十日目
ハルに出会い、別れてからあっと言う間に五日が過ぎた。
ウォンとルーは相変わらず兄弟のように戯れ合っているし、私は変わらず朝は石臼と格闘して、昼になれば二匹を連れて森を歩いている。
五日間歩いて分かったことだが、この森に住んでいる魔物は、ブラットウルフ以外でも襲いかかってくることはない。
大抵逃げるか、我関せずで微睡んでいるかのどちらだ。
例外は魔物が傷を負っている場合だ。
一度、鷲に良く似た魔物に出会った事があるのだが、どうやら深手を負っていたらしく、不用意に近付いた私は大鷲の怒りを買ってしまった。
あの時は初めて森に出た時以来の、死の恐怖を感じた。ああ、鷲怖い……。
でも、物凄くもふりたかった。
怖い目に遭ったが、もふもふに惹きつけられた私が悪かったのだ……。
魔法書で調べてみたところ、あの大鷲は『イーグライフ』という魔物で、魔鳥類では最強クラスなのだそうだ。
よく生きてたな……本当。
しみじみと幸運を噛みしめつつ、私は再び川へやって来ていた。あれから六日間経ち、激流だった川の流れは大分落ち着いている。
まだ少し濁ってはいたが、川幅も半分程になっている。
ふむ、意外と細い川だな。
私は六日目にウォンとルーを籠に乗せるのを止めていた。
基本的には地面で歩かせるようにしていた。
もし疲れて寝た時は背のフードや、腕で抱いたりして洞窟へ帰った。
ずっと籠で移動していては、ルーが一人立ちする時に体力が十分付いていない、なんてことになっては困るからだ。
ウォンは既に仲間が絶滅してる中、野生に放つのは酷に思えた。
……だが、それは私のエゴかもしれない。
ウォンの為と良い人面した顔で言いながら、私はただ私の為にそうしたいのかもしれない。
私は迷っていた。
本心を言うなら、ルーにもずっといて欲しいし、ウォンとも一緒にいたい。
でも、それは私の我儘なんじゃないだろうか。
彼らの道を、可能性を消すことになるのでは、ないだろうか。
……まだ、少なくともルーが旅立つ日までは、まだ時間がある。
ウォンの寿命も魔物だからか、人間の私より余程長い。
だから。
私はその事柄に関して考えることを、放棄した。
私の足元で二匹が川に入りたいのか、じっと水面を見ている。
川は多少濁ってはいたが、水面は太陽の光を受けきらきらと輝いていた。
「キュ!」
ウォンが意を決したのか鼻先を顔に付ける。
ルーはウォンの周りをそわそわした様子で回っていた。
「……クゥ?」
ルーが回るのを止め、不安そうに鳴く。
ウォンは水面から顔を上げ「キュキュ!」と返事した。
私はその様子を手頃な大きさの石に座って眺めていた。うちの子可愛い。
完全に親バカの心境だった。
その日は散々ウォンとルーの遊びに付き合って、へとへとになりながら洞窟へ帰った。
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