サプリメント01 お刺身定食?

今回はアルベド回。

スキルの解釈に独自解釈(捏造?)があります。



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 忘年会後、めっきりアインズ様の訪問率が上がった。

 いや、この言葉は正確ではない。8割は守護者の方と同伴だが、ほぼ毎日来店されるようになった。


 理由の予想は付く。地獄いやナザリックのトップとして幹部とのコミュニケーションを図る。という名目で日本食が恋しいのだろう。特に日本食OKで、ついに箸まで使いこなすに至ったデミウルゴス様とアルベド様の日は、小躍りしている姿が幻視できるぐらい楽しそうに食事をされている。


「アインズ様。そろそろレパートリーが尽きて、同じものをお出しすることになりそうです」

「えっ」


 そんなある日、アインズ様は、美味しそうにかつ丼とほうれん草のお浸しにお吸い物の後、焼酎の玉露わりをたのしまれている。静岡の新茶を使った玉露わりが美味しかったので、再現してみたがお口に合ったようだ。


「ここ1ヶ月、出来る限り被らないようにしてますが、アインズ様の要求は思った以上に偏っておりまして、バリエーションが出しにくくそろそろ同じものを出してしまいそうです」

「そうか?」

「はい。具体的に申し上げますと、1人で来店される時は丼ものやラーメン、カレーなどの一皿・一碗モノばかりです」

「それは気がつかなかった」


 聞けば元独身サラリーマン。その選択も理解してしまう。私も生前会社に勤めていた時、遅くなり1人の食事を取る時はついついそんな選択をしたものだ。


「図書館の利用のご許可をいただけますか?レシピ本などでもあれば、いろいろ研鑽してみますが」

「わかった。図書館の利用を許可しよう。たしか、やまいこさんあたりがその辺の本を入れてたはずだから」

「ありがとうございます」

「無論同じ食事がでても問題はない。しかし新しいものも楽しみだだからな、うまく対応してくれ。あとほかに困ったことはないか」

「そうですね。外の食材や料理、お酒にも興味があるのですが」


 そう。現在のナザリックの外には広大な世界があるらしい。人間以外もいるというが、どのような食材があり、どのような料理があるのか。なによりどのような酒があるのか気になるのだ。


「そうか。しかし正直ここの料理のほうが圧倒的に旨いぞ」

「どのようなレア食材であっても大釜のおかげで入手可能ですし、お酒や汁物も私が一度経験さえしていれば再現可能ですからね」

「生前の知識も再現できるのが助かる。私の時代はもう天然モノが入手困難になって一部の富裕層しか食べることができなかったからな」

「私は食道楽でしたし、会社に勤めていた時も、上司や部下との食事でいろいろ美味しいご飯やお酒をいただきましたから」


 アインズ様の生きた時代は、聞けば効くほど庶民には地獄だとおもう。その時代に生きているかもしれない、自分のひ孫など血縁者がどうなったか、気にならないわけではないが。


「そう考えると、農業などに加えて加工業も重要か。ワインに日本酒なども研鑽には時間がかかると聞くからな」

「そうですね。私の料理で使う食材は、味にしろ品質にしろ 、2000年代の人間の叡智の固まりですから。多少は保護してでも研鑽することで、今と違う味が表現できるかもしれません」

「なるほど。……ん?」


 アインズ様がなにか気が付かれたようだ。手を顎に置きしばし考る。


「料理の研鑽だが、いっそ助手をつけて研鑽させてみるか」

「助手ですか?」

「ああ、以前料理スキルの確認をしたことがあるのだが…」


 その後アインズ様から料理スキルの不思議をご教授いただく。なるほど。この世界では料理スキルがないと料理ができない……ですか 。


「なるほど、プレイヤーやNPCでは料理スキルがないと料理ができないということでしょうか」

「うむ、外のモノは新たにスキルを習得できるようだが。プレイヤーは現状私しかいないから論外として、NPC1人と、外のモノを1人を修行させるのはどうか。本人の才覚もあるが、どのぐらいで習得するか見てみたい」

