八日目 午後八時

それから魔草の群生地を後にした私達は帰り道を歩きながら、これからの予定を立てていた。


そう、連れ去られていた子供たちのこれからのことだ。


ヴァイアスの子供を含めるならば全六匹。今は大きな籠の中で皆揺られている。ちらっと顔を出した1匹のヒナがくぁーっと大きな欠伸をしていた。ふわっふわだ。


「……出来るなら皆親の元に返してやりたいな」


「……そうね」


ハルが欠伸をした子の頭を人差し指で軽く撫ぜるとそう言った。

籠の取っ手を加えていたヴァイアスも『ソウダナ』と頷き、少し歩を緩めた。

それからは、ぱきりと踏みしめた枝の折れる音だけが私達の立てる音になった。



日はすっかり暮れ、代わりに登った二つの月が私達を淡く照らす。

どこか遠くで梟の鳴く声が聞こえた。ふとフェリスを思い出した。彼は元気なのだろうか……。



***



それから一時間ほどして洞窟に着くと、すっかりウォンも、他の子達もすやすや眠っていた。いや、独りだけ起きている子がいた。


魔草の群生地で独りだけ籠から出なかった子だ。


小さな体を精一杯守るように覆う無数の棘。揺れるつぶらな瞳。

その子は一見ハリネズミのような姿をしていた。


少し違うのは鼠やハムスターのように伸びた尻尾の先に、丸くて灰色の毛玉がついていることだ。……冬用のニット帽についているアレみたいだな。物凄く好きなアレだ。時間があればずっと弄っていられる自信がある。


そんなちびハリネズミがぷるぷる震えたまま、精一杯警戒心を抱いて怯えていたのだ。


不謹慎かもしれないが、どう見ても可愛い。

なんだこの子可愛い。


予想外のハリネズミの愛らしさにノックアウトされそうになっていた。このままだと怯えているのに抱きしめてしまいそうだ。それは良くない。


私は隣で同じように悶えている同士ハルにそっと目配せした。


(どうしよう、可愛い)


同士が無言で親指を立てた。グッ!



子ハリネズミから静かに視線を外し、私は魔法書を取り出す。この子達の種族を知るためだ。親に返す時に必要だろう。


今回は種族名だけでいい。


そう思い、開いた魔法書のページ。


「一匹目『ヴァイアス』

二匹目『イーグライフ』

三匹目『ブラットウルフ』

四匹目『ヨーデル』

五匹目『ニィド』

六匹目『キャルロ』」


どうやら寝ている順番に並べられているらしい。

右端に親とモナと共に寝ているのは『ヴァイアス』だ。幸せそうな寝顔にほっとする。


その隣で寝ているのが、籠から顔を出していた雛だ。まさか『イーグライフ』だとは思わなかった。……こんな小さい子があんなに大きくなるのか。魔物セイメイの神秘を感じる。


小さく丸まるようにして寝ているのが、『ブラットウルフ』!?

灰色だから気がつかなかった……。そうか、灰色の子もいるのか。知らなかった。


めぇ、めぇと小さく寝言をたてているのが『ヨーデル』だ。ふわっふわの羊である。

きらきらした羊毛に包まれている。い、癒される……。


『ニィド』というのが、先程からぷるぷる震えている子ハリネズミである。

尻尾の大きなぼんぼんで顔を隠している。小さな手がきゅっと握りしめられているのが見えた。


白ベースに、淡い紫模様の入った『キャルロ』は子猫だった。緊張ひとつ感じさせぬ優雅な寝方をしている。なんだろう。女王様オーラを感じる……。



六匹目全員の種族名を確認した後、私は眠気に身を任せた。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る