第十五章 (番外編) 少女達の健康管理と縁結び 

第204話 番外編15-1 健康診断の事前準備

※今回は、本編第十章あたり、前田女子寮に二期生が揃った頃のお話となります。


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 ある日、凜から、前田の屋号を持つ各店の少女達について健康診断を行うべきだとの提言を受けた拓也は、叔父に相談していた。


「なるほど、健康診断か……今と違ってそれほど医療技術が発展していない江戸時代、今なら特効薬のある病気でも致命的なことがあっただろうからな……」


 叔父である帝都大学准教授の氷川学は、深く頷いた。


「本来なら、全員現代に連れてきて検査してあげたいところだけど、アキの事故の件もあるし、ちょっとリスキーで……」


 拓也の妹のアキは、不用意に時空間移動に巻き込まれ、一時行方不明になってしまっていた過去がある。


「ふむ……だが、おまえは正式な医者じゃないしな……凜さんも、勉強しているとはいえ、所詮は素人だ……」


「そう、だから、せめて分かる範囲だけでもと思って……」


 拓也の真剣な眼差しを見て、氷川も、彼の手助けをしようと決めた。


「……だったら、そうだな……これを見てみろ」


 彼はそういって、ネットで何か検索して、拓也に見せた。


「……健康チェッカー……指先からほんの少し、血液を採るだけで、血糖値やコレステロール、中性脂肪など、計十四項目の数値が分かる……すごい、普通の血液検査となんら変わりない!」


 彼は驚きの声を上げた。


「ああ、その通りだ。それと、尿糖・尿たん白・潜血が分かる尿検査用のテープもある。これはその場ですぐ分かるから、利用しておいた方がいいな」


 氷川はそう言って、これもネットで画像を見せた。


「……なるほど、これは手軽だ……えっと、他には……」


「まあ、身長、体重なんかは基本的な測定項目だな。身長はともかく、体重の急激な増減は注意が必要だ。あと、最近学校では廃止されているところも多いようだが、胸囲の測定もしておいた方がいいだろう。栄養状態があまり良くない昔の環境では、胸郭の疾病の判定にある程度意味がある」


「なるほど……参考になる。胸と言えば……レントゲンとかは無理?」


「そうだな、さすがにそれは現代に連れて来なければ無理だ。その時代で若者にとって最も恐ろしいのは、結核だ。そして結核の診断に最も効果的なのはレントゲン……その矛盾を解決する手段は、やはり問診しかない」


「問診……」


「ああ、そうだ。結核に限らないが、やはり問診は非常に大事だ。問診票を作成して、それを持って行って記入させるべきだろう。さっきの結核も、少しでも疑わしい点があれば、多少リスキーでも現代に連れてきて精密検査させるべきだろう。他の病気も同じだ」


「なるほど、一番大切なのは問診、と……」


 拓也は、叔父のアドバイスを細かくメモしていた。


「その他、血圧は市販の血圧計を使えばいい。心電図は……これも、小型で、結果がすぐに表示されるタイプの物が市販であるようだな。胃の検査は、バリウムにしろ、胃カメラにしろ、さすがに無理か……まあ、十代の娘達ならばこれらは必要あるまい」


「血圧計、心電図……結構高いなあ……まあ、彼女たちの健康のためだ、ここは妥協しないで良い物を買おう。あと、電動だからバッテリーも必要だなあ……」


 合計いくらかかるのか、その計算も必要だった。


「それに、視力・聴力検査。視力は簡単な視力検査表でいいだろう。五百円も出せば買える。聴力検査は……意外と小型で安い物がないな……よし、俺が作ってやろう」


「えっ……本当? ありがとう、助かります!」


 最低でも十数万円する機械、叔父が作ってくれるとあればタダ同然だ。

 氷川は拓也の笑顔を見て、調子のいいやつめ、と顔をほころばせた。


「ただし、貸してやるだけだぞ。俺も室町時代で使うつもりだからな」


「ああ、なるほど……うん、使い回して、なるべく多くの人をきちんと検査すべきだね」


 拓也も納得した。

 そして、もちろん完璧ではないが、ある程度の検査が現地でも実施できる現代の便利なアイテムの数々に、彼は感謝したのだった。


「ところで……どういう段取りで健康診断、実行するつもりだ?」


「どういうって?」


「全員、一度に検査するつもりか?」


「えっと、まず、同居している五人で試して、要領を把握した上で、残りの女の子達を女子寮に集めて実施するつもりだけど……」


「検査着とかは用意するのか?」


「うん、それはもちろん。それに、女子寮での検査は、凜や優に任せるつもりだよ。検査着があったとしても、胸囲の測定なんかだったら脱がないといけないわけだし、男の俺がいると測定しづらいだろうと思って」


「なるほど……真面目なんだな……」


「えっ?」


「い、いや、何でもない……拓也、彼女らを大事にするのはいいが、あまり困らせることのないようにな」


「はい、もちろん!」


 元気よく返事した彼だったが、まさかその彼女たちが検査着の着用を拒否し、さらに拓也の立ち会いを要求することになるなどとは、考えてもいなかった――。

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