二日目 正午
私は大きなルーの背に跨り、無造作に生い茂る深い森を駆け抜けていた。
ともすれば吹き飛ばされそうな強風に吹かれながらも、落とされないように必死にしがみつく。
モナを探すために目を開けて見渡し、少しでも声が聞こえないか耳を立てる。
ルーの落ち葉や枝を踏みしめ駆ける音、息遣い、木の葉の騒めき、水流の囁く音。
尾羽の長い鳥が滑空しながら、甲高い鳴き声を上げる。
その中に小さな魔物らしき鳴き声は聞こえない。
それらに変化が起きたのは、走り始めてから半刻ほど経った時だった。
前に魔草を採取しに来た辺りに着くと、ルーはその足を止め、ルーに追従するブラットウルフ達が警戒するように
ルーは私に目線を寄越し、魔草を生え群生地を見た。
……ま、まさか、この崖の上に……?
いやいや、生後二日の兎が此処まで来れる訳が無い、と思いたい。
だが、ルーが嘘をついているとも思えないのだ。
「キュ!」
私の頭に乗っていたウォンが崖の上を指さす。
ウォンもモナ(生後二日目)が此処にいるって思うわけだな。……そうか。
私の常識はまた一つ破壊された。
私は魔法袋から魔石を取り出し、何時ぞやに魔草を取りに来た時と同じように魔法を唱える。
『我願う 万物の力から我を解放せよ』
重力操作の魔法だ。
魔石の消費が半端じゃないので、あまり使いたくない魔法ではあるが、非常時にそんなことを言ってられない。
浮き上がってから数秒経つとやはり魔石にヒビが入る。定期的に魔石を取り替えつつ、私は崖を登った。
崖を登った先に広がるのは、一面広がる水晶体の魔草。
その中に、巨大な真っ白の毛並みを持つ魔物が倒れ込み、身を守るように蹲っていた。
……モナ ……じゃないよな……?
モナはウォンと同じくらいの大きさの筈だ。
この魔物は今のルーに近いか、それ以上の大きさがあるように見えた。
私はその魔物が気になり、近付いた。断じてもふもふが気になったからではない。
もしかするとその魔物の近くに、モナがいるかも知れないと思ったからだ。
近付くとわかる、微かに臭う血の臭い。
……まさかモナを食った、なんてことはないよな……。
ふと頭を過ぎった考えが現実味を帯びており、私は半ば駆け足で魔物に近寄った。
だがその考えは、すぐに間違っていたと気付いた。
その白い魔物が怪我をし、血を流していたのだ。酷くやせ細り、相当のたうち回ったのかその魔物のあたりだけ魔草が一本も生えていなかった。
一瞬死んでいるのかと思ったが、微かに聞こえる吐息だけがその生を示していた。
そして、ぐったりと横たわる魔物の腹の横にモナがいた。
……おおう。
これは一体どういう状況なのだろうか。予想していなかった事態に私は困惑した。
何がどうなったら生後二日の子兎と大型の魔物が、一緒に魔草の群生地にいると言うのだ。
幾ら考えても答えは出そうにない。こうなったら、困った時の魔法書だ。
「『ヴァイアス(白虎)』
海の様な深い青色の魔石を持つ魔物。
非常に強く、気性も荒い。
幼体の餌は魔石の粉に聖水と、魔草の種をすり潰したものを加える。
約五ヶ月で生体になる」
なるほど、
だが、肝心のどうしてこうなったかがさっぱりわからない。
私は魔法書を更に一枚捲った。
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