第76話 避難場所

 叔父と妹が帰ってくるまでの間、さらに検証を続けた。


 まず、強盗が襲ってくる前に、なにか前触れのようなものがなかったか。

 これについては、『今考えてみれば』という心当たりがあったという。


 ここ数日、毎日のように阿東川で獲れたという鮎を直接『前田邸』に売りに来る漁師がいたこと。

 前田邸には常に誰か居たし、源ノ助さんも居る事が多かったので普通に対応したが、特に不審には思わなかったという。


 この漁師、最初ここが『前田拓也』の住処とは知らなかったというが……訪れるタイミングが昼間だったり、夕方だったりとバラバラだったのも、今考えればおかしな話だ、という。


 また、女の子たちは雑談の中で『前田拓也』の家と教えてしまっており、さらに最近、俺はずっと出かけている事まで話してしまったという。

 そのときに、『宝探し』という単語が出た可能性はある。


 ……と、そこまで話したときに叔父とアキが帰ってきた。


 一旦話を中断し、包帯を巻かれたポチを、全員で「かわいそうに」とか、「ごめんね、ありがとう」とか、感謝とねぎらいの言葉をかけてあげていた。

 本当に、今回の件はポチがいなかったらどうなっていたか分からない。


 押し込まれたときの強盗のセリフで、

「誰も居ない方が都合がいい」

 というようなものがあったらしいので、彼女たちが誘拐されたりはしなかったかもしれないが……それでも、意図的に、あるいは偶発的に暴力を受けていた可能性は高い。


 とりあえずポチの世話をユキ、ハル、そして妹のアキに任せ、俺と凜さん、優、ナツ、叔父は先程の続きと今後について話し合った。


 叔父にも先程までの話をしたのだが、

「その漁師は、『前田邸』と拓也のことを知っていて、近づいた可能性が高い。『天空の金版』を誰かが手に入れたことは、あの山々に鳴り響いた鐘の音で気づいていたのだろう。それが拓也であることの目星を付け、接近したのではないか」

 と明言した。


 つまり順番でいうと、

1.強盗集団は「三十万両の埋蔵金」を狙っていた。

2.『天空の金板』というお宝が『阿東川の上流に存在する』ことぐらいは知っていたはず。

3.『天空の金板』を誰かが見つけてしまったことは、例の『鐘の音』で気づかれた可能性が高い。

4.『前田拓也』の名前は知られていた。『阿東湾の沈没船の財宝』を見つけたのが俺であることは、多くの人が知っていたから。

5.『天空の金板』が見つかったとき、俺はしばらく『前田邸』を留守にしていた。


 ここまで条件が揃っていれば、俺が『天空の金板』を見つけたことは容易に想像できる。

 さらに、『海老ヶ池』に、事前の情報によく似た三人組が現れたのだから、それはもう確信に変わったのだろう。


 そして奴らは、「前田拓也が金板を全て集めてしまうのを阻止する」と同時に、『天空の金板』を奪い取る、という強引な作戦を実行したのだ。


 また、『海老ヶ池』のお宝も、最初から俺達に見つけさせてから奪うつもりだったのだろう。

 うーん、宝探しも『組織化』した凶悪な奴らが相手となると、本当に恐ろしい。


 三郎さんとお蜜さん、大丈夫だろうか……まあ、奴らのお目当ての銀板は俺と一緒に目の前からかき消えた訳だし、武術の達人の三郎さんがそう簡単にやられるとは思えないけど、かなり心配だ。あとでこっそり、ラプターで様子を見に行こう。


 とりあえず、奴らの目的は『お宝』であって、彼女たちではない。

 だが、『金板』や『銀板』を狙っている以上、再び危険が伴わないとも限らない。


 この現代に居る限り、絶対に安全は保証されているのだが……。


「いや、全員をずっとここに寝泊まりさせるわけにはいかないだろう。姉さん……つまりお前の母親も今では完全にタイムトラベルを信じているようだから、数日なら大丈夫だとは思うが……世間体もある。ずっと閉じ込めて置くのは可哀想だ。凜さんならともかく、他の子達は学校に通っていなければならない年頃だろう?」


 叔父が心配そうに話す。

 確かにその通りで、平日の昼間っから出歩いていて警察官とか補導員に質問とかされたら、戸籍のない彼女達だから、相当やっかいな事になりそうだ。

 かといって、前田邸は到底住めるような状況にないし、危険すぎる。


「まあ、凜さんはこの時代に留まってもらって問題ないが、あとの娘たちは江戸時代の、どこか安全な場所に帰してあげるべきだろうな。優さんは、橋渡し役になってもらえばいいだろう」


 ……叔父が凜さんを別枠扱いしすぎるのでピンときた。

 まだあきらめていなかったか……本人が目の前にいるし。

 ま、もう二人とも大人だ、話し合って好きなようにしてもらえればいいだろう。


「うーん、そうなったとしても、少なくともナツ、ハル、ユキは江戸時代に帰してあげないと……安全で、受け入れてくれそうなところ、心あたりがないわけじゃないけど……交渉次第、だな……」


 俺は考慮の末、その案をみんなに話した。


 五日後、江戸の『明炎大社』に、一人の『天女』宮姫と三人の『天女見習い』が出現した。


『宮姫』以外は自力では瞬間移動できないため、彼女に付き添われての出現だった。


『見習い』天女は、身分を証明するために、大粒の真珠が一粒だけついた首飾りを身につけている。


期間限定とはいえ、『明炎大社』はこれでまた『本物の天女が修行に来る神社』として大盛況となるのだった。

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