一日目 午後二時

 再びどんぐりを落としながら森をずんずん進み始める。


 ヨーデルも寝飽きたのかてくてく地面を歩き始めた。逆にウォンは遊び疲れたのか、ヨーデルの羊毛の中に埋もれている。


……羊バスだな。メェメェバスの方が良いだろうか……。


……運賃をいくら払えば乗れるんだろう。


 そんなことを考えながら、更にどんぐりを落とす。魔法袋の中にどんぐりが意味がわからないぐらい大量に詰められていて、尽きる気配すらない。



どんぐりを百個ほど落とした頃だろうか。


「めぇ」


 ヨーデルが鳴き出した。そしてくいくいズボンの裾を噛み出す。どうかしたのか、としゃがみ込むと膝に擦り寄ってきた。


 すると私の顔を見て「……メェ」と小さく鳴く。


……なるほど、疲れたんだな。


 まだ幼いしな、と納得し、ヨーデルと背に乗ったウォンごと抱き抱える。籠の中はどんぐりを落としながら拾った謎の草で溢れかえっていた。



 ヨーデルを抱き抱えた時に、微かにピヨピヨと聞こえた。

 一瞬携帯かと思ったが、もっと、こう、肉声に近い音だ。


…………ピヨ……ピヨ。


……ピヨ……ピヨピヨピヨ。


ピヨピヨピヨピヨピヨピヨピヨピヨ。


 いる。背後でちっこいのが、しかも恐らく一匹じゃない。



 ゆっくり後ろを振り向くと、ものすごく見覚えのある雛たちが三匹でどんぐりをつつきまわしていた。

 真ん中の一匹は白い羽根を頭に付けている。まるでフェリスのような大きな羽根を。


 ……い、イーグライフのヒナ!


「ピッ! ピヨ!」

「ピヨピヨ!」

「ピーヨ! ピーヨ!」


 イーグライフのお父さん、お母さん。またお子さんが迷子になってますよーッ!


 さーっと体から血の気が引き、思わず内心でそう叫んだ。


 遊び疲れてヨーデルの羊毛でぐったりとしていたはずのウォンがひょっこり顔を出し「キュ!」とヒナたちに手を挙げた。


「ピヨ!」

「ピヨピヨ?」

「ピーヨ!」


 ウォンの声に釣られてかわらわら足元にヒナたちが駆け寄ってくる。……くっ、可愛い。この子達、相変わらずずっとピヨピヨ言ってる…可愛い。


「メェ……」


 ヨーデルが目線と鳴き声で降ろしてほしそうにしていたので、そっと地面に下ろす。集まるヒナ達。


 ヒナのひとりがヨーデルの腹に潜り込もうとしたり、ウォンが口にどんぐりを詰め込みすぎてひっくり返り、興味津々なヒナたちに囲まれていたりした。


……尊い!


 くっ、と目頭を抑え、上を向くと木々の太い枝にイーグライフがいた。お、おお。保護者同伴でしたか……。


 相当大きいはずなのに、気配が全くなかった。


 イーグライフは私と目が合うと、ヒナたちに視線を下ろした。そして私の近くに音もなく降り立つ。


「ピヨ!?」

「ピヨヨ……」

「ピーヨピーヨピーヨ!」


 驚く子や、察した顔をする子、必死で抵抗する子などがいたが、親は強しである、サッと全員を風で浮かばせて飛び立っていった。


「キュキュキュー!」


「……メェ」


 ウォンとヨーデルは彼らが見えなくなるまで空を見つめていた。


 ふと、地面をみると先程までなかったはずの真っ赤な木の実が幾つか転がっていた。ヒナ達は持っていた様子がなかったので、おそらく親からだろう。ヒナ達と遊んだことに対するお礼、なのだろうか…?


……い、いつのまに!?






 日も落ち始めたので、今日の探索を終え、私たちは洞窟に帰ってきていた。


 携帯画面を見るとハルからのメールが一件。


「件名 無題」

「from ハル」

「本文 あたしもよくしらないのだけど、ぴくしーはまもののげんしのすがたらしいから、げんみつにはまものじゃないのかしら」


 ……なるほど。人は元を辿れば海の微生物だが、人=微生物ではない、とそういう話だな。


 スマホの操作に慣れないらしいハルにほっこりしながら、私は薪に火をつけた。

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