あるアルバイターの一日

 人生平穏が一番だと僕は思う。


静かな田舎の縁側で、のんびり抹茶を啜るような生活をするのが僕のささやかな夢だ。


なのになんでこんな事になってるんだろう。




「この出来損ない……足止めもロクに出来ないの?  なんで勇者をこっちに追い立てたの? 殺されたいの?」


 赤髪で腕に羽毛がびっしりと生えていて、爪が鋭く尖ったびっくり人間が同僚になるなんて。燃えるような赤髪を持つ妙齢の女性──ハーディ──はもう一人の同僚の髪をつかみあげて募っている。まだ幼い女の子だ。謎の角が生えてるけど。


「あらあら、やつあたりなんてかんしんしませんね。なかまにひきいれそこなった……あの方の命令をすいこうできなかったのはあなたもおなじではないですか」


 幼い女の子──ユニン──は無表情のままそう返す。その言葉に更に青筋を立てるハーディは掴むのを髪から首に変えた。くっ、と苦悶の表情を浮かべるユニン。



「まあまあまあ、二人とも落ち着いてよ」


「だまれにんげん」

「黙るの! 人間」


 あまりの剣幕に見てられなくなって止めに入ったらこれだもん。

無理だよ。抹茶飲みたい。


 縁側でお茶したい。将棋したい。日向ぼっこしたい。アルバイトやめたい。

 ただでさえ仕事内容がアレなのに同僚はこれだし。平穏なんてなかった。この二人の機嫌が更に酷い時は手も出る。足も出る。……勿論逃げるけど。


 僕は、はあーと重いため息を履いてアジトの椅子に座り込んだ。


 ハーディもユニンも黙れとユニゾンして言った後、早々に窓から飛び出していった。今頃はアジトの外で乱闘しているのだろう。


 僕は石製の冷たく、ざらざらしたデスクに突っ伏しながら、僕は少し前のことを思い出した。アメサスタのことだ。


「……人とまともに喋ったの久々だったなあ……」


 あんなに喋ったのは一年ぶりぐらいかも知れない。変に思われたかも。まあそりゃあ変だよね。ちょっとテンション上がっちゃったし。

……それにしても警戒心のなさそうな子だったなあ。この世界で大丈夫なのかな。


 思い出しながらのんびり笑って、僕は懐からぼろぼろの冊子を取り出した。文字も殆ど擦れて読めなかったけど、大丈夫。内容は全部覚えてるんだ。


 女の子が案山子やブリキの人形達と旅して魔女に会いに行く古い物語。昔昔、というほど昔ではないけども、ベットの中で聞いた童話のひとつ。


僕は女の子でも魔法使いでもない。


会えて役割を与えるなら、魔法使いの使い魔って辺りなんじゃないかな。

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