第15話 というわけなんです

「サツキというのは、私のひいおばあさまの名前よ。私が生まれたときには既に亡くなられていてお逢いしたことはないのだけれど、ひいおばあさまと同じ私の黒髪を見て、おばあさまが名前を付けてくださったのよ」


「いろいろと革命的な人物だったらしいな。転移者ということで、とにかく知識が豊富でいらっしゃったらしい。シドゥーク家の発展に大層、貢献なさったそうだ」


 サツキとジェイスリードの説明で、シオンは事情を把握した。

 もし自分がトラブルもなくシドゥーク領に無事に到達できていたとしたら、援助金をもらって生活をさせてもらえたらしい。

 だが、そうなっていたとしたらサツキとジェイスリードには出会えなかっただろう。

 もちろん、ルリとも。

 それは不幸中の幸いであったとシオンは思う。



 一行はテガロスの村を出発し、迷宮都市レッテンへと向かう馬車のなかにいた。

 シオンにとっては因縁の街であるが、サツキとジェイスリードの目的地がそこなのだから否応もない。

 それになにより、シオンの心は晴れている。

 過去の傷トラウマの心配はなさそうであった。



「それはそうと、あなたたちは本当に戦いに参加するつもりなの?」


「はい。お姉さまとご主人様の足手まといにはなりたくないんです!」


 即答である。


「私がシオン君を守るです!」


 即答である。


「それに、ボクは一度死んでステータスのバグが治りましたから、今では全ての数値が以前の二倍になりました。必ずお役に立って見せます!」


「えっ、それはどういうことなの」


 全員の顔に疑問が浮かぶ。


「そういえば、あの盗賊との戦闘中、不思議なことが起こっていたようだが、いったいあのとき何があったんだ?」


 そのジェイスリードの問いにシオンは説明に窮した。

 転移してからのことは大体話してはいるが、それ以前からの、自らの身体の説明から入らねばならないだろう。

 その覚悟を決めてシオンは語りだす。



「えっと、まず、ボクは男性と女性の両方を兼ね備えて・・・・・産まれました。それは、前の世界でもとても珍しいことで、ボクのほかにはおそらく存在しない事例です。……そんなボクがこの世界に急に転移してきた。でもどうやらこの世界にもボクのような両性の人はいなかったらしくて、咄嗟にステータスが男と女の二つ作られたみたいなんです」


 一同は固唾を呑んで聞いていた。

 もちろん、シオンの身体のことは全員目にしていたが、そのような事情とは聞いてみるまでわからなかった。


「ステータスは最初、『男性』と表記されていたんですけど、バリバリとノイズが走って、たまに二重に見えていたんです。それは、『女性』のステータスがもう一つ重なっていたからでした。……それがこの前、HPがゼロになったときに発覚したんです。HPはゼロになったけれど、それはあくまで『男性』と表記されたステータスの分でした。そして生き返った。……いえ、正確には死ななかった。ボクにはもうひとつステータスがあり、そこには減っていないHPがまるまる残っていたから。ですが、ステータスは一人に一つが原則のようです。だから二つあったステータスは、一つに統合され、ステータスは単純に二倍になったというわけなんです」


 シオンが語り終えると、サツキとジェイスリードは驚きを隠せないといった表情であった。


「驚いたわ、そんなことがあったなんて……」


「ああ、それで、シオン。すまないがステータスを見せてくれないか」


「それはかまいませんが、どうやって見せればよろしいのでしょうか」


 シオンはステータスを他人に見せる方法を知らなかった。


「俺が≪鑑定≫をかけるから、ステータスの開示に応じてくれればいい。――ちなみに他人に≪鑑定≫をかけるのは失礼にあたるから同意があるとき以外はやらないように」


 ジェイスリードがシオンに鑑定をかける。

 シオンはステータスの画面に『鑑定を受けました。ステータスを開示しますか?』というメッセージが出るのを確認して了承した。

 もし同意が得られなければ、種族名だけが表示される。シオンならば『人間』といった具合だ。コップを鑑定したら『コップ』と出るのと同じだ。



――――――――――――――――――――

 鷲獅子紫苑

 人間 16歳 男/女 レベル: 1

 クラス/なし   ジョブ/ 奴隷/女奴隷

 HP: 17/17

 MP: 20/20


 攻撃: 18

 防御: 15

 魔法防御: 18

 敏捷: 25

 器用さ: 26

――――――――――――――――――――

 知性: 15

 運: 12

――――――――――――――――――――

 奴隷ジョブにより攻撃10%上昇

 女奴隷ジョブにより器用さ10%上昇

――――――――――――――――――――



 ちなみにステータスが二倍になったことで、小数点以下はもはや誤差の範囲・・・・・ということで表示はオフにしてある。


「す、すごいぞこれは!」


「ええ、そうよね、単純に二倍ということは、こういうことになるわよね」


 シオンとルリは二人が何にそんなに興奮しているのか理解できなかった。

 その疑問を察したジェイスリードが二人にわかるように説明する。


「ああ、HPやMP、攻撃や防御はレベル一にしてはすごい、といった程度なんだ。よく鍛えている者ならばこれより多い者も少なくない。それにレベルが高い者からすればやはり少ない数値だ。……だが注目すべきは敏捷と器用さだな。この項目はレベルが上がっても上昇しにくいステータスなんだ」


「この数値に達するには相当なレベルが必要でしょうね」


 常人の二.五倍の速さで動くなど、それは長年の修行を経て達する・・・領域である。

 もちろん、この世界ではレベルを上げれば誰でもいつかはたどり着けるのかもしれないが、それを達人・・と言うのであろう。


「そして知性と運。これはレベル上昇では一切変化しない。知性は努力によって上昇する可能性もある、という噂も聞くが、基本的にはこれらは変動しない。この二つもすごい数値だ」


 どうやら線で区切られた部分は、レベル上昇によって変動する項目か、そうでないかの区別であるらしいことをシオンははじめて知った。



「私たちのステータスも見せておきましょう」


 そう言って一行はステータスを公開したのだった。








――――――――――――――――――――

 ジェイスリード・E・ライオード

 人間 19歳 男 レベル: 5

 クラス/ なし   ジョブ/ 騎士

 HP: 29/29

 MP: 18/18


 攻撃: 25

 防御: 45

 魔法防御: 38

 敏捷: 12

 器用さ: 12

――――――――――――――――――――

 知性: 11

 運: 10

――――――――――――――――――――

 騎士ジョブにより防御10%上昇

――――――――――――――――――――



 評するならば、完全に防御に特化していると言える。

 これは彼の生来の特徴であり、レベルアップによるステータス上昇も防御方面の成長率が高い。

 反面、攻撃方面はレベルアップによる上昇ボーナスが低く、攻撃:25という値は、不断の努力によって鍛え抜いて補っている。

 レベルが高いのもあるが、全体的にステータスが高いのはそのためである。

 なお、純粋にシオンとの比較ができるように、装備による数値アップは含んでいない。



――――――――――――――――――――

 サツキ・N・シドゥーク

 人間 18歳 女 レベル: 4

 クラス/ なし   ジョブ/ 騎士

 HP: 17/17

 MP: 15/15


 攻撃: 19

 防御: 14

 魔法防御: 16

 敏捷: 12

 器用さ: 13

――――――――――――――――――――

 知性: 11

 運: 12

――――――――――――――――――――

 騎士ジョブにより防御10%上昇

――――――――――――――――――――



 彼女サツキのステータスは全てが高水準でまとまっており、かなり平均的な成長率を持っている。

 よく言えば隙がなく、悪く言えば器用貧乏ということだろう。



――――――――――――――――――――

 ルリ

 獣人 17歳 女 レベル: 1

 クラス/ なし   ジョブ/ なし

 HP: 6/6

 MP: 18/18


 攻撃: 10

 防御: 7

 魔法防御: 17

 敏捷: 13

 器用さ: 10

――――――――――――――――――――

 知性: 10

 運: 11

――――――――――――――――――――



 彼女ルリの防御方面の低さは、身長が一二〇センチほどしかないその体躯をみれば致し方ないところだろう。

 だが、力の強さはさすがは獣人といったところか。

 本来は飛行が可能な鳥獣人であるが、彼女の翼は成長しなかったため、不可能である。

 もちろん、鳥獣人たちは翼だけで・・・・飛行しているのではない。

 いくら小さな身体といえど、翼だけでは人間は飛ぶことはできないからである。

 そこにはおそらく魔術が関係しているのであろう。

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