サプリメント03 2月のイベント後編(バレンタインデー)

骨折した肩の療養中に諏訪部順一氏のバレンタイン・キッスをエンドレスリピートすることで、完成することができました。


さすが嫁から課題曲をいわれただけある(ぉ



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 節分から数日。

 ここナザリック地下大墳墓で、少しずつだがバレンタインの話が聞こえるようになった。



--2月14日は女性から日頃からお世話になっている方や友人。恋人や家族にチョコレートなどの贈り物をする日。ただしアインズ様へのプレゼントは自重すべし。なぜならナザリックの全員が贈り物をしては、受け取るアインズ様を困らせるため。よって身近な人を選ぶべし。



 ナザリック風にアレンジされた内容ではあるが、至高の方々が生きたリアル世界の風習の一つとしてまたたく間に広まっている。なによりアインズ様にご許可をいただき広めたのも大きい。

 もっとも私一人で広めることはできないので、何名かの方にご協力いただいている。たとえば食堂を預かる料理長と副料理長は、事前予約したナザリックの住人に一人あたり二個ずつお菓子を渡すという企画を準備しているようだ。二個の理由は、相手といっしょに自分も食べたいだろうということらしい。

 そんな中、私のところにも依頼が舞い込んできた。そこでBARを一時的に貸し切りにして対応することとなった。




******テイク1



 バレンタイン前日の午前中。茶髪のメイドがBARの扉を静かに押し開けた。


「ようこそツアレ様」

「今日は、よろしくお願いします」


 バレンタインの話が広がると真っ先に連絡をしてきたのはツアレ様だったので、本日のBAR貸し切りトップバッターとなった。


「作るものは以前お話されたもので良いでしょうか」

「はい。アップルパイを作ろうと思います。」


 聞けば外の世界でもバレンタインそのものはあるそうだが、チョコレートが高級嗜好品のため貴族の風習だと。逆に庶民はパイなどを家族や恋人に振舞う日だそうな。特に果物のパイは甘味が少ない庶民にはごちそうだとか。

 そんなことを話ていると、ツアレ様の準備がととのったようだ。リラックスを目的にもう少し話題を振るつもりで、目に付いたやけに綺麗なエプロンのことを質問してみる。


「とても素敵なエプロンですね。わざわざ準備されたのですか?」

「いえ、今日こちらに来ることのご許可をいただきに伺った際、セバス様に必要でしょうからと渡されたものです。きっと私の浅はかな想いなどお見通しなのでしょうね」

「きっとツアレ様だからこその気遣いですよ」


 恥ずかしそうに小さく微笑むツアレ様を見ながら、セバス様の行動を一人の男として絶賛する。

 さすがはセバス様。さりげない気遣いながらも相手に印象付けるテクニック。きっと必要以上の言葉は無く、しかし必要なコミュニケーションをこなし、今回のようなときは余裕を見せ準備などを手伝っているのでしょう。


「さて材料は準備できてります。お手伝いは必要でしょうか」


「オーブンで焼くところだけお願いできないでしょうか。ここのオーブンは貴族様の家にもないような素晴らしいものなので、私には……」

「かしこまりました」


 そう言うとツアレ様は、料理を始めるのだった。

 パイ生地の準備からはじめる。全てが目分量。しかし私の目からみてもほぼ適量。パイのさくさく感を出すために混ぜるショートニングなども用意していたが、無塩バターを選択して混ぜられるあたり手馴れている。


「手慣れていらっしゃいますね」

「ええ、昔妹や両親のために良く作っていたので。私の村では娘が最初に覚える料理の一つですし」

「そうですか。芯抜きと皮むきが済んでいるりんごがありますが、いかがでしょうか」

「ありがとうございます」


 軽く会話しながらも手は止まらずパイ生地を寝かせている間に、りんごを受け取ると少し厚めに切り、砂糖とバター、レモン果汁をまぶし柔らかくなるまで中火で煮る。その後粗熱をとってナツメグやシナモン、ラム酒と混ぜあわせ冷ます。

 すべての準備が整うと、寝かせたパイ生地をパイ皿に敷き詰め、すこし間をおき具を敷き詰め最後にあまったパイ生地を網目の蓋のように組む。


「オーブンで220℃20分から25分ぐらいでよろしいでしょうか」

「はい。あ、色味と匂いをみていますので」

「わかりました」


 しばらくすると香りがかわり、生地がきつね色に変わる頃焼き上がる。最後にラム酒とアップルジャムを1:1でまぜたソースを表面に塗り、美味しそうなアップルパイができあがった。


