五日目〜六日目 午前
モナが産まれてから六日目の朝日が昇った。
ヴァイアスの体を蝕んでいた猛毒は朝昼晩欠かさず薬を塗ったことで、どうにか中和させることが出来た。あれだけ傷だらけだった体も、魔法を何度も使った事で大分塞がっている。
だが、麻痺毒だけはどうしても駄目だった。
猛毒と同じで、魔石を介しての魔法ではどうしようも出来ない。猛毒と違うのは、私には麻痺毒に効果のある薬を作れないということだ。この森の何処にも麻痺毒を治療する材料が無いのだ。
魔法書を使っても、何処にあるのか見当すらつかない。
先程から麻痺毒、と一口に言ってはいるが、単純に体が軽く痺れるだけのものではなさそうに伺えた。
手負いのヴァイアスが時々、痙攣したように引き攣ることがある。 苦しそうに呻き、地面を引っ掻き回して暴れ、あらん限りの力で吼えるのだ。
それがこの数日で何度も起こった。一向に良くなる気配を見せず、それどころか急速に衰弱していっている。
これが麻痺毒なのだろう。
私が麻痺毒と聞いてイメージしていたものより、かなり深刻なもののようだ。この調子だと何時まで持つかわからない。
寝不足でくらくらし始める頭を抑えながら、私は呻いた。
……一体どうすれば。
そんな私をモナとウォンが心配そう並んで座って見ている。
モナは私がとっさに庇ったあの時から少し態度が軟化した。知らない人からちょっとレベルアップしたぞ! 嬉しい。
私がしんどそうにしていると心配してくれたり、足元に駆け寄ってくれたりする。
そんなモナとウォンを見ていると、白色と茶色だからか、私はソフトクリームを幻視した。危ない危ない。
幾ら疲れているからとはいえ、ソフトクリームは無いだろう。
「キュ!」
「プウプウ」
……うん、可愛すぎか。
癒された私は二匹をわしわし撫で、元気を分けてもらいながら、私は頭痛を訴える頭を抑え立ち上がった。
……よし、頑張る。
まだ頑張れる。やれるぞ、私。
***
麻痺毒に少しでも効くかもしれないと思われる薬草を、森をうろうろしながら摘んでいる時だった。
突然辺り一面が眩い光に覆われた。だが、別段驚くことも、警戒する必要も無いことを私は知っていた。
「ライラック、久しぶりね!」
転移石で転移してきたハルが、片手を挙げで笑顔を零した。私は一瞬、ハルが救いの女神のように見えた。
……ハルなら麻痺毒の治療薬を知っているかもしれない。
そう考えたからだ。私は居ても立ってもいられなくなった。
「ハル、急ですまない! 来て欲しいんだ!」
「……え? 勿論良いけど、そんなに焦ってどうしたの?」
状況の飲み込めないハルの手を取り、私は洞窟の奥に向かった。ヴァイアスは先程暴れて疲れ果てたところなので、少なくとも後一時間は目を覚まさないだろう。
ロクに回らなくなった頭で、ぐるぐると私は思考を重ねる。
……もし、ハルが知らなかったら、最早打つ手はないに等しい。
今摘んでいる薬草も、殆ど気休め程度の効果しかない。ならば、私はヴァイアスを見殺しにするのだろうか。
それだけは駄目だ。絶対に。
日に日に弱り果てていくヴァイアスの命に、何も出来ないという事実が私にはどうしようもなく悔しかった。歯がゆかった。
そして、何より悲しかった。
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