第77話 現代での共同生活 その1
ほんの少し、話は遡る。
現代に転送され、期間限定で我が家で生活することになった五人の少女達。
母はこの状況に、最初は目を丸くしていたが、叔父と妹の説明によりタイムトラベルを完全に信じ、一時的に受け入れる事を了承してくれた……というか、喜んでくれている。
実は母は、妹のアキの他にもう一人か二人、娘を欲しがっていたという。
それが一度に五人。さすがに多すぎると思うが、みんなかわいいし、話してみると純情で素直なので、気に入ってくれたようだ。
とりあえず洋服は、ファッションにうるさく種類も多く持っていた妹のものを借用。
ユキ、ハルの双子には少し大きく、ナツには逆に少し小さかったが、まあ着られないことはなく、今まで彼女らの着物姿しか見たこと無かった俺の目には新鮮で可愛らしく映った。
パジャマはそれほど種類がなかったので、量販店で購入。
妹はおしゃれなのを選ぼうとしていたが、高かったので却下。安いけど「着心地がいい」というものを揃えてあげた。
あと、布団をどうしようかと思ったが、『お客様』用のが2セットあり、少女達は二人で一つの布団で一緒に寝るということになった。
最初はナツとユキ、凜さんとハル、優とアキって考えていたのだが……
『江戸時代ではすでに夫婦』ということで、俺と優がいっしょに寝ることに。
さすがに一度は断ろうとしたが、妹に
「一緒に寝たくないの?」
と聞かれ、つい
「そりゃ、一緒にいたいけど……」
と本音を言ってしまい、そうなってしまった。
母も全く反対しないどころか、「いっそ、ずっとこっちで一緒に暮らせばいいのに」という始末。なんか、前回来たときに「大恋愛中」だったっていうのと、アキが行方不明になったときに優も必死に探してくれたっていうのが、よほど嬉しかったらしい。
部屋は来客用と、海外出張中の父の部屋が開いていたので、うまくやりくりした。
そうして一気に賑やかになった、現代の前田家。
少女達も「私たちも何かお手伝いしますっ!」と言ってくれるのだが……まず、『前田邸』で一番大変だった『風呂の焚きつけ』はどうすれば良いのか聞かれ、
「このボタンを押すと、勝手にお湯が出てきて、いっぱいになったら勝手に止まる」
と説明すると、驚愕された。
「じゃあ、皿洗いでもしますっ!」
と言われても、我が家には『自動食器洗い機』があるので、並べてボタンを押すだけ。
「じゃあ、洗濯しますっ!」
と言ってくれたが、『全自動洗濯乾燥機』のため、これも洗濯物を入れてボタンを押すだけ。
「じゃあ、掃除しますっ!」
いや、実は『ル○バ』があって、勝手に掃除してくれるんだ。
「じゃあ……じゃあ、水汲みを……」
いや、水道があるので……。
もう全員、目を丸くするばかり。まったく彼女達の出番がない。
「じゃあ、せめて、料理のお手伝いを……」
……これだけが、母としても助かる部分だった。
なにせ人数が多くなったので、量を作らなければならない。
電磁調理器や電子レンジに少し戸惑っていたものの、鍋で料理を煮込んだり、包丁で野菜を切ったりは基本的に同じだ。
台所がそれほど広くないので、ウッドデッキのテーブルも利用して野菜の皮むきやタマネギのみじん切りなどを手伝ってもらう。
騒がしいけど、それがまた楽しかった。
食事もダイニングキッチンとウッドデッキを利用して、ときどき人が入れ替わって食べる。ちょっとしたホームパーティーのよう。しかも俺以外、全員女性。
妹と母がいるとはいえ、男女比率一対七は、まあ、プチハーレムだ。
ちなみに、叔父は論文発表の準備が最後のヤマ場だ、と言って研究室にこもりっきり。ものすごく悔しがっていた。
トイレも最初は水洗に戸惑っていたようだが、これにはすぐに慣れた。
あと、風呂の水道やシャワーの使い方も知らなかったが、一度妹が一緒に入って説明すれば、これもすぐに理解したようだ。
しかし……。
ドタドタと、騒がしく階段を上がる音が、二階の俺の部屋に聞こえてきた。
続いて、ドンドンと激しくドアを叩く音。
これは何かあったのか、とあわてて鍵を開けると、そこには裸にバスタオルを巻いただけのアキの姿があった。
いや、まあ、妹だから何とも思わないけど、ちょっとびっくりはする。
その彼女、かなり怒ったような顔つきだ。
「ちょっと、お兄ちゃんっ! 聞いたわよ、『ユキ』ちゃんと『ハル』ちゃんの双子と一緒にお風呂に入って、お兄ちゃんの体、洗わせたって?」
「……いや、別に洗わせたっていうわけじゃなくって……」
「やっぱり本当なんだっ! バカ、ロリコン、変態っ!」
酷い罵倒だ。
「おちつけって。別に俺が強要した訳じゃないよ。なんか、いつもお世話になっているお礼だからって、俺が風呂に入っているとき、不意打ちみたいに突撃してきたんだ。もちろん、慌てて断ったんだけど、『背中だけでも』ってことで、流してもらったってだけだよ。その一回だけだし、俺、ずっと後向いてたから」
「……そ、そうなの?」
「ああ。なんなら二人に聞いてみなよ」
「……ふうん、ならいいけど……」
なんか微妙に納得がいかない様子だったが、ぶつぶつ言いながら戻っていった。
それから三十分後、階段を駆け上がってくる音。
今度は鍵を掛けていなかったので、いきなり扉が開く。今度も同じ格好だ。
「ちょっと! 聞いたわよっ! 優さんとは、何度も一緒にお風呂、入ったでしょう!」
「……うん、まあ、優とは、そうかな……」
「うわあ、いやらしい、変態っ!」
「……いや、それはおかしい。だって、一応、江戸時代では夫婦だし」
「江戸時代ではそうでも、現代ではまだお兄ちゃん、結婚できる歳じゃないでしょう?」
「ああ、そりゃそうだけど……だから、こっちの世界じゃ一緒に風呂に入ったり、してないよ」
「……えっ?」
「あくまで、向こうの世界限定の話だ。そもそも、江戸時代じゃ銭湯は混浴だから、一緒に風呂に入ったりするのは当たり前だし……」
「……混浴って、向こうじゃ普通なの?」
「ああ。お前も向こうの世界、二十日以上もいたじゃないか」
「まあ、そうだけど『巫女』が体を清めるときは、男子禁制だったから……そういえば、そんな話、聞いたことがあったような……」
「だろう? 向こうじゃ、普通なんだよ」
「……ふうん、普通なんだ……」
……ふう、なんとかごまかした。今のはちょっと、焦った。別に悪いことしてるわけじゃないけど……。
さらに三十分後。
(……またか……)
ドタドタドタッ、バンッ! という音と共に、やはりバスタオル一枚のアキ。
「ちょっと、お兄ちゃん! 凜さんが『
……今度のは説明がさらに大変そうだ。
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