第210話 番外編15-7 結婚相談、こっそり始めました!
さて、結婚相談所、あるいはそれに類似するようなものを作ろうと考えてはみたものの、具体的にどういう形にすればいいものか、なかなかいいアイデアが浮かんでこない。
とりあえず、現代の形式で考えてみるならば……。
(1) 入会金を取って、きちんと情報登録して、真剣に紹介・デート、結婚までサポート
(2) 簡単な登録だけ行って、お見合いパーティーを開く
(3) 合コン
うーん……1は手間がかかりすぎるし、お金もかかるし、安心感はあるが、気軽に、という訳にはいかなさそうだ。
2は、手軽なんだけど、後々のつきあいは自己責任でお願いね、という感じになりそうで、ちょっと結婚相談所としては無責任っぽい気もする。
まあ、それを言うならば3は論外なんだけど。
ちなみに、この時代の結婚相談はどういう形が多いのかというと、地域・身分によってまちまちだ。
たとえば、武家なんかだとやっぱり親が決める、というパターンが多い。
涼の場合も、最初は阿東藩主である彼女の父親が、俺のことを気に入ってくれたのがきっかけであり、彼女の意思はあとからついて来たもので……本人が納得してくれているので、俺としてはそれでいいのだが。
大きな商店の娘や豪農の娘なんかも、親が決めるものらしい。
それに対して、ごく普通の一般町人は、自由恋愛が多くなってくる。
特に農村、漁村部はかなりオープンで、結婚前からあちこちで……というものらしい。
とはいえ、やっぱり男女をくっつけるにあたって、適当ではいけない。
特に結婚となると、やはり、町人にとってもお見合いが一番ポピュラーだ。
紹介好きのオバちゃんが動いて、その旦那が仲人をつとめて、というようなパターンが結構あるらしい。
だったら、俺達がどうこうする問題でもないのかな……凜や優と、なかなか難しいもんだな、というような話をしていた。
そんなふうに考えていた時に、『食い物通り』で茶屋を営む名物オバちゃんのお
この茶屋、結構な老舗で、店の外の広場にも椅子を出しており、休憩所、待ち合わせの場所としても利用されている。
『前田美海店』でも、ある程度のデザートは提供しているが、基本的には食事のおまけであり、この店の団子なんかとは競合していない。
むしろ、俺が経営する店が目当てで、『食い物通り』自体に客が増えていることもあって、以前より忙しくなっているらしい。
そんな茶屋なのだが、そこで働いていた従業員……お律さんというのだが、嫁入りのためこの店を辞めてしまったのだという。
もっとも、その縁を取り持ったのはお園さん自身らしいのだが……。
詳しく話を聞いてみると、その茶屋を訪れる常連のお客の一人が、お律さんに惚れてしまっていたらしい。
とある商家の手代らしいが、ちょっとシャイな性格で、お律さんと会話はするものの、店に『従業員を口説くのは禁止!』の張り紙もしてあったこともあり、デートに誘うほどの勇気は持てなかったらしい。
しかし、どうしても諦めきれない彼は、こっそりとお園さんに、自分がお律さんに惚れてしまったことを打ち明けた。
そこからが行動力のあるお園さんのすごいところで……わざわざ彼の店を訪れて、主人や番頭さんに彼の働きぶりを聞き、いずれはのれん分けさせることも考えるほどのやり手で、真面目な男だということを突き止めた。
お律さんの意思も、
「あんた、あの手代のこと、気に入っているのかい? あんたに惚れているみたいだよ」
と、ストーレートに聞いたところ、彼女は赤くなって頷いたと言うことで、その後はとんとん拍子で話が進み、縁談がまとまったのだという。
お園さんとの話の場に凜、優が一緒にいて、それって、俺達が目指している結婚相談所の、一種の理想型かもしれない、ということになった。
そこでお園さんに、実は、結婚を真剣に考えている若い女の子が何人もいる、という話をしたところ、彼女は目を輝かせ、
「だったら、渡りに船じゃない! その娘達にうちの店で働いて、いい男がいたら紹介してあげるよ!」
という事で、話が進んだ。
とはいえ……うちで預かる女の子達の意思確認は必要だ。
今は養蚕も暇な時期で、若干人手が余っている。
そこで、お小遣いも稼げて、あわよくばいい男性まで紹介してもらえるこの茶屋に勤めてみないか、と持ちかけたところ、女子寮の一期生、二期生、合わせて5人もの応募があった。
(お梅さん、桐、玲、静、沢)
最年少の桜も乗り気だったが、ちょっと若すぎるので却下。
ただ、お梅さんは、
「『いい男性』の中に拓也さんも含まれるんですよね? これに応募したからといって、
と言っていたのが気になるが……とにかく、試験的に始めること、期間限定であること、もし誘いがあったとしても、本人の意思を確認せず、無理に話を進めたりしないこと等はきちんと説明した。
また、これをきっかけに、外部から女性が応募してくれれば、その娘達と入れ替わっていくことも説明。永続的なものでは無いし、応募してくれた彼女たちの扱いに、なんら変更のないことも話した。
お園さんとの面談を実施したところ、普段からの真面目な態度が評価され、なんと全員採用。
もちろん、一度に5人が接客にあたるのではなく、一人~二人が交代でお茶や団子を提供することになる。
そして、ちょっと変わった試みとして、全員のプロフィールを顔写真付きで店内に張り出すことにした。
名前と、年齢と、だいたいの出身地を記載し、一言、
「一生懸命頑張ります!」
みたいなメッセージを添えている。
さすがに、彼氏募集中みたいなメッセージは載せない。
また、『従業員を口説くのは禁止!』の張り紙はそのままだが、『どうしても気になる娘がいる場合は、こっそりとお園まで』という、ものすごく小さな但し書きを書いていた。
そして彼女たちが働き出して十日後。
この店を訪れる若い男性客は、以前の倍になった。
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