技術や知識を輸入する。それをこの島にいるドワーフなどの職人が再現するのだという。
シオンはそれを聞いて一安心した。熟練の職人がいるならば、折れた剣が直る可能性が高くなったからだ。
だが、先ほどのアリーの口ぶりでは他にも強くなる方法がありそうだとシオンは察した。
その意をくみ取ったのか、アリーが話しだす。
「もう一つは、上級クラス、つまり二次職への
結論を急いだのか、それとも口にするのも嫌なのか、アリーはその理由をぼかした。
だが、それではいけないと思い返したのか、眉間にしわを寄せながらアリーは再び語りだした。
「限界を突破するには、レベルを上げていくうちに自然と悟りを得て、上級クラスへと至る場合もあるにはあるわ。ただ、今のこの街ではレベルには限界があるし、確実とも言えない。そこで役に立つのが
サツキとジェットがいずれ必要になるからと言って金を貯めようとしていたのは、この造血丸を買うためであった。もっとも、二人はそれほど多くの金額を想定していたわけではない。たしかに一般的にも相当に高級なアイテムではあるが、この島ほど莫大な値段ではない。
「あなたは、主人がいる奴隷だからって安心していてはダメよ。捕まってひどい労働をさせられないとも限らないのだから」
「はい、ありがとうございます」
つまり、アリーは奴隷であるシオンの身を案じてここまで親切に教えてくれたのであった。
シオンは彼女の優しさに大いに感謝した。
その後、鍛冶屋の場所を教えてもらい、シオンは何度も丁重に礼を述べてから冒険者ギルドを後にしたのであった。
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