一日目 午前十時
ケセランパサラン、か?
握りこぶしぐらいのケセランパサラン(仮名)が、器用にも毛にどんぐりを絡めて浮かんでいる。
大きな目玉がこちらが気がついたことに気がついたようで、じっと二つくりくりと見つめていた。
小さな体躯には些かどんぐりは重すぎたようで、じっとこちらを見ながらケセランパサランはよろよろと木の影へと後退していく。
その姿はさながらイタズラがバレた子供のようだった。
その姿をじっと見つめていると、ある欲求が私の中に浮かんできた。
……ケセランパサランの肌触りが知りたい。
一歩進む。
ケセランパサランもゆらゆらと後退する。
一歩進む。
ゆらゆら後退する。
大股で一歩進む。
ゆらゆらゆらと後退していく。
何時までも続くと思われたやり取りは、ぽふっとケセランパサランが木に追い詰められたことで幕を下ろした。
___
もふもふもふもふもふもふもふ。
「あー、ふわふわ。もっふもふ」
されるがままに撫でくりまわされているケセランパサラン。それでもどんぐりは手放さない。
しかもそれだけではなく、地面には撫でさせてもらうために、ケセランパサランとの交渉で取引された多種多様のどんぐりが転がっていた。
どんぐりには何か
……それにしても、なんだこの撫で心地。魔性だ。まるで天日干しした後の布団にダイブしたときの満足感を感じる。
ウォンがじっとケセランパサランを見つめているので、ウォンの隣に移動させる。
ウォンは興味深げにふんふんケセランパサランの周りを回った後に抱き着いた。五秒もしないうちに顔がとろける。
更にその隣にヨーデルをそっとおく。
ヨーデルはケセランパサランに頭を擦り付けながら、寝た。
……なんだ、ここが天国か。
スマホに内蔵されたカメラを無言で押し続ける。もちろん音が極力出ないように音の出る場所を指で抑えながら。
なんだろう、目頭が熱い。
撮影ショーはしばしの間、続いた。
「ありがとう、本当にありがとう」
ふるふるケセランパサランの身体がゆれ、沢山のどんぐりを頬張ったまま、その場からゆっくり飛び立っていった。
飛び立っていった、は正しくはないかもしれない。ものすごい低空飛行だ。
それでもしっかり飛んでいくケセランパサランに、私は今更ながら魔法書を開いた。
「『日向のピクシー』
太古から存在する$%€×。現存するピクシーは極僅か。見つけると幸運が訪れるとされる」
……んん? 文字化けか?
初めて起きた現象に私は首をかしげ、次に
「ピクシー……ってハルが言っていた、あの!?」
ハルの言葉を思い出しぎょっとして遠くをふわふわ浮かぶ真っ黄色の綿菓子(ピクシー)を見つめる。
とうのピクシーはふらふらしながら時折木に当たりそうになったり地面に擦れそうになったりしてあたふたしている。
「こういってはアレだが、イメージと、違った……」
なんだあの生き物、可愛い。
いや、決してハルのことをどうこう言っている訳では無いのだが、普段の怪力やら怪獣対戦やら音を超えた瞬足やらを見ていると、なあ。
誰かに向けた言い訳を心の中で呟きながら、私はピクシーが地面にぶつかってぽわんと跳ね上がるのをほっこりと眺めていた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます