食喰総司郎の手記 3

 あれから早くも一年ほどが経った。

 驚いたのはこちらの一年も三六五日だということだ。

 重力がほぼ変わらないか、もしくは同じなのだから、星の大きさや質量もまあ、ほぼ変わらないということなのだろうし、さほどの不思議ではないのかもしれないが。


 言語習得は概ね上手くいったと言える。

 しかし、それにしてもこの世界は特殊な文明へと発展しているようだ。


 元の世界で言うならば、基本的には中世ヨーロッパレベルの文明なのだが、そこから近代あたりまでの技術が入り混じったよくわからない発展をしている。


 あきらかに順序をすっ飛ばしたような発明がいくつかある。


 たとえば、下水道などだ。

 まあとても簡易的なものだし、王都や公爵領のような大都市にしかないわけだが。



 もちろん、その理由は明確である。

 私のような『転移者』がもたらした技術であろう。


 しかし、とはいえ転移者の数は少なく、その『召喚主』の思惑も謎すぎる。


 まず、先ほども言ったが、転移者の数が少ない。

 召喚の目的が「たすけて」という言葉のとおりならば、その効果は未だに結果として反映されていないように思える。

 囚われているのかなんなのか、よくはわからないが召喚できる人数に限りがあるのか、もしくは厳しいルールがあるのだろう。


 そして、誰を、もしくは何を助ければよいのか。

 そんなことも言わずに、わかろうはずもない。



 まあ、疑問はまだまだあるが、とりあえず私は金を稼いだ。


 簡単なことだ。

 まず、私はだいたいの読み書きを覚えたあと、公爵から人材を借り、情報を集めさせた。

 天気、地質、技術、歴史、市場、政治などなど。


 あらゆる情報を集めれば、先進技術に触れてきた私にとって需要を割り出すのは難しくない。


 とはいえ、あまり文明をいじるのも気が引けたというか、別に私は内政に興味はないのだ。

 目的はあくまで資金集め。


 さくっと小さな銀行を開設して――もちろんまた公爵の力を借りたが――情報を元に投資し、稼ぎまくった。


 あとはやり方を仕込んだ人材がものになってきたので、公爵に銀行をプレゼントしてやった。大層喜んでいた。なに、ギブアンドテイクというやつだ。

 これでサツキという女性にも借りは返せたと思うことにする。


 私は旅の資金が欲しかっただけだからな。

 少し稼ぎすぎてしまったが、まあいいだろう。

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