九日目 午前九時

……ううん、なんだか周りがざわざわしている。


寝ぼけ気味の耳に入ってくる幾つもの音に、眉を寄せる。何かしなくてはいけないことがあった気がするのだが。


……はっ、そうだ。早く起きなくては!


今日は子供達の親を探す予定なのだ。そうのんびりとはしてられない。



『イーグライフ』

『ブラットウルフ』

『ヨーデル』

『ニィド』

『キャルロ』

親探しの必要なのはこの五匹だ。『ブラットウルフ』は恐らくルー達が知っているだろう。『イーグライフ』の生息地は一応知っているがどうだろうか。

それでも他は当てすらないのだからまだマシなほうだ。


「あら、起きたの。おはよう」


全身を魔物達に覆われたハルがこちらを見て微笑んだ。眩しいほどに良い笑顔だ。

いつの間にそんなに懐かれたんだろう。取り敢えず写真を撮らせて欲しい。


ちらっと優矢から貰った携帯電話を確認すると、驚くことにそれには写真機能が付いていた。そうだった。確かに優矢のメールに写真が添付されていたんだった! カメラ機能が無いはずがなかった。

流石勇者、伊達じゃない。


そこから暫しの間、撮影会が始まった。薄暗い洞窟の中だからフラッシュを焚きたくなったがそこは我慢した。音も気になったが、音の発生源らしきところを指で塞げば殆ど聞こえなくなった。よし。


途中で携帯電話に興味津々な『イーグライフ』の雛が画面を嘴でツツき出していたが、傷一つつくことはなかった。……これの耐久度はどのくらいなのだろう。


たまにウォンが携帯電話のカメラ部分を手で覆い隠したりもしたから真っ暗の写真もあったが、恐らく二百枚ほどは撮れただろう。

それでも容量はまだまだ空いている。なんだこの携帯素晴らしいじゃないか。


今までメール機能ぐらいしか使われていなかった携帯が今は光り輝いて見えた。文明の利器最高。


「キュー……」


やれやれとウォンの呆れたような鳴き声が聞こえた。だが私は知っている。ウォンも確かに楽しんでいた。歴とした共犯者である。




***




「ヴァイアス、調子はどうだ?」


目を覚ましたヴァイアスに声を掛ける。ヴァイアスは暫くぼんやりとしながらもゆっくりと身体を動かすと、ぱっと目を見開いた。


『カラダガ軽イ……! 』


そう叫ぶと何度か確認するように足踏みすると、洞窟を飛び出た。ヴァイアスは昨日の何倍もの速さで木々の間をすり抜けていく。

普段の冷静なヴァイアスからは信じられないほど明るい顔をしていた。

こんな魔物ヒトが数日前まで死にかけていたなどとは到底考えつかないほど。



「ね、効くって言ったでしょう」


「そうだな、全くその通りだった!」


それを私とハルは洞窟の入り口で眺めながら、お互いの顔を見合わせ頬をほころばせた。

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