第249話 海女ちゃん達への紹介

 その後、俺達は薰の希望もあって、海女の仕事を見学に行くことになった。


 徹さんと登さんは、女だけの仕事ということで興味を持たず、三郎さんと一緒に蚕小屋に残り、力を使うような仕事が他にないか、一緒に検討するという。

 俺と薰は、『くの一』のお蜜さん、女子寮長お梅さんと共に海女が集う小屋へと向った。


「……あら、拓也さん、お久しぶり!」


 俺の姿を、小屋に近づく前に見つけた海女さんの一人が目ざとく見つけて、大きな声を上げた。

 それを聞きつけて、ワラワラと海女さん達が小屋から出てくる。全部で七人ぐらいいる。

 そして、全員上半身裸、下半身は腰巻き姿なのだが、誰もそれを恥ずかしがったりしない。


 俺は海女さん達から手を引っ張られるようにして、半強制的に海女小屋に連れて行かれた。

 そのあまりの強引さに、薰は目を丸くしている……まあ、当然か。

 お蜜さんもお梅さんも、苦笑しながら後に続いた。


 小屋(といっても、かなり広いのだが)の中では、海女さん達は休憩中ということで、みんなくつろいでいた。

 サザエが炭火で焼かれていて、ちょっと醤油を垂らしたりして食べる。

 ワカメや小魚のぶつ切りがたっぷり入った味噌汁も出される。

 俺も、ついて来た女性達も、みんなご馳走になった。


 最初、やはり薰は男と間違えられかけたのだが、海女さんたちのリーダー的存在である姉御が、


「……この子……あの難破した漁船に乗っていた子だよね? 男の子だと思ってたけど、女だったのか!」


 と気づき、驚きの声を上げたために、ちょっと騒然となった。


「……あ、ホントだ。残念、色男だから、ちょっとイタズラしちゃおうかなって思ってたのに」


 二十歳すぎぐらいの、海女としてはベテランの女性が悔しそうにそう言う。


「い、いたずらって……」


 困惑し、顔を赤らめる薰。


「……いや、やめとけ。そいつは拓也さんが連れてきたって言うことは、もうツバをつけているって事だ。よく見てみな、みんなよりずっと綺麗な顔しているじゃないか。この中で張り合えるのは……そうだな、ミヨぐらいか」


「なっ……ちょ、ちょっとやめてください、別にそういうので張り合うつもりはありませんから!」


 真っ赤になって反論する少女。

 このミヨという女の子は、俺がここに連れてきて、海女ちゃんになったという過去がある。

 三年ぐらい前の話で、当時は満年齢で15歳ぐらいだったと思う。


 当時はおどおどしていたが、三年ほど経った今では大分海女らしく、快活になってきている……それでも、海女の中では大人しい方なのだが。


 そして、多分今の年は17歳~18歳ぐらいで……確かに、可愛い。

 しかし、美形という点では、薰も負けてはいなかった。


「じゃあ、あんたは拓也さんの嫁か妾になる夢は諦めたのか?」


「……いえ、それは諦めていませんけど……」


「おっ、言うようになったな……まあ、他のみんなも同じだろうがな」


 姉御が一言そう呟くと、小屋の中にいる上半身裸の女性達がニヤニヤと不気味な笑みを浮かべる……俺は悪寒と、貞操の危機を感じた。

 薰もドン引きだ。


「まあまあ、皆さん。今回は、拓也さんの新しい嫁探しに来たのではないのですよ。この娘……薰が、船の修理に時間がかかるから、少しでもなにか仕事がしたいって言うので連れてきたんです。もともと漁船に乗っていて、漁師の仕事もしていたって言うし、素潜りは得意だって言っているから、ちょうどいいんじゃないかしら?」


 混迷を極めている場を、お梅さんがそう言って収めてくれる。


「なんだ、そうか……薰って言う名前なのか。素潜りで漁をしたことはあるのか?」


 姉御が真面目な顔つきになって、薰の体つきを見ながらそう聞いた。


「ああ、もちろん。貝やエビを捕ったり、魚を銛で突いたりしていた」


「そうか……そうだろうな。男の格好をして船の側に立っていたときも、違和感がなかった。だったら、即戦力として使えるんじゃないのか? ちょうどこれから忙しくなる時期だしな。ただし、獲れた分を平等に分けあう、なんて甘いものじゃないぞ。基本的には、獲った分は獲った奴の金になる」


「なるほど……いや、俺はそれで構わない。下手に気を使ってもらうほど、腕が悪い訳じゃないと思う」


 やっと自分の得意分野になったためか、薰は得意げにそう話した。


「そうか……だが、あんたはこういう道具を持っているのか?」


 そう言って、姉御は小屋の奥に片付けていた、フィン(足ひれ)と水中眼鏡、それにゴム付きの手銛を持ってきた。


「……なんだ、それ……銛は分かるけど……」


 その言葉を聞いて、姉御は再びニヤリと笑う。


「なるほど、まだ拓也さんから聞いてはいないみたいだな……これは拓也さんから与えられた仙界の道具だ。あるのと無いのでは、成果に雲泥の差が出る。ま、実際に見てもらった方が良さそうだな……みんな、休憩の時間は終わりだ。さあ、漁に出かけるよ!」


 姉御の一言で、みんな一斉に立ち上がり、そして腰巻きを脱ぎ捨てた。

 ぎょっと目を見張る薰。

 海女さん達は、全員、腰巻きの下には細い紐パンツというか、そんな物しかつけていないので……ようするに、ほぼ全裸だ。


 何度かその姿を見ているが、いくらこの時代、男に全裸を見られることが今よりずっと恥ずかしくないとはいえ、それは女性にとっての話しであって、俺は慣れることができない。


 それでも、気にしすぎるのもいけないと思い、俺は冷静を装った……気付かれているかもしれないけど。


「……なんだ、海女はみんなほとんど裸なんだな……だったら、気にすることもなかったか」


 薰がほっとしたように呟いた……ひょっとして、シャワーシーンを俺に見られたことを気にしていたのかな?

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