一日目 正午
ほっこりした気分でケセランパサランを見送った後、ふと気がついたことがあった。
……そう言えば、さっきのケセランパサラン、魔石ついてなかったな。
摩訶不思議な姿をしているのに、魔物じゃないとは異世界は本当に謎だ。
……ん? ハルは、え?
魔物とのハーフじゃない……?
ん? んん?
もし感情を視覚化できたなら、きっと今の私の頭上には大量の疑問符が浮かんでいるだろう。
ウォンとヨーデルを撫でくり回しながら、じっと考えを纏めようとした、その時、ピヨピヨピヨピヨと懐から音が聞こえてきた。
「……新着メールか」
使い慣れてきたスマホを操作し、新着メールを開ける。送信主は某勇者だ。相変わらずメール好きだな。
「題名 ゆるキャラオールスターズ完成!」
「本文 全国のゆるキャラほぼ再現出来た! クオリティやばくね!?
しかも見た目だけじゃなくて、なんと動く! 戦う! 掃除もする!
従来の威圧感のあるゴーレムとはおさらば! これからは可愛いゆるキャラを一家に一台置くことをオススメするぜ! というわけでライラック、一ついかがですかー!」
「添付ファイル」
……いつの間にか通販始まってた。
添付ファイルを開くと、本人の言っていた通りやたらとクオリティの高いゆるキャラ達が並んでいた。
所々リアル化が進んでいたり、美化されすぎだなーという奴もいたが。
私はそのメールに返信はせず、通話ボタンを押す。相手はもちろんメールの送り主だ。
「……もしもし」
『おー! 早速ご注文? 注文しちゃう? 今なら安くしとくよー!』
「いや、違う。まだ保留にしといてくれ。……それにしてもどうしたんだ? やけにテンション高いな」
そう、それが気になっていたのだ。
割といつもテンションの高いやつだが、今日は五割増で高い。ゆるキャラ君たちが揃ったにしても高い。
いや、恐らく逆だ。
テンションが高かったからゆるキャラ達が揃ったんだ。
『あー、バレてた?』
「そもそも隠してもなかっただろう」
『……んん、食堂、日本食っぽい食堂出してくれる店見つけたんだ』
その言葉に、腕をよじ登ってくるウォンを摘んで、また手まで下ろし、また登ってくるのを繰り返していたのが、止まるぐらい驚いた。
「え!? 同郷か!」
『いや、そうでもないみたいなんだけど、先代? 先々代? かの勇者に教えて貰ったメニューらしくて……めっちゃ懐かしい味がした!! 泣くかと思った!!』
「それでテンションが高いのか」
米見たときもテンション高かったしな。
『そうそう! そうだ! ライラックも行こうぜ! 今日は腹やべーから明日とか!』
……明日は何か用事……あるわけないな。
何時でも基本フリーである。
アウトドア系ニート? サバイバル系ニート?
ウォンやヨーデル達さえ良ければ何時でも動けるのだ。
「ちょっと待ってくれ、ふたりに聞いてからだ。……明日街に行くか? ウォン、ヨーデル」
ウォンは腕からころころ転げ落ちながらも、しゅぴっと手を上げ「キュキュー!」と鳴いた。よし、オーケーだな。
ヨーデルは見てるこちらが眠たくなりそうな顔をしながら「メェ……」と小さく鳴く。……これはどっちでもいいよ、って合図だな。
「ふたりとも行けるそうだ。明日だな。分かった」
『お! よっしゃ! 明日なー』
通話の切れた画面を眺めながら、何か忘れているような気がすることに気がついた。
……ん?
暫く頭をひねったが、なかなか思い出せない。
あんまりにも思い出せないものだから、ヨーデルの黄色い羊毛をよしよし撫でていると、はっと気がついた。
ケセランパサラン! ハル!
あほか私は。慌ててスマホを開き、ハルに電話をかける、が、すぐには繋がらなかった。
取り敢えずメールで聞くか……。
後回しにすると今みたいに忘れそうだしな。
随分最初よりは手慣れた動作で私はメールを打ち込んだ。
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