十二日目 午前

 光で顔の見えない両親が私に手を振っている。兄か姉かわからないが、歳のそう変わらぬ彼(又は彼女)が私の頭を撫でた。

 家族の周りは光で真っ白だった。だが、私の背後には影のような黒が蠢いていた。わざわざ振り返る勇気はなかった。きっとこれは恐ろしいものだ。



 だが、急に後ろに引っ張られ、私は背後に倒れ込んでしまった。



 痛みはなかったが何かの悲鳴と、擦り切れ、叫ぶ音、そして無慈悲なまでに強烈な光が私を飲み込んだ。





***




 私は光の中で目を覚ました。


 周りを見渡すとウォンが藁の中で寝ていた。ハルもニィドも、ヨーデルもいる。昨夜のうちに何処かに飛び立ったのかフェリスはいなかった。



……なんだ、夢か。



 知らぬ間に詰めていた息を吐いた。何だったんだ、あの夢。……家族の、夢なんて初めて見た。……なんだか優しそうだったな。


 どんな人達だったんだろう。


 どんなものが好きだったんだろう。


 頬丈をつきながら顔のない家族について夢想する。答えの出ない考えを打ち切るように、魔法袋に立てかけていた携帯が震えた。


 差出人は一人しかいないからすぐ分かる。

件名を見ると『話がしたい』と書いてあった。それもそうだ。

 彼らはあの後も色々やらなくてはいけないようだったから分かれたが、私も聞きたいことが割とある。勇者ってまじか。


……勇者ってことはだ。多分、ウォン達の変装もバレてるだろう。


 言っていいのか。いやいや、勇者に?

こう、あれだな。勇者って魔物を狩る立場なんだろう。つまり魔物の守護者と真逆だ。魔王レベルで対立する立場だろう。きっと。


……あのチートと戦えと……?


それなんて無理ゲー。


 同郷のよしみで見逃してくれないだろうか。

 いや、例え見逃してくれなくても、私が血塗れになればウォン達を逃がす隙ぐらいは私だって作れる、いや作ってみせる。


 人知れず生命をかける覚悟を決め、私はメールを開いた。



「from 神崎 優矢」

「件名 話がしたい」

「本文 別に隠してたわけじゃないんだ、マジで。言う機会がなかっただけで。

……いやいやだって、俺、実は勇者なんだ、とかどこの厨二病だって思うじゃんか。誰だって思う、俺だって思う。


p.s. 昼頃そっちに向かうノシ」



あぁああああ!! 私の覚悟を返せ!

思わず携帯を地面に叩きつけたくなった。


 安心するような、釈然としないような、そをんな気持ちを叩きつけるように「厨二病乙」とだけメールを打ち、私は不貞寝することに決めた。

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