サプリメント04 3月前編(ひな祭り)
ナザリック地下大墳墓 第九層 BAR
3月3日
私の主観では、ひな祭りや桃の節句などなど。言葉はいろいろあれど、3月3日は女性のための日と言えば良いのだろうか。
先日、バレンタインデーが外の世界である程度定着している文化と判ったので、ひな祭りも同様に存在しているのかをツアレ様に聞いてみた。
結果はNO。
5月のこどもの日は、子供の健康を祈ってということで残っているが、ひな祭りは無いとのこと。文明レベルを見ると、男尊女卑というか男子優先の文化ということで消えてしまったのだろうか?
とはいえ、ナザリックにもひな祭りに類する文化は無かった。バレンタインデーみたいに文化を流布するのも手ではあるが、ホワイトデーを控えているため、無理にすすめることはできない。変に混ざっても面白くはないからだ。
「というわけで、本日はひな祭りをイメージした飲み物とお料理を優先してご提供させていただいております」
「なにが”というわけ”なのか分からないが、ひな祭りだったか。すっかり忘れていたよ」
と、アルベド様を伴って来店されたアインズ様にお話をする。
最近では息抜きがてらご利用頂いているので、守護者の方々も含めて利用率がうなぎのぼりである。私としては、日中の休憩なら同じ九層にある喫茶店の方をおすすめするのだが。なぜか?理由はBARを夜の店ですからね。
「アインズ様。ひな祭りというのは、どのような風習だったのでしょうか」
今の話で”ひな祭り”がリアルの風習であることを察したアルベド様が、話題に食いついたようにアインズ様に質問をする。
アルベド様の中では、バーテンダーの私はリアルの情報を知るアインズ様以外では唯一の存在と分類されているようだ。そのため事ある毎に情報を引き出そうとしてくる。とはいえ、権力などを振りかざして無理に聞いてこない辺りは、信条というものを心得ていらっしゃるのでありがたい。なにより今回のように、アインズ様を前にして酒の席で話す分には、隠し事をする必要さえないのだから。
「ああ、私の時代ではだいぶ寂れてしまった風習なのだがな、女児がいる家ではこのように雛人形……って、えっ?」
アインズ様はいままで気が付いていなかったのか、あえて記憶の外に追いやっていたのかわからないが、BARの片隅を占拠する八段の無駄に豪華な雛人形に気が付かれたようだ。
ちなみに雛あられは、昼間に襲撃してきたエントマ様に総て食べられてしまった。
「ああ、この雛人形は、常連のヴァンパイアとワーウルフが設置していきました。雛人形の長置きは良くないので、明日回収に来るそうですよ。でも、この雛人形はどこの備品だったんでしょうか?やたらと綺麗ですし、しっかりメンテナンスされているようですが」
「いや……ユグドラシルにも雛人形は無かったはず。捕まえた年少プレイヤーをひな壇の上にコスプレして捧げる奇祭しかなかったはず」
「そんな奇祭の情報など知りたくありませんでした。アインズ様」
ユグドラシルというゲームは、GMもだがプレイヤーも結構な変人ばかりだったのではないだろうか?最近はそんな誤解をしてしまいそうで困る。
「ごほん。女児がいる家では、このような雛人形を飾り成長を喜び無病息災を祈るのだよ。もっとも桃の節句ともいうので、女性のための日とも言われていたが」
「では、私とアインズ様の御子が生まれて女の子であれば、このような人形も準備しないといけないのですね」
「あ~~。うん。そうだな」
最近では、攻めるアルベド様を半分程スルーする方向で対処しているアインズ様。
でも、明確に否定していないことが、すでに僅かながらでもYESであると認識されている事実をアインズ様にお伝えすべきか否か……。
「とはいえ、年齢を重ねられても、女性はいつまでも女の子といいます。アルベド様の最初の一杯に、このようなものをご用意いたしました」
そういって盃をお渡しし、白いお酒を注ぐ。
「これは?」
「白酒といいます。元は焼酎や日本酒をベースに熟成させた、甘くとろみがあるお酒です」
「そうね、程よい甘さが美味しいわ」
「アインズ様もいかがですか?」
「では、一杯もらおうか」
そういうと、アインズ様にも一杯手渡す。
残りの白酒は、朱の器に居れアルベド様の手の届くところに置く。
「では、つまみですが、このようなものを用意いたしました」
取り出したのは一口サイズの小さな丸いお寿司。サーモンやマグロ・イクラで赤を、薄切りのきゅうりで緑を、卵で黄色を表現し、色とりどりのデザインで8種ほど用意させていただいた。
「手まり寿司といいます。本職の寿司屋にはあまり好まれないものではございますが、やはり見た目も華やかですので女性には喜ばれますね。本日も様々な方にお出しさせていただきましたが、ご好評でした」
アウラ様は無心に食べ、マーレ様はニコニコ美味しそうに食べていらっしゃしました。ニューロニストさまは、サーモンの手まり寿司がお気に入りだったようですが、エントマ様は食感から雛あられ一択でした。
さてアルベド様は、サーモンにきゅうりをあしらった手まり寿司を箸でつまみ、小さく口を開け、2回に分け咀嚼する。その唇と舌の動きは艶めかしく、それは隣で見ているアインズ様の視線を意識したものだろう。
さすがはサキュバス。
「甘いふわふわしたお酒に対して、見た目は可愛いけど酢でしっかり引き締めた味わい。対比も含めて目と舌で楽しめるのね」
「はい、お気に召していただけましたでしょうか」
「ええ、とてもおいしかったわ。アインズ様もいかがですか?」
アルベド様は、マグロで小さな華をつくり真ん中にイクラ、回りに薄切りのきゅうりで葉をあしらった手まり寿司を、アインズ様の口もとに運ぶ。
餌付けされた小鳥。
そんな状況が正しいのかもしれませんが、自然とアインズ様が食べる。
「ああ、たしかに味の対比も含めてうまいな」
最初はドギマギしていたアインズ様も、まるで自然のことのように対応されるようになる。うん。夫婦か恋人かといったところでしょうか。
いまだにこの手の対応すら赤面してしまい実現できないシャルティア様は、本当にシャルティア様です。
アインズ様とアルベド様の恋愛は、30歳間近で若干あせるアルベド様が新人エリート(立場上)のアインズ様に迫るオフィスラブ?。対するシャルティア様との恋愛は、中学生初恋のシャルティア様(ただし耳年増)が部活の先輩であるアインズ様に迫る学園ラブコメ。さらに、主とメイドの冒険系恋愛も……。
まったくジャンル違いの恋愛を3つ楽しんでいる状態のアインズ様。
うん、ちょっとだけバレンタインデーの時に、暴動を起こそうとしていた人たちのことを思い出してしまいました。
気がつけば寿司はなくなり、白酒も最後の一杯を楽しまれているようだ。
そこで次はジューサーを出し氷と桃の果肉、そして白酒を加えてクラッシュする。桃色のスムージーになったら、背の高いカクテル・グラスに赤ワインと、桃のスムージーを入れ、軽くステアし最後にミントを一枚乗せる。
「家庭料理からの派生ですので、名前はございませんが、桃と赤ワインのスムージーにございます」
「赤と桃のグラディエーションが美しいな」
そして合わせて二種類のつまみをお出しする。
一つ目は、手まり寿司の延長で、白いかまぼこを真ん中で切り、イクラの粒を壊さぬように挟んだもの。わさび醤油をつける。
二つ目は、はまぐりにおろしたガーリックとバター、少々のジェノベーゼをまぶし、オーブンで焼いたもの。
飲み物をワインとして楽しむなら後者、白酒の延長として楽しむなら前者。そんな楽しみ方のつまみである。
「ああ、どちらも合うな」
美味しそうに召し上がるお二人に、小さなサプライズを。
「こちらの桃ですが、先日第六層で収穫したものです。林檎などと合わせですが、試験的に副料理長が栽培を依頼し、やっと形になったものです」
「なんと」
純粋に味のみを楽しまれていたアインズさまの表情がかわる。
「まだ、外では難しいですが、少しずつ成長しているのです」
「まさかこんな所で部下の成長を感じ。いや味わうことが出来るとはおもわなかった」
骸骨に表情があるかといえば難しいところであるが、言葉の端々から喜びが感じ取れる。そしてそんな喜ぶアインズ様を見るアルベド様の笑顔も、まるで慈愛の女神のようなであった。
正直いえば、アルベド様は時折、アインズ様と自分以外いらない。いや、アインズ様さえ存在すれば自分さえもいらないという、大欲界天狗道の亜種ような雰囲気を醸しだされている。
逆に言えば、アインズ様一人が犠牲になれば、総てが丸くおさまるんだ。男一人の苦労と女一人の破滅を天秤にかけるなら、迷わず男の苦労を選択する。そんなわけで、一つカンフル剤を投げ込むとしよう。これもバーテンダーの努め。お客様に楽しんでいただくための余興である。
「アインズ様。そういえばそろそろホワイトデーですが、ご準備はいかがですか?」
アインズ様は顎が落ち、時間が停止している。
アルベド様はただただ微笑み、アインズ様を見ている。
さて楽しそうなイベントがもうすぐはじまる。
*******
あとがき
次回はホワイトデー。
アインズ様は、アルベドの魔の手から逃げ切れるのか。
しっと団を突破し、プレゼントを届けることができるのだろうか。
それにしても、もう一つの連載よりこっちのほうが書くペースが早い。
やはりキャラが固まっているからなのだろうか。
すでに後編の前半は書けてるし。
ま、儂自身が食道楽だからな!
先週末食べたうどん棒と日本酒の組み合わせはよかった。
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