「1つ質問ですが、外世界の子供は料理を手伝わないのですか?その話ですと大人は、ほぼ全てが料理スキル持ちということになると思うのですが」

「ふむ、気が付いていないだけで最低限のスキルを身に着けているのかもしれないな。逆にプレイヤーやNPCはスキルと言う形で先鋭化しているので、スキルが無いことはイコール下手以下という扱いか。考察は後にするとして、まあ助手の件は追々考えていくとしよう」

「かしこまりました」


 なかなかおもしろい。自分以外が育てば新しい味が広がり楽しめるかもしれない。純粋に気が付いていなかったのか、無意識に避けてきたのかわかりませんが面白い着想です。むしろ私の技術もレシピとして可能なモノは残すことを検討したほうが良いかもしれない。

 そんな風に考えながら、後片付けをすすめるのであった。


******


 レシピ本を見る。

 正直言えば参考になるものと、そうでないものの落差が酷かった。


 アインズ様や他プレイヤーが生きる時代は、本当に食事の事情が酷かったようだ。合成食材をいかにおいしく食べるかといったレシピがいちばん多いのだ。合成食材とはいえ食材であり、下ごしらえや料理法など、勉強になる箇所はある。しかし見る限り一般家庭レベルのいわゆる家庭の味といったものは、かなりのレベルで失われてしまったのかもしれない。

 逆に一部の富裕層向けの研鑽の結果、高級料理の分野はかなり発達したようだ。もともと日本食は、日本人の繊細な舌に合わせて素材の味を活かす料理が多い。それは狭い国土と豊富な水資源などが背景なのだが、各種食材が時期を関係なく供給可能な、生産・運送・冷蔵・冷凍技術の進歩が後押しし花開く。逆に欧州はその広大な土地のため、どうしても旬のものを食すことは難しく、保存、加工技術が進歩した。そのためか、料理も下ごしらえがかなりのウェイトを占める。では、アインズ様の世界の高級料理というと、高級レストランがひたすらしのぎを削る状態のように思える。和洋関係なく新たな技法が考案され、融合し組み合わせの考察し、それこそ美食の限りをつくす。

 とはいえ、自然環境が壊滅しており、天然物といっても養殖ばかり。その意味では、高いお金をはらっても養殖しか食べれない富裕層というもの、滑稽なのかもしれない。

 

 さて、そのような背景を学びながら利用できるレシピや技法を写していると、妙齢の女性が1人こちらに近づいてきた。この時点でどなたがいらっしゃったか分かってしまう女性に対する感知能力の高さは、インキュバスゆえと思いたい。

 さて、一度手を止め顔を向ける。


「これはアルベド様。このようなところでお会いするとは」

「そうね。会いに来たというほうが正しいのだけど」

「お茶でも準備いたします。談話室でよろしいでしょうか」

「いえ、このままで」


 ここは図書館でもかなり奥まったところである。朝から調べ物をしているが、司書の方々も気をきかせ、近づかないようにされているので本当にだれにも見られたり聞かれたりしない静かな場所だ。


「椅子と小さな机しかございませんが、どうぞ」


 閲覧用の椅子を、奥からもう一脚持ちアルベド様にお声をかける。


「ありがとう」


 そういって静かに座られるアルベド様の姿と声を観察する。心拍数は若干上がっているが、表情も含めて変化は無い。しかし若干羽が動いている。アルベド様はアインズ様絡みだと羽に感情が乗るので、その辺のご用だろうか。


「最近アインズ様の関心が貴方にかなり集中しているわ。切欠は貴方の料理のようだけど原因がわからない。そして単刀直入に言うわ。私はその状況に嫉妬している」

「私は1人の臣下であり、また1人の料理人です。アインズ様は故郷の味を再現できるお店を懇意にしているにすぎないとおもいますが」

「故郷の味ということは、貴方はモモンガ様……いえ、アインズ様の故郷であるリアルについて知っているのですか」


 故郷というキーワードに反応したのだろう。一瞬とはいえアルベド様は声を荒げるも、すぐにいつものトーンに抑える。


「私の作る料理がアインズ様の故郷の味に近いのは事実のようです。あとアインズ様のリアルについては、お伺いしたことはございますが、あくまで酒の席でのお話ですのでご容赦ください」

