十六日目 後半
「ライラックゥウウウ!!」
砂埃を上げて走ってきたハルは私の目の前で急停止した。
ハルの桜色の髪が、砂と共に風にふわりと舞い上がる。
おおう……凄まじいスピードだな。
ハルは急停止すると、背中に背負った大きな荷物から、別れ際にお礼として渡した魔石を取り出した。
……その魔石がどうかしたのだろううか。
「ハル?」
意図がわからずハルの名を呼んだ私に、ハルは怒涛の勢いで捲し立て始めた。
「……ラ、ライラックに貰った魔石どうなってるの!?
使っても全然壊れないし、第一魔石自体の魔力濃度が恐ろしい程多いんだけど?!
一体どんな魔物の魔石なの!?
……じゃなくて! こんなもの人にほいほいあげたら駄目じゃない!!」
ハルは私の考え無しな行動を怒りながら私に魔石を返した。私はハルに返された、空色に輝く魔石を暫く無言で眺める。
……ほいほい渡したわけじゃ、ないんだけどなあ……。
私は無言で魔石をハルの手に戻した。
そんな私の行動にハルが心底呆れた顔をした。
「あのねぇ……今の話聞いてた?」
人差し指で私の額を二、三度小突くハル。
うう……地味に痛い。
「あだっ!……聞いてた、聞いてたから!」
ノンブレスのマシンガントークだったが、ちゃんと聞き取れた筈だ。
ハルが溜息をつきながら眉間に手を当てる。
「……なら、どうして」
「……ハルは同志だしな。」
モフモフ同盟の。
真面目な顔で私が言い切った。
数秒間が空いた後、ハルは小さく噴き出し、私達はお互いに手を強く握り合った。
同盟の絆を再確認した瞬間だった。
私達の足元では、話についていけないとでも言いたげにウォンが「キュキュ、キュ」と首を振っていた。
***
「やっぱり貰ってばっかりは性に合わないわ!」
ハルはそう叫ぶと洞窟の壁面を叩いた。洞窟が崩れないか些か心配になる程の反響音が洞窟内に響く。
貰ってばっかりって、私も米を貰ったのだけど。
あれは本当に助かりました。米万歳!
「ライラック!」
ビシッと指先を突き付けられる。失礼だとかそう言う以前に背筋が伸びた。
緊張で顔が強張る私に、ハルはにっこりと微笑んだ。
「街に行ってみる気はない?」
胸を張って、ハルが私を星の散る瞳で見つめた。
……それは願っても無い提案だった。
だが、どうやって?
私の疑問はそこに尽きる。
ハルは難色を示す私に「大丈夫。この魔石があればきっと出来るわ!」と力強く頷いた。
「……魔石で何か出来るのか?」
魔法を行使すること以外に?
私がそう言うとハルは「魔石で魔道具が作れるわ。」と返答した。
魔道具……魔法袋もその一種なのだろうか。
そして、魔石はその魔道具のエネルギーを供給する、言わば『電池』のような役割を担っている、のかね?
うんうん唸っている私に対し、ハルは彼方を見ながらガッツポーズを取っていた。
「この魔石があれば、『転移石』も作れるはずよ!」
そうしたら一瞬で街から街へ行けるわ!
ハルは熱く燃えていた。
そういや、ハルは商人でもあったな……。
街から街に一瞬で行ける道具があったら便利だろう。
「……ハル、ウォンとルーを街の中に連れていくことは出来るのか?」
ハルは私の質問に勿論! と頷いた。
「正し、アタシの魔法で変装させたらね。」
ハルはそう言うと、小さく呪文を唱え始めた。
ハルの体が淡く光っていく。
魔法を行使する合図だ。
光が収束すると、ハルが居なくなっていた。
代わりに成体の「ブラットウルフ」がそこに居た。
「……どう?」
ブラットウルフからハルの声が聞こえるのは、何だか変な感じだった。
「この魔法を使って、あの子達も魔物じゃない普通の動物に錯覚させるの。これなら大丈夫でしょ?」
「……ああ、凄いな」
思わずと言った風に呟くと、ハルは一瞬顔を歪めて、それから苦笑いを浮かべた。
「こういうのばっかり得意なのよ……アタシ」
***
「それじゃあ『転移石』作成してくるわ!二十日……いや十日でしてみせるから待ってて!」
ハルはそう言うと、大きな荷物を抱え手を振った。
私が数度手を振る間も無く、ハルの姿は見えなくなっていた。……足速いな。
私とハルがそんな会話している間に、ウォンとルーは藁の中ですやすやと夢の世界へと旅立っていた。
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