二日目 午後

「『ヴァイアス(白虎)』

名称未定 ()

性別 雌

状態 猛毒 混乱 麻痺毒 火傷 裂傷 骨折 昏睡 瀕死」



……何だ、これは。


魔法書を捲った先にあったのは、些か信じ難い事実だった。


ヴァイアスが何かと戦いこの傷を負ったとするならば、相手は麻痺毒を使い、炎を吐き、ヴァイアスの皮膚を切り裂く爪を持つというのか。


魔法書にヴァイアスは「非常に強い」魔物だと載っていたのだ。

それは、何時ぞやに出会ったBランクの鷹の魔物『イーグライフ』と同じ表記である。



そんな魔物がこの森にいるというのか。



今現在、異常状態がこれ程までに併発しているこのヴァイアスが、生きてること自体が奇跡と言えた。とは言え、このままでは何れ死んでしまうだろう。


だが、怪我を負った魔物に近づくことほど自殺行為と言えるものはない。




私が魔法書の次のページを捲っても、これ以上何も書いていなかった。


……結局モナが何故ここにいるのかわからず終いか。



私は腑に落ちない気持ちを抱えたまま、ヴァイアスの腹の横で寝ているモナを抱き上げようとした。


だが。


べし、とモナに後ろ足で蹴られた。痛くはないが、心がいたい。


「ブウブウ!」


起きたモナが私を見ながら抗議した。この鳴き声、抑揚の付け方、これは完全に拒否の構えだ。一体何故なんだ。


モナはヴァイアスの腹にまた擦り寄っていった。


……泣いていいだろうか?


内心そう思いながら、私は地面に「の」の字を書いた。

そんな私を見て、ウォンが「キュー……」とやれやれと言わんばかりに鳴き、首を横に振った。



***



モナを置いていくわけにはいかない。


だが、モナが手負いのヴァイアスから離れない。



ならば、どうすればいいか私は考えた。それはもう必死で考え続けた。



その結果、私は……





──手負いのヴァイアスを一緒に連れていくことにした。



考え過ぎて思考が迷走した自覚はある。だが、これしかないのだ。


申し訳ないが、ルーにヴァイアスを背負ってもらい、私達はルーの仲間のブラットウルフの背に乗せてもらうことになった。


ヴァイアスを背負うルーより、私達を乗せるブラットウルフの方が重そうにしていた。誠に申し訳ない。





洞窟に戻って来ると、ルーは役目を終えたとばかりに一鳴きして森へ駆けていった。


森へ帰るその前に全力でもふった。久々に全身でもふれるルーに会ったのだ。抱き着かずして何をすると言うのだ。



今の私が一つ言えるのは、本当に幸せでした……。




そして例のヴァイアスは洞窟の最奥にいる。


モナもそこにいるのだが、気絶しているヴァイアスが目を覚ました時が怖い。

手負いのヴァイアスが暴れ回ったら、小さいモナは簡単に屠られるだろう。


手負いの魔物は錯乱状態になり暴れる。これは身を持って知った事実だ。



ならば、手負いじゃなければいい。怪我しているなら治せばいいのだ。

幸い今の私は魔石を必要とするものの、魔法を使える。



決して不可能ではないはずだ。




まあ、一筋縄ではいかないだろうが……。


私は魔法書に書かれた「猛毒 混乱 麻痺毒 火傷 裂傷 骨折 昏睡 瀕死」と言う文字を見ながら眉間を抑えた。



……やるしかないか。

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