第5話 斥候狙撃手は眠らない③ 空飛ぶ機械


日が山の稜線に沈み、牧村は薄紫の闇の中でぼうっと虚空を見つめていた。パワードスーツの上半身だけを脱ぎ、汗まみれのTシャツで牧村はただただショックと無力感に陥っていた。牧村が運び上げた猪は、血抜きとして脚を切り取られ、戦車の横にぶら下げられている。猪をまじまじと見たとき、牧村は言葉にすることのできない怖さを感じたのだ。

引き金の感触、火薬の匂い、血の匂い、自らの汗とアドレナリンの匂い。牧村は、初めて命のやり取りをしたのだ。14になるこの時まで、本島での肉といえば、合成タンパクとサルベージされた金属の味が染み付いた缶詰だったのだ。知識で知っていたとしても、牧村には大きすぎるショックが伴った。猪の血が小川を作り、それをぼやけた月がそれ照らし、不気味な光を放っていた。

戦車の影から嵐山がパンツ一丁で姿を現し、牧村にウェットティッシュの箱を投げる。

「いつまで黄昏れてるの?ほれ、着替えと拭く奴。さっさと気分切り替えてこう」

嵐山としては気遣っているつもりではあったが、牧村はそこまでサバサバと切り替えることのできる嵐山を不思議に思った。それが熟練の兵士だからできることなのか、血を見ても全く動じず、まるで何事もなかったかのように振る舞っている。

「はい。…着替え取ってもらえますか?」

「ああ、ごめんごめん。」

嵐山はそう言い、戦車の中から替えのTシャツを取り出した。

Tシャツを脱ぎ、夜風に身体を当て、火照ったままだった身体を冷却する。多少排ガスや血の臭いがするのを除けば、月に照らされた山は絶景だった。すっと遠くへ意識を向けると、直線的なコンクリートの建物を月明かりが照らしていた。牧村にはそれが、まるで小さい頃に遊んだ古いゲームに出てくる街に見えた。

「嵐山先輩、あっちの方は何かあるんですか?…先輩?」

返事が中々帰って来ないのが気になり、後ろを振り向くと、嵐山が中途半端に身体をくねらせ、赤面したまま牧村を見ていた。

「牧村…お前、女だったのか…」

むしろ今まで何者だと思っていたのか、Tシャツを脱ぎ、キャミソールが見えたところでようやく本来の性別を理解したようだった。

「れっきとした女ですよ…よかったら下も見ます?」

「いや、いい!いいから!もう十分わかったから!」

「というか、今まで男の子と思われてたんですね…」

「悪かった!その件は謝罪する!ね!今度フルーツパーラー連れてってあげるから!だから早く拭いて着替えて!!」

なんと、女性にあまり耐性がないのか、嵐山は顔を真っ赤にして戦車の中へ頭を引っ込めた。その後もガタゴトを何かに躓く音や何かを落とす音がしばらく聞こえ、収まった。今の今まで、彼を寡黙な天才スナイパーだとばかり思っていた牧村は、それを見て思わず吹き出してしまった。


● ● ●


「………。」

ボールペンを走らせ、せっせと地図に情報を書き込んでいく嵐山。

「………。」

その隣で、地図をぼんやりと見る牧村。

両者の距離は数時間前よりわずかながらに離れていた。正確には、嵐山が牧村を避けるように戦車の側面へと身を寄せていた。

「嵐山先輩」

「は、はいっ!?」

「なんか避けてません?」

「いや、気のせいだよ気のせい」

「本当にですか?」

「………。」

「………。」

諦めたかのように嵐山は息をつき、ペンとボードを置いた。

「ちょっと嫌なことがあってね、じょせ…女の子が苦手なんだ。」

恥ずかしげに語る嵐山を見て、牧村は意地悪したいという気持ちがむくむくと起こるのを感じた。座席を乗り越え、嵐山へと近づく。

「聞こえてた?苦手だって…」

「だからやっているんです」

嵐山の耳からイヤホンが外れ、甘いブルースが微かに漏れる。衣擦れの音がやけに大きく聞こえ、退路を失った嵐山はそのままずるりと下にずり落ちた。

「嵐山先輩、いや、嵐山中尉。私は、あなたにもっと見てもらいたいんです。」

牧村の手が嵐山の横に置かれ、牧村が嵐山を押し倒したような構図になる。

「男とか、女とか。そんな大雑把な括りじゃなくて、私に何ができるのか。一人前の兵士として活躍できるのか、それを教えてほしいんです。一昨日、中尉は勉強ができなくて何ができるとおっしゃいましたよね。今日、それを痛感しました。猪にすらすくみ上がって、判断を間違えてばかりでした。だから、教えてほしいんです。」

自分でも何を言っているのかわからないまま、牧村は嵐山の手首を掴み、自らの胸に押し当てた。嵐山がびくりと動き、視線をそらす。

「牧村…」

「中尉、私は、知るためなら、なんでもしようとたった今決めました。教えてください。兵士としての技術を、勉強を、そして、女としての振る舞いを。」

「牧村……。」

「さあ、早く教えてください。痛いことだって慣れっこです」

「牧村!!」

嵐山が突如起き上がり、牧村に強烈な頭突きを食らわせた。

「牧村、お前が何を考えてるかは分からない。だが、それは今すぐすべきことじゃない。今は、この任務を粛々と終わらせる時だ!」

「だって…!」

「それに、お前のその感情は、衝動的なものだ!少し頭を冷やせ。」

「違います!」

「違くない!上官命令だ!さっさと寝ろ!」

違うんです、という言葉はそのまま喉から出ず、涙と少しばかりの鼻血をぬぐい、牧村は寝袋へと潜った。


● ● ●


ガタガタと戦車が振動した。重い物を振り回すような、例えば砲塔のようなものを振り回した時のような振動だ。寝た時よりも僅かに明るく、何かが起こっていることを牧村は感じ取った。泣きはらした目をこすりながら寝袋から起き上がり、何が起こっているのかを知ろうとする。

嵐山が、かつてない真剣な表情で照準器を覗いていた。モニターが距離と風向き、風速を映し、それを見て手元のダイヤルをせわしなく調整している。

「起こしたか。」

嵐山は照準器を覗いたまま、そう言った。その間にも、手元のスイッチを操作し、微かにエンジンが動作する。

「まずいことになった。敵の船がいる。」

さらに画面を操作し、モニターの一部に照準器の映像を映し出した。夜の闇に消えかかっているが、確かに軍用の飛行船だった。

「見つかるかもしれん。そうなったら一巻の終わりだ。」

「高出力レーザーがあるから、ですよね?」

「…なぜそれを?」

「お父さんの本を時々盗み読みしていたんで…」

牧村の脳裏によぎったのは、何年も前のミリタリー雑誌の特集だった。世界中で次世代武器として開発競争の行われるレーザー兵器、その写真の一部と似た影を映像の中に見つけたのだ。

「まぁ、話がわかるなら話は早い。一発撃ったらスモーク焚いて逃げるぞ。」

レーザー兵器は一瞬で相手を溶断できる利点とは裏腹に、気象条件や悪天候に非常に弱く、雨が吹いても風が吹いても、灰が降っても使えなくなるという弱点を抱えていた。そのため、嵐山の単軽にも万が一のため煙幕が装備されているのだ。

発射用コイルが唸りを上げ、電力のチャージを始める。ダイヤルと画面を駆使し、ガコンと音を立てて砲弾が装填される。

「今の内にスーツ着ておけ。それと、ドア開けたり真ん中のところに手をおいたりするんじゃないぞ。」

音もなく充填ランプが赤から緑に変わり、砲弾を発射可能なことを告げる。

「発射確認。」

嵐山が淡々という。人の熱が失われ、最終チェックが行われる。

「弾種確認。対艦侵徹散弾。装填ランプ確認。発射用コンデンサーチャージ完了。」

操作盤の中心のカバーを外し、赤いスイッチを露出させる。

「3、2、1、発射」

その台詞と同時に、中央のシリンダーが激しく前後した。重々しい音と共に薬莢が砲塔から排出され、それと同時に単軽が唸りを上げて後退する。白く噴出する煙が辺り一帯に広がり、単軽を森の中へと隠した。

嵐山の放った砲弾は空中で無数の鏃に変わり、果物を散弾銃で砕くように飛行船を砕く。高熱の鏃は液体燃料が入ったタンクを撃ち抜き、気化した燃料が炎を上げて飛行船を包み込んだ。

山一つ向こうで大きな爆発が起こり、闇に沈む森をあかあかと照らす。斜面中腹の窪地に身を潜めていた単軽は、それを温度センサー越しに確認した。

闇に浮かぶ第二の太陽、白く煙る森と幻想的な光景に目を奪われた牧村だったが、すぐに気を取り直し、新しいヘルメットを被る。すぐにHUDの画面が起動してちらつき、牧村の身体情報を伝える通常状態に変化する。

バキバキと木を踏み倒して疾走する鉄の棺桶は、森の中を周期的に右へ左へと身を揺らす。不意に、その周期が途切れ、強烈な横Gに襲われる。動きが鋭角的になり、向かう方向もランダムになった。

「牧村!ドローンが生きてたみたいだ!外に出て迎撃頼む!」

「戦車砲で狙えないんですか!?」

「止まったら死ぬぞ!?」

「わかりました!」

迎撃の用意を―――今度はライフルではなく短機関砲―――を持ち出し、ハッチを開ける。生暖かい風、燃料の刺激臭、バタバタと唸るドローンの羽音、それらが牧村の気を引き締める。照準をHUDと同期させ、ドローンを探す。

その化物は、牧村達のすぐ後ろに居た。人ひとりほどの大きさの蜂が、目を爛々と輝か せてこちらへ向かって来ていたのだ。

牧村は迷わず引きトリガーを引く。蜂の化物に向かって放たれた鉛の弾幕は、ドローンの照準を狂わせた。

単軽のすぐ横を熱線が掠める。シャッと空気の沸騰する音が鳴り、ついでと言わんばかりにカーキの塗料を剥がした。弾丸の大半は防がれてしまったが、どこかに異常が発生したらしく、先程よりもふらふらとした頼りない機動になった。羽ばたく速度も低下し、単経と蜂の距離が広がる。

追跡を諦めたのか、蜂は高度を上げ、飛行船の落ちた方角へと戻っていった。

視界の向こうに蜂が消えた頃、単軽も速度を落とし、稜線の影へと身を隠した。


しばらくして。

「あのドローンを墜とす」

嵐山は一言だけを発した。

「勝てるんですか」

牧村は続ける。

「俺だけなら逃げ帰ってたが、今回は二人いるからな」

放っておくにも危ないし、と付け加え、嵐山は牧村に作戦の概要を説明する。

「私じゃないとダメですかそれ…」

「1キロ離れた1セントコインのど真ん中を撃ち抜けるなら代わってもいいぞ」

「わかりました。やりますよ…」


 ● ● ●


牧村は燃え滓の舞う森を走っていた。黒焦げの化物がそれを追う。煙幕に含まれるガスとジェット燃料、有機プラスチックの燃える臭いが凄まじい臭気を作り出し、パワードスーツのエアーフィルターが猛烈な勢いで動作する。牧村はそれを肺に叩き込み、己の脚を動かす活力に換える。その電気信号を受け取ったパワードスーツはその力を数十倍にも増幅させ、自動車並の高スピードを維持する。

牧村はひたすら、白黒の煙に包まれた森を走った。倒木を踏み潰し、廃屋をなぎ倒す。それでも蜂の化物は追ってくる。物陰に潜み、頭上を過ぎ去った瞬間、短機関砲を化物に向かって撃つ。パララッ、と小気味よい三点バーストで弾丸が放たれ、そのどれもが堅牢には見えない装甲に弾かれた。化物が空中で反転し、腹の先に取り付けられた銃口をこちらに向ける。

一瞬の間。

牧村に向けられた赤い点が広がる前に、牧村は素早く物陰から逃げ出した。一拍遅れて物陰が燃え上がり、それを尻目に牧村は再び走り出す。

装甲についた泥が乾いて剥がれ落ちる。

牧村の身体がより多くの酸素を求め、それにパワードスーツのコンプレッサーが応える。

全力で走りつつ、その場に手榴弾を落とす。破裂する金属片が化物の行く手を阻み、距離が開く。その僅かな時間に、空の弾倉を抜き、新しい弾倉を乱暴に装填する。そのまま後ろを向き、連射。牽制を繰り返す。

森を抜け、廃墟の多い広場に牧村は出た。それに釣られて、化物も森の外へと出る。

化物が森から出た瞬間、あらぬ方向から銃弾が飛んできた。標的を掠め、地面に鋭い穴を開ける。化物の探知範囲外にいるのか、しばらく困惑したかのような機動を見せたが、すぐにランダムな機動へと変わる。そこへ、牧村は短機関砲を向けた。パワードスーツの機能をフルに使い、機動を予測してその先へと弾丸を撃ち込む。強固な羽毛状の防弾装甲がその衝撃で次々に剥がれ落ち、その向こうの小さいプラスチック製の羽にダメージを与えていく。

ライフル弾が、化物の頭を貫いた。正確にはそう見えるだけのセンサー集合体だったのだが、それによって明らかに動きが鈍くