第16話 ベルトがいいです!
「けど、そうなると装備を整えなければいけないわね」
さんざんステータスについて盛り上がったところで、シオンとルリには戦闘パーティに参加する許可が出された。
「ああ。そして装備を買うにしてもクラスを決めなければな」
シオンとルリはその言葉に心当たりがあった。C.C.Cのことである。
盗賊、ヤルス、そしてジェットとサツキ。
彼らがC.C.Cと呼ばれるクリスタルを装備した瞬間、戦闘力が大幅に上がったように見えていた。
ステータスにもクラスの表記があり、シオンは今のところ「なし」になっている。
ジェットが≪魔法収納≫から大粒の水晶を取り出す。
「これが
「
「基本六種というのは、戦士、騎士、格闘家、狩人、僧侶、魔術師のことだ。基本的に人族――エルフ、ドワーフ、獣人、魔人、人間――ならば六つのうち、一人三つの適正を持っている。……私は出来損ないで、適正が騎士と僧侶の二つしかないのだがな」
「そう自分を卑下するものではないわ。ジェットの騎士としての能力の高さを考えれば、適正の数なんて関係ないわよ。私だって、戦士の他に騎士と格闘家を持っているけれど、その二つは持ち腐れているだけだし」
「それでも俺は騎士としてもドワーフには劣るさ……でも、まあ、ありがとう」
サツキはやや不満顔ではあったが、それでよしとしたようだ。
ドワーフは騎士としての適正が高いのだろうか、とシオンが考えていると、それを読まれたらしく、ジェットが説明を付け加えてくる。
「ドワーフはもともと
要するに種族ごとの
「さて、話を戻そう。……シオン、ルリ、一人ずつこの
「ど、ドキドキするです」
「うん」
シオンとルリはおそるおそる水晶を手に取ったのだった。
シオンとルリは水晶を手ににぎり、目をつぶった。
すると、自分の身体の中にある器のようなものが見えた気がした。
それはシオンがこの世界に来たときに感じた『MPの泉』であり、ルリにとっては産まれたときから当たり前にあるもの。
その器の
そこに新たな器が形成されていった。
ルリは自分の中に、六つの道のうち三つの新たな器が出来たことを知るとともに、水晶の中に小さな三つの灯りが順に
それは頭の中にクラスチェンジのための
「私は、魔術師、僧侶、格闘家のようです」
「ふむ、獣人だから格闘家の適正があったのだろうが、ルリのステータスなら前衛は厳しいから、後衛がいいだろうね。私たちのパーティとしても魔術師はありがたい」
「ええ、そうね。基本は魔術で援護、誰かがケガをしたらクラスチェンジして回復という感じかしらね。……シオンの方はどうかしら」
シオンは始めは戸惑い、そして次第にそれは歓喜に変わっていった。
シオンだってマンガやゲームが好きな普通の子供だった。そして、こんなシチュエーションにあこがれだって抱いていた。
そう、自分にだけの特別な何かが起こることを。
シオンの中に形成された新たな器は六つ!
人が三つの適正を持つというのなら、シオンが、……実質二枚分が合成されたステータスを持つシオンが、六つの適正を持つというのはなんら不思議ではない。
なぜならクラスもステータスの一部なのだから。
シオンの手ににぎられた水晶の中には順に六つの灯りが燈っていった。
それを見た三人は驚きの声をあげた。
「す、すごいわ、シオン。六つの適正を持つ者なんて、史上初よ!」
「あ、ああ。以前、二重人格の者が、それぞれの人格で異なる三つの適正を示したことはあったと聞くが、それとは明らかに異なるな。これは驚いた」
「すごいです! さすがシオン君です」
「そ、そうですか? えへへ、嬉しいなー。これでお姉さまとご主人様のお力になれますね!」
はにかむ笑顔を見てサツキが思わずシオンを抱きしめたのは致し方ないことであった。
「それで、シオンにはどのクラスをさせるかだが」
「それなんだけど、シオンは敏捷と器用さが高いわよね。その二つが命中に大きく関ってくる狩人がいいと思うわ。ジェットが騎士で私が戦士、前衛はこの二人。シオンが狩人でルリが魔術師、この二人が後衛という感じね」
「ああ、基本はそれでいいだろう。だがシオンには姫……サツキを護るためにいつでも前・中衛に転向できるようになってもらいたい」
「はい! かしこまりました」
「もう、ジェットは心配症ね」
「となると、シオンには狩人用と近接用の装備、ルリには魔術師用と僧侶用の装備が必要だな」
「それにC.C.Cが一つ足りないわね」
実は、先日倒した盗賊からC.C.Cは回収している。ヤルスも、それは倒した者のものだ、と認めてくれた。
「この
「ありがとうございます! あ、あの、できればボクもご主人様と同じ、ベルトがいいです!」
実は、シオンはあの
「ああ、もちろんいいさ」
シオンはなんだか親に物をねだるような感覚を覚え、幸せを感じていた。
一行はまもなくレッテンにたどり着く。
そこには新たな生活と、はじまりの迷宮が待っている。
先ほどのシオンの発言は、奴隷としては失格かもしれない。あの奴隷商にいた頃なら調教人から折檻を受けるような行為であっただろう。
しかし、シオンはもうすでにこのご主人様の優しさを理解していたし、何よりご主人様のために自分ができることを見つけた喜びが、シオンの精神を満たしていた。
サツキとジェットも、シオンの小さな自己主張やわがままを喜んで受け入れた。
元来、二人は世話好きであるし、シオンがようやく精神をつなぎとめたばかりだと知っているからだ。
実際、サツキとジェットはシオンを奴隷から解放しようとしたこともあったが、その時シオンはふたたび不安定になり泣き叫んだ。まるで
そのためサツキとジェットはシオンを奴隷のまま、しかし扱いは義妹や義弟のように扱うと決めていたのであった。
シオンは、サツキとジェットをご主人様であると同時に、兄姉であると
そのように二人が仕向けた結果であった。
今はそれで良いのではないだろうか。
シオンがいずれ乗り越えたとき、そのときも変わらず接してやればいいだけのことだ。
それはサツキとジェットにとっても幸せなことであった。
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