第211話 番外編15-8 姉御の策略

 茶屋にて前田女子寮の一期生、二期生五人に接客をしてもらったところ、若い男性を中心に大いに評判となった。


 その理由は、やはり、A5サイズのカラー顔写真とプロフィール掲載という、仙界(現代)の技術を駆使したギミックと、彼女たち自身の可愛らしさもあった。


『どうしても気になる娘がいる場合は、こっそりとお園まで』の但し書きも効果的だったことだろう。


 しかし、だからといって、すんなりとカップル成立となるかといえば、そうはうまくいかない。

 やはり、冷やかしというか、現代で言えばナンパ目的の、下心丸出しの男性が多いのだという。

 そこは、お園さんがきっちりと見分けてくれている。


 もちろん、そんな人ばかりではなく、中にはまじめな人もいるのだが、現在無職だったり、酒癖が悪くて悪評が立っている人だったりと、そういうのもきちんとお園さんが断ってくれている。


 また、接客する女性によって、お園さんに相談する男性のタイプがはっきり分かれるのだという。


 年長で色気のあるお梅さんには、大人の男性というか、大人の恋愛を望む人が多いらしい。

 対して、二期生の若い二入には、いかにも純情な男性が気に入ってくれているようなのだが、お園さんに言わせればまだまだ青二才の丁稚でっち、大切な従業員を紹介するわけにはいかないということだ。


 一期生で、相当な美少女であるれいは、その容姿で人気だが、かなりなまりがあるところが、男性客にとって好きな人とそうでない人に別れるらしい。


 それに対して、真面目で愛想も良く、きびきび働く桐は、万人受けしそうだという話だ。


 なんか、人気投票もできそうだが、もちろんそんな事はしない。

 女性達にも、


『それぞれ声をかけてくれる人はいるが、これはという男性がまだいない』


 と、お園さんは彼女たちに対して、じらす考えだ。


「一回断られたぐらいで諦めるような男じゃあ、先が見えているからね」


 俺だけにそう教えてくれるお園さんだが、それはちょっと可哀想な気がする。

 しかし、そう簡単にうまくいかない原因は、俺にもあるのだという。


「彼女たち全員、理想の相手を拓也さんにしてしまっているから、それ以上の男性が現れず、女子おなごが積極的になれないんだよ」


 とも言われた。

 女の子の方から、気に入った常連客に対して告白するパターンも考えていたようだが……そう言われてもどうしようもない。


 さて、そんな盛況がさらに一週間ほど続いた頃、噂を聞きつけた海女の姉御あねごが、早速視察に訪れた。

 そして男性客で溢れる茶屋を見て、


「仕組みは面白いが、私達はチマチマ団子なんか売っていられない」


 と意見を言って、ちょっと空き地を貸してくれないか、と交渉してきた。


 何をしようとしているのか話を聞いてみて、確かに面白そうだったので、早速地主に空き地を借りて、そこに雨が降っても良いように大型のテント(体育際なんかにグランドに張るようなやつ)を設置した。

 そこで実践するのは、簡単に言えば『海鮮バーベキュー』だ。


 海女ちゃん達が持参したイカや車エビを串に刺して、炭火で焼いて、その場で客に提供する。

 サザエの壺焼きや、アサリ、ワカメのたっぷり入った味噌汁も出す。

 できたてをゴザで待つ男性客に提供するのだ。


 昼間にもかかわらず、酒まで販売する。

 そしてこれらを豪快にたたき売るのは、姉御を中心とした若い海女ちゃん達だ。


 当然、彼女たちも顔写真付きでプロフィールを奥の木板に掲載、『私が取った具材です!』というコーナーまで作っている。


『従業員を口説くのは禁止!』という張り紙と、『どうしても気になる娘がいる場合は、こっそりと姉御まで』という張り紙は同じだが。


 俺は場所代として売り上げの一割をもらう事になった。


 さすがにこの時、彼女たちは漁のときのようなほぼ全裸、と言うわけにはいかないので、現代から海女ちゃんの衣装(コスプレ用)を買ってきて着てもらったのだが、これが意外とよく似合う。


 威勢が良く、茶屋とは全く別の雰囲気に、こっちも予想外のスマッシュヒットとなった。


 姉御、なかなかやるなあ、とちょっと離れた場所から見ていると、海女ちゃんの中でも最年少、十五歳のミヨが近づいてきて、こっそりと話しかけてきた。


「今回、一番乗り気なのは、実は、姉御なんですよ」


 と、特に意外でもないことを言う。


「まあ、そうだろうな……男好きそうな感じだもんな……」


「いえ、そういうんじゃ無くて……真剣に、誰かのお嫁さんになる事を考えてるみたいなんです」


「えっ……まあ、年齢的に言えばそれでもおかしく無いな……」


 そう言われると、二十代の中頃ぐらいであるはずの威勢のいい姉御が、ちょっと可愛らしく見えてしまった――。

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