七日目 午前
朝日が頬に当たり、私は薄目を開いた。
ぼんやり微睡む私の眼前を、緑の若菜が揺らいでいた。疑問符を頭に浮かべながら私はその新芽を見ていた。
どんどん若菜の周りから他の葉も生えてくる。いや、若菜の周りからではない。
寝ているモナの周辺からだ。
数分足らずで葉のベットを作り上げたモナ。まさに早業だ。
葉はどうやら、もっと陽の光の射すところに行きたいようで徐々に外に葉が伸びていく。
葉に連れられ、モナも外に──……
「いやいやいや」
流石に呑気に微睡んでいる場合ではなくなった。身体を起こし、外へ出ようとするモナを抱き抱える。
予想外のモナの寝相──これを寝相と言って良いのか分からないが──の悪さに動揺が隠せない。
もしかしてヴァイアスに出会った時、自分で外に出たのだろうか。いや、まさか……。
……うーん。
私は考えるのを止めた。
***
ヴァイアスは昨日迄の衰弱ぶりからは考えられないほど元気になっていた。そう、干し肉を食い尽くすほどには。
魔法袋に大量に入っていた非常食、干し肉はすっかりなくなっていた。
ヴァイアスは不満そうな顔をしながら干し肉を引きちぎっている。それが美味しくないのは私もよく知っている。だが、肉がそれしか残っていなかったのだ。
その隣でモナが干し肉の欠片をもぐもぐしていた。どうも、先程からずっともぐもぐしている。恐らく噛み切れないのだろう。
……後で吐き出させるしかないな。
「ライラックー、ご飯出来たわよ」
ハルがひょっこりと洞窟の外から顔を出す。煙が出るので火を使うときは外でするしかないのだ。
その声に、キュ! と肩の上でだらけていたウォンが、素早い動作で頭を上げて鳴いた。
「ありがとう、ハル。今行く」
小さく欠伸しながら、私はハルの元へ歩き出した。
……こんな生活が続けば良いのにな。
まあ、その為にも、まずヴァイアスの子供を取り返しに行かないとな。 そう簡単にはいかないだろうが、諦めるつもりはない。
──幼い子にとって、母親と引き離されることほど辛いものはないのだから。
ほんの一瞬、脳裏に薄ぼんやりと母の姿が見えた気がした。
***
「じゃあ、行きましょうか。アメサスタへ!」
ウォン達全員に魔法を掛け終えると、ハルはそう言った。
ウォンは前回と変わらず、ハムスターになった。モナは額の魔石と腹の模様がなくなった只の兎へと変わり、ヴァイアスは少し目つきの悪い、真っ白な猫に変化した。
……おおう、凄い変わりようだ。
転移石を掲げると、そこから光が漏れ出し、辺りを覆った。相変わらず目が眩む程の眩しさだ。
私は静かに目を瞑った。
いざ、アメサスタへ。
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