九日目 正午
一頻り走り回ると、ヴァイアスは我に返ったのか少し恥ずかしそうに咳払いしながら洞窟に戻ってきた。
『……ヘンナトコロヲ見セタナ』
「いや、走れるようになって良かった。もう万全そうだな」
ウム、と頷き、ヴァイアスははしゃぎ回る我が子の元へと走った。他の子に砂を掛けるイタズラをしていたらしいヴァイアスの子はモナ共々、ヴァイアスに首根っこ掴まれて大人しくなっていた。
ヒナはぽてぽてと洞窟内を歩き回っているし、その後ろを灰色のわんこがついて行っている。
怯える針鼠のニィドはハルを時々ちらっと見たり、優雅な紫猫のキャルロの方を見てひっくり返ったりしていた。
当のキャルロは歩き回るヒナを横目で眺めては、くぁーっとアクビをして日向で横になっていた。そしてその枕になっている呑気そうな子羊。それでいいのか、子羊。
そんなふうに過ごしている子達を大きな木の籠に乗せていく。今日は親達を探すのだ。
「 ……メェ?」
「ニギャァ!」
「……プ、プァ」
「クゥ!」
「ピ! ピィピイイ!?」
ピァアアア、と特にびっくりしたらしい『イーグライフ』の雛っ子がカゴを飛び出して私の頭まで駆け登った。そして、何を思ったかそこで腰を下ろした。
こ、この爆発力……ただのヒナじゃない。
私はそっとヒナを頭から下ろし、籠の中に入れた。ピィ!? とショックを受けた鳴き声を上げていたがこれはヒナ自身の為なのだ。
もし、万が一、私がハルに運ばることになったら大変なことになる。
皆を籠に入れ終えると、その籠を持って私はヴァイアスの元に向かった。
「ヴァイアス、私はこれからこの子達を親を探すが貴方はどうする?」
『……ソウダナ、ワタシハ ワタシノ
「そうか、そうしてもらえると本当に助かる」
「なかなかアタシ達だけじゃ難しいものね」
苦笑いしながらハルは頬を掻く。私もその隣で頷いた。ヴァイアスの力を借りれるならかなり助かるのだ。
『ハル、ダッタカ。 ソナタ二マタ会ウ日ニハ必ズ
トリアエズ、今ハ探シニ行クツモリダ、とヴァイアスが言った後、少しハルが涙ぐんでいるようだった。私はヴァイアスに頼むと頭を下げた。
そしてヴァイアスの子と遊んでいるモナの元に向かう。
「ぷぅ?」
こてんと首を傾げてこちらを伺うモナの頭をわしわしと撫でる。肩で静かにしていたウォンが肩から飛び降りた。
「ぷぅ……」
「キュ、キュー」
と二匹で静かに話し合う。内容はさっぱり分からないが、深刻そうに話し合っていることはわかる。
「キュ!」
そしてモナの背中をぽんと叩く。
小さな指が指すのはヴァイアスの背中だ。
ウォンはヴァイアスの子にも二、三言鳴くと、二匹の背をその小さな手で力強く押す。
押されたモナは少し振り返り、私の方をじっと見てから「プゥ!」と決心したように力強く鳴いた。モナは念話を使えないが、その時だけは「ボク、行くね」という言葉が聞こえた気がした。
そして、ヴァイアスとその子供たちは洞窟を後にした。その背中をウォンと私は見えなくなるまでじっと見つめていた。
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