十二日目 正午

 不貞寝することに決めたのはいいが、肝心の睡眠がなかなか訪れず、私は動き出すことに決めた。携帯に表示されている時間を見ると朝というより昼前だった。大方それが原因だろう。


 どうも最近生活リズムがズレてきている。これでは不貞寝してる時間はない。いい加減起きてご飯を作らなくてはいけないだろう。



 私は昨日作った魔力水こと、ヨーデル達のご飯を魔法袋から取り出す。そして私とハルの分の朝ご飯(昼ご飯ともいう)も準備を始めた。


……何がいいだろう。


 一人だけなら適当に果実を齧るのだが、今日はハルがいる。流石に果実だけ渡すのは、健康には良さそうだが、申し訳ない気分になる。

 魔法袋を開けると果実や、何時ぞやに取った川魚、大きな芋虫、後は肉も少しある。食用の香りのいい野草や調味料もいくつか。


 ……川魚で何か作ろうか。


 包丁を取り出し、川魚を捌き始める。美しい料理は出来そうにもないが、最低限の料理は出来る。例えば、魚の腸を取り除いたりだとか。


 流石に生で食す勇気はないので、鉄串に刺して準備する。その中で一尾だけは三枚下ろしにしておいた。

 そして塩(ソルト)やほかの調味料で味付けしつつ、野草も一口サイズに切りそろえていく。


 魔法袋に入っていた歪な土鍋もどきを取り出し、中身を水で満たす。



 そして赤い火の魔石で即席の焚き火を作った。パチパチと弾ける音に気がついたのか、ハルが目を覚ました。


「……んん……おはよう」


「ん、およそう」


 水を沸騰させ、中に洗浄済みの野草を投入する。塩と、先ほど三枚下ろしにした魚の身をザク切りにして一緒に混ぜた。……味、薄そうだな。


 本当はつみれにしたかったんだが、仕方ない。魚だけで作ったら確実に崩れる。


 あと味噌欲しい。切実に。



「はっ、良い匂い!」


 ぼんやりとしていたハルが飛び起き、私の方を、いや、私の手元を見た。


「それは良かった。……そういえばハル、マイカは」


「持ってるわよ、任せて! 直ぐ炊いておくわ」


 被せるようにハルがバックの中から米(マイカ)の大袋を取り出す。流石。

 起きたばかりとは思えぬほどの身のこなしだった。


 直ぐ様マイカを研ぎ始めたハルを横目で見つつ、私は串に刺した魚を焼き始めた。皮が炙られ、透明の脂が滴る。


 私は土鍋をかき混ぜつつ、時々魚をひっくり返しながら、炊かれ始めた米を見た。



 焼き魚と汁物と、米。


……これぞ日本の代表的な朝ご飯である。もう昼前だが。

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