「そう。たしかにその守秘義務だけは貴方の絶対だったわね」

「はい。たとえ拷問されようとも、口にすることはないでしょう」


 ナザリックには拷問技術や魔法で自白させる技術があることは知っている。というよりあの方からお話を聞いているので具体的に知っていたりする。しかしこれで解放してくれるようなら、アルベド様もわざわざ人目を忍んで来訪されることもないだろう。恋する女性というのは、いつの時代も強いのだ。ちょっとやそっとでは納得してくれない。


「アルベド様。実験が必要ですが、アインズ様に喜んでいただける方法が1つございます。酒の場でのお話はできませんが、結果的にアインズ様に喜んでいただき、さらにアルベド様の評価を上げ方法でご容赦いただけませんでしょうか」


******


 あれから数日。準備万端に整えアインズ様をお迎えする。


「ようこそいらっしゃいました。アインズ様」

「ア……アルベド?」


 そう、店に入られたアインズ様を迎えたのは、少々フリルが過剰に付いているが、白いエプロンに身を包んだアルベド様。私は礼をとった後は、定位置でグラスを磨いております。


「さあ、アインズ様こちらにどうぞ。お食事の準備は出来ております」

「あ……ああ」


 アルベド様は、口元に笑みを浮かべながらアインズ様を奥のカウンター席にご案内する。逆にアインズ様はアルベド様のお姿にかなり動揺されているご様子。アインズ様の時代でも新妻エプロンは存在していたのね。効果は上々のようだ。


「本日は、寒ブリとホタテのお刺身、かぶの味噌汁と五穀のご飯。きゅうりとなすの浅漬になります」

「ああ、うまそうだ」


 アインズ様の前にはアルベド様が配膳した食事が並ぶ。ご飯とお味噌汁は湯気はその暖かさを表現し、寒ブリはその身を油を蓄えつつも引き締めた味わい。アクセントであるホタテは特有の甘みと独特の歯ごたえがある。桂剥きをした大根など一切添えず、一般家庭の食事に見えるように工夫をした。

 アインズ様は静かに箸をとると味噌汁を一口。そしてかぶを一切れ。そのあとご飯と寒ブリを一口づつ。


「ああ、いつも通り旨いぞ」


 アインズ様は私の方を見ながらお褒めを言葉を口にされる。しかし


「本日の食事のほとんどはアルベド様が準備されました。私は味付けなどごく一部のことしか手をつけておりません。そのご評価はアルベド様にこそふさわしいかと」

「な……」

「料理としての味付けなどはすべておまかせしています。私は本当にお手伝いをしただけですわ」


 私の言葉にアルベド様は軽く口元を手で隠しつつ微笑みを浮かべ謙遜なさる。うん。日本人的感性とは思うが、やはり大和撫子的謙虚さというものは良いものだ。アインズ様も驚かれているがけして悪感情はない。むしろアルベド様の姿に見惚れつつも料理スキルの件が頭をいっぱいなのだろう。


「せっかくアルベド様のお作りになられた温かいお食事です。食べ終わったあとにゆっくりとお話されてはいかがでしょうか」

「そうだな。ああ、本当にうまい」


 アインズ様が美味しそうに食事をされるのを、楽しそうにみるエプロンドレスのアルベド様。

 その姿を見て私は感傷を覚える。妻に子供。幸せは一杯あった。しかし楽しく食事をしていた時こそ一番幸せだったのかもしれない。




******



 アインズ様が食事を終わられた後、アルベド様もエプロンを取りアインズ様の隣の席に座る。

 食後ということで、いも焼酎の黒霧島をお出しする。けして高いお酒ではないが、食後にほんのり甘く後味がすっきりしているのでなかなか良い。これをおちょこ2つに徳利を1つ。おのずとアルベド様のお酌で一杯。


「さて、先ほどの料理をアルベドが作ったと言っていたが。アルベドには料理スキルは無かったと記憶している。さらに言えば食べた限りいつも通り旨かった。これはどんな絡繰があるんだ」

「絡繰という程のものではありません。実際にあの寒ブリを捌き、そして切ったのはアルベド様です」


 私の言葉にアインズ様は、確認の意味をこめてアルベド様を見ると、アルベド様も静かに頷かれる。そしてアルベド様は今回の核心について述べられる。


「アインズ様。設問のようで恐縮ではございますが、魚を切ることは、戦闘の切断の違いはなにがあるのでしょうか」

「ふむ。切るという事象は変わらずということか」

「はい。たしかにまな板の上で切る行為と、敵相手に切るは意味合いは違うかもしれませんが、少なくとも切ることができました」


 アルベド様の言葉に、アインズ様は納得されたご様子。さすがはアインズ様ということか。スキルに対する深い知識があるからこそ、1の言葉から言わんとすることを把握される。


「今回アルベド様のご協力でわかったのは、料理を料理たらしめるのはなにか?というポイントで料理スキルがないと失敗したものを作ってしまうということです。例えば、刺し身を均等に切ることはできましたが、盛り付けようとすると、とたんに汚く並べてしまったり食材を潰してしまったりされました」

「なるほど。スキルは代用が効く範囲があるということか」

「幸い、包丁とは武器として使うこともできる刃物。クラス制限も受けなかったご様子。さらに言えば、美味しいお刺身の要素はどのようなものがあるかご存知でしょうか」

「食材の鮮度などはわかるが、そのようなことを言っているわけではないのだな。あいにく料理をしたことが無くな」

「食材の状態は重要事項ですが、刺し身の場合は切り方にございます。よく切れる包丁で熟練した技術をもって素材を切れば、素材の状態を保つことができます。その意味では、私以上にアルベド様の切るという技術は素晴らしいものであったといえます」

「ありがとう。でも料理として完成させたのは、貴方の技術あってのことよ」


 アルベド様から評価。いや美しい女性から評価されるというのは、男としても料理を作るものとしても嬉しい限り。


「魚をさばくこと。各材料を切ること。食材を洗うこと。調味料など事前に計量すること。そして皿などを準備をすることまではできました。逆に、計量されている調味料を鍋に入れるだけなのに、なぜか追加で別のものを入れてしまうなど、このあたりは料理スキルの範囲とわかりました」

「まさか食事からこんな面白い話を聞けるとはおもわなかった。すばらしいぞ」


 アインズ様のお褒めの言葉に礼を持って応える。しかし、今回はアルベド様の評価を上げるという側面もあるので、一言だけ付け加えさせていただく。


「今回の取り組みは、アルベド様の膨大ともいえる試行錯誤によるもの。いくら肉体的な疲れが無いとはいえ、やはりアインズ様への愛なくしてはなし得ることはできなかったでしょう」

「そんなことはございません」

「しかしアインズ様、美しい女性が自分のために料理を作るというシチュエーションは、いかがでしたでしょうか」

「まあ……う……うれしいものがあるな」


 アルベド様はそう言うと顔を赤らめながらも謙遜し、僅かに下を向く。

 アインズ様もその仕草が気になるご様子。以前お酒を飲まれながら、肉食系女子だとついつい引いてしまうと言っていたので、程よく押して波のように引く案をお伝えしたかいがありました。

 その後、アルベド様は定期的とは言わないが料理に参加されるようになった。アインズ様も喜ばれているようで何より。

 ちなみに、アルベド様が量産したダークマターは全て、スタッフ(常連のヴァンパイアとワーウルフ、消費しきれなかったものは恐怖公の眷属)が涙を流しながらおいしく(?)頂きました。

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