「こちらは時間停止の冷蔵庫にいれておきますので、明日取り出したときも暖かいままですよ」

「ありがとうございます。明日取りに伺いますね」

「はい、かしこまりました」


 そういうとツアレ様は、まだ仕事があるというのでメイド服を直し、急ぎ仕事にもどられるのだった。

 それにしても外の料理ということで、観察させてもらったのですが、素材の違いはあるものの工程はほとんど同じ。ある意味クラシックなパイが、外の世界にもあるとわかったのは行幸。では、どんなアレンジされた料理があるのか、楽しみになったのは別の話である。

 


******テイク2



「やっと時代が私に追いついたということでありんすね」

「いらっしゃいませ、シャルティア様」


 BARの扉を勢い良く開け放ち、シャルティア様が入店された。

 そう、二人目はシャルティア様である。


「事前にお伺いした際、材料だけ指示をいただきましたが……」

「料理スキルがなくとも、ペロロンチーノ様が私のために残していただいた知識が……ね」

「かしこまりました」


 アインズ様に聞く限り、NPCには設定を書き込むことができたという。その設定は基本創造者が自由にしてよく、NPCの知識や経験の元になったという。特に守護者を担当した至高の方々はかなり設定を書き込むタイプだったらしく、シャルティア様の創造主のペロロンチーノ様も設定にいろいろ書き込んだ結果、今回のレシピとなったのだろう。しかしどんな設定を書き込んだのか……。

 さて話は戻し、準備したのは生クリーム。チョコレートをお出しする。


「アインズ様から教えていただいた料理の方法は、切断・粉砕・解体は可能で、分量を測って混ぜるや盛り付けはダメという認識でよいでありんすか」

「はい。その通りでございます」

「では、まずチョコを粉砕するでありんす。これはわらわでもできること」

「はい可能です」


 そういうとシャルティア様は準備された包丁を持ちチョコレートを粉砕しはじめた。そう、削るのではなく粉砕というあたりがなんとも豪快である。


「できるだけ、均一であるほうが溶かすときに楽になりますし、味も均一になりますので、ご注意を」

「なかなか面倒でありんすね」


 といいつつも、手を抜かないのは送る相手がアインズ様だからだろう。

 あのバレンタインルールは、アインズ様に一定以上親しくないと贈り物はかえってお邪魔になるという論法。しかし守護者であれば、その「一定以上」に該当するのだ。

 気がつけば、シャルティア様の豪快な粉砕がおわったようだ。まな板は破壊されていないが、結構傷が酷いことになっている。これは交換でしょうか?


「このチョコを湯煎で溶かしつつ、すこしづつ混ぜながら生クリームを追加するでありんす」

「それは料理スキルが必要そうですね。私が」


 湯煎しながら粉砕したチョコを溶かし、少しずつ生クリームを加えて混ぜる。急げば固まってしまい、機械の泡立て機を使っていないので少々時間がかかる。

 シャルティア様もの珍しそうに見られえているので、少し話題を振ってみる。


「チョコレートのホイップクリームでしょうか?」

「その認識で間違いないけど、終盤は氷水を当てながら泡立てるとき、この液体を追加するのがペロロンチーノ様レシピでありんす」


 シャルティア様が取り出したのは、綺麗なガラスの小瓶に入った赤い液体。以前見せていただいた、ポーションのように見えるも粘りや色味が若干違うように見える。


「その赤い液体は」

「わらわの血液」


 リズミカルに混ぜていた手が一瞬固まる。もっともよく考えれば真祖のシャルティア様が、血液を利用した料理を知っていてもおかしくはない。実際、客に訪れるヴァンパイアの中には血液とワインを混ぜて飲む人もいないわけではない。しかし元日本人と思われる至高の方々はどうだろうか……。

 一抹の不安を飲み込み、何事もなかったように返答する。


「かしこまりました」


 それ以上突っ込まず、指示されたように血液が固まらないように注意しながら混ぜる。


「このクリームを体に塗り、リボンを結べばアインズ様に食べていただけるはず。ふふふ、ああ、ペロロンチーノ様。時代を先取りした叡智を残していただけるなんて、さすがは私の創造主」


 うん。何も聞かなかったことにしましょう。

 そんなこんなでシャルティア様血液入チョコレートホイップクリームが完成した。


「あ、もう出来上がったでありんすか。それは重畳」

「はい、 デコレーション用の容器にいれておきます」


 そういうと、シャルティア様は上機嫌にお店を出られるのだった。

 しかし、自分にリボンとホイップクリームはいいのですが、アインズ様を私室に連れこむ算段は付いているのでしょうか?

 それにしても血液料理ですか。この辺はほとんど料理長の独占技術でしたから、私も研鑽したほうがよいのでしょうか。たしか、エスキモーはあざらしの血液をビタミン源として飲んだという。ほかにもブラッドソーセージというのもあったような。

 そんなことに考えながら、次の準備をすすめるのだった。




******テイク3



 バレンタイン当日朝、エントマ様がBARを襲撃し20食以上のお菓子の作成を要求。無論予約なんてことはない。しょうがないので、手軽に作れるココアパウダーをかけた生チョコを作りお渡しする。

 どうやらお世話になっているプレアデスの面々や、守護者の方々に配って回るとのこと。

 あ、1ついただけるのですね。ありがとうございます。まるで孫娘が、チョコをくれた時のように、少しうれしいですね。自分が作ったものですが……。



 さて、お昼が近づくころ妙齢の女性がBARの扉を開ける。


「ようこそいらっしゃいました。アルベド様」

「ええ、お願いしていたものはできているかしら」

「はい」


 そういうと、冷蔵庫から小さなガラス製の美しい容器を取り出す。中には一口サイズのハート形ビターチョコレートが数個おさめられていた。


「ご注文通りのハート型で一口サイズ。ビターチョコレートに中にブランデーに漬け数日寝かしたナッツが入っております」

「ありがとう。飲み物の方は」

「こちらに」


 取り出したのは、茶色がかった乳白色の液体が入った瓶。


「チョコレートリキュールに、ダージリンセカンドフラッシュのアイスティーを加えたものです。試飲されますか」

「ええ、一口もらえるかしら」


 小さなグラスにそそぐと、まるで白く輝く砂丘に薄い茶色の複雑な模様が広がるような、立体的な美しさが描かれる。

 アルベド様は、グラスを受け取ると軽く眺めたあと口をつける。


「チョコレートのほのかな甘みにアイスティーの爽やかさ。味の濃いチョコには合いそうね」

「はい。良い選択かと」

「きっとバレンタインを楽しむナザリックの下々の姿をみて、アインズ様もお心を慰めることでしょう。とはいえ仰々しくプレゼントをお渡ししてはお邪魔かもしれませんから、政務の休憩時間にでもお渡しさせていただくわ」

「それがよろしいかと」



 実際、アインズ様がバレンタインを許可したのは、ナザリック内の交流のため。上司部下の垣根を超えた交流から、心の豊かさが生まれることを期待しているのだ。でも、自分が貰うということは、話しを聞く限り想定していないようなので、アルベド様のお気づかいはきっとうまくいくことでしょう。


 シャルティア様?頑張って寝室か私室までアインズ様をお呼び出しできれば、ワンチャン?





バレンタイン当日夜



「いかがでしたかバレンタインは」

「まさか、君からこんな提案があるとは思っていなかったが、終わってみればなかなか楽しむことができたよ」

「ありがとうございます。デミウルゴス様」


 カウンターに座るのは守護者のデミウルゴス様。

 今回バレンタインをナザリックに広める際にご協力をいただいた一人。無論、ただの娯楽と最初は取られたようですが、リアルの風習ということでアインズ様の御心を慰める、そして飴とムチではないが、心理面の効果をお話して納得いただくことができた。


「それにしても至高の方々の住まうリアル世界の風習ですか。なかなか興味深い」

「至高の方々も、このようなイベントを楽しむことで、普段度の仕事を効率的にこなしていたことでしょう。メリハリともうしますか」

「そうですね。私も効率ばかり求めていましたが、なかなかどうして娯楽を挟むことで、相対的には効率があがるようだ」


 実際、恐怖で心を押さえつけることはできるだろうが、そこに一条の光を当てることで、そこに依存してしまう。きっと悪魔であるデミウルゴス様は洗脳的手法の有効性を、今回のことで見て取ったことでしょう。

 さて、私はシェイカーにチョコレートリキュールとウォッカ。そして少量の生クリームを加え、軽く成句する。そしてカクテル・グラスに注ぐ


「トリュフティーニにございます」


 デミウルゴス様は軽くグラスを傾ける


「今日は甘めのものが多いね」

「恋人が愛を囁く日であり、家族の情を確かめ合う日でもありますので。甘いものですよ」

「甘いものは嫌いではありませんが、今日に限っていえばもう結構かと」

「なるほど、多く頂いたのですね」


 この悪魔の紳士は何も答えないが、きっと一年分のお菓子を食べたのだろう。アインズ様へのプレゼントが規制されれば、自然と守護者にプレゼントは集まる。無駄と断じてプレゼントを捨てないあたり、この御方なりにナザリックを愛されているのでしょう。


「そういうバーテンダーはどうだったのだい」


 デミウルゴス様が何気なく水を向ける。そうすると奥のテーブル席で小さな可愛い包を一つ机に置きふんぞり返るヴァンパイアと、机の上に何もなく、泣きながらひたすら酒を飲み続けるワーウルフがこちらに顔を向ける。

 表情に変化がなく、ただ首だけが90度回転する様はホラーであるが、ナザリック地下大墳墓でホラー体験など普通のことなので気にならない。


「私ですか?配ってばかりで、試食のようなタイミングで一つ頂いただけですね」


 そんな私の言葉に、ヴァンパイアからもワーウルフからも仲間判定が出なかったのだろう。巻き戻るように90度首が回り、会話が再開される。


「であれば、次回は種類を増やして欲しいというのが要望かな。同じプレゼントを食べ続けるのは辛いものが有る。たとえナザリックの同胞からのプレゼントとはいえね」

「了解いたしました。料理長などにもお伝えしておきますね」


 たしかに、数種類のお菓子では、プレゼントをはじめると集まるところには同じようなものばかり集まることになる。料理スキルがないから尚更。来年の改良点といったところだろうか。


「アウラのように、もらったお菓子を片端から食べるわけではないのだからね」

「アウラ様……」

「彼女はなんだかんだと面倒見が良いからね。守護者の中では一番もらっているのではないかな」


 アウラ様は性別女性だったはず。どこの宝塚だろう。

 でも、実際外に中にといろんな場所に顔を出し、明朗快活を絵に描いたような方だ。人気が高いのも頷ける。


「また、今回のようなイベントがあればおしえてくれたまえ」

「かしこまりました」

「なにより、このようなイベントはアインズ様の御心を慰めることにもつながるだろう」


 そういうと、いつものようにブランデーのロックなどを楽しまれ、デミウルゴス様は退店された。

 その後、勝ち誇るヴァンパイアとひたすら壁を殴るワーウルフを叩き出し、しばらくすると日が変わっていた。

 いつものように、フロアを掃除し明日の準備をはじめたところ、ユリ・アルファ様が来店されたので、いつも通り準備中の札にする


「いらっしゃいませ。いつものビールよろしいでしょうか」

「ええ」


 ユリ・アルファ様がカウンターに座り、氷結したジョッキにビールを注ぐ。

 そしていつものように一気飲み。その姿は女性に言うには失礼になるが、あまりにも男らしい。飲み終わった後に、続く一杯をすぐさま準備する。


「ぷは~。この一杯のために生きている」

「ユリ姉さん。ビターチョコのスティックととかもあるけど、どうだい?」

「うん頂戴」


 お通しとして、ビターチョコを薄く引き伸ばし、スティック状に丸めたものをお出しする。

 美味しそうにチョコを食べつつビールを飲んでいると、ふと何か思い出したように荷物をあさり出す。


「そうだ、これあげる」

「これ……ですか?」


 手渡されたものは、上質な布のリボンでくるまれた四角い陶器の器。


「うん。日が変わっちゃったけど。手作り……よ。ひさしぶりだったけど」


 丁寧にリボンを取り、陶器の器を開けると、そこには若干形がいびつなハート型のチョコレートクッキーが入っていた。

 私は、クッキーを一つつまみ口に入れる。

 ふんわりと香るバターの味に、甘すぎないチョコレートの風味。しかし、後味が強く残らないさっぱりとした口当たりは私の好みである。そんな絶妙な加減が嬉しく、どこか懐かしい。


「ありがとう。ユリ姉さん。うれしいよ」

「うん。よかった」


 ユリ姉さんが、照れくさそうに微笑む。

 そんな姿に惹かれつつ、料理の準備をすすめるのだった。


 その後、結局朝までユリ姉は飲み続けたが、途中うとうとされていたので厨房の奥にある休憩室兼仮眠室に寝かせる。きっと状態異常対策のアイテムと一緒に睡眠不要のアイテムも外されたのだろうか。


 静かに寝息を立てるユリ姉に薄手の布団を掛けながら、


「手を出すには、好感度がまだ足りないよ」


 と、そっと囁く。

 一瞬その長いまつげが動いたような気がしたが、気のせいということにしておこう。



 BARナザリック。ナザリック地下大墳墓第九層で営業する人外たちの楽園。お酒以外も注文次第では作りますが、お菓子だけのための来店はイベント以外ではご遠慮ください。ここはスイーツ自慢のCAFEでも、定食自慢の居酒屋でもないので……あしからず。






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