第13話 我慢しなくていいのよ
サツキたち一行はヤルスの護衛として次の村まで同行した。
サツキとジェットにとってそれは目的地レッテンから逆方向ではあったが、距離としては近かったし、この状態のシオンとルリを連れての旅は難しいと思われた。
あれから三日。
場所はこの村、テガロスの宿。
シオンの幼児退行はサツキとジェットも知るところとなったが、少しだけ回復の兆しを見せていた。
ほんの少しではあるが、シオンの精神のダメージは和らいでいた。
「時間」は「薬」であった。
とはいえ、シオンの心が抱える傷に、根本的な解決があったわけではなかった。
サツキは、シオンをとことん甘やかした。
ジェットも、幼い子供のようにふるまうシオンを、ただあたたかく見守ったのだった。
根気よくシオンに対していたサツキの努力は実を結びはじめていた。
ようやく、なんとか意思疎通がはかれるようになったシオンは、ぽつりぽつりとこれまでにあったことを話はじめた。
両親の死、火事、転移、誘拐、そして奴隷に落とされた事。
サツキはそれを聞いた瞬間、シオンを強く抱きしめていた。
「――つらかったのね」
シオンは顔をゆがませながら言った。
「でも、ボクよりもっとかわいそうな人もいたんです」
サツキは、なんてことなの、と思わずにはいられなかった。
「ねえ、シオン。他人と比べてどう、とかではないの。自分よりもっとつらい人がいるからって、我慢しなくちゃいけないことはないのよ。……そんなことをしていたら、あなたが壊れてしまうわ」
シオンの瞳に涙がたまっていく。
「ほら、我慢しなくていいのよ。辛かったら泣きなさい。……ね?」
シオンはサツキの胸で声を上げて泣いた。
初めて、泣いた。
「もう大丈夫よ。これからは私がいるわ。ジェットも、ルリも。……だから、きっとなんとかなるわ」
しばらく部屋にはシオンの嗚咽が響いていた。
シオンが泣き疲れて眠るまで。
サツキはそっと見守っていたルリを呼んで、シオンが目覚めるまで、一緒に眠った。
シオンの心に深く突き刺さった
それは「人生への諦観」とも言えるものであったはずだ。
次々に降りかかる災難と、どうにもならない現状との板ばさみ。
だが今、その暗闇には一条の光が差し込んだ!
人は一人ではどうしようもないというとき、他人に頼る以外に方法はない。
孤独なシオンとルリにはそんな方法は存在しなかった。
だが今、シオンとルリは孤独ではなくなった。
彼らの関係がこれからどんな変化をしていくのか、それはまだわからない。
――だが。
一人じゃない。
それだけで彼らの未来には希望の光が差したのだ。
この眠りから目覚めたとき、シオンはきっと新たな人生を歩みだす。
そのための力を手に入れた。
心は決して完全に元通りとはいかないだろう。
多少の
だが安心していい。
それが成長だ。
人間の心は、そうやって成長していくのだから――。
第一章、覚醒 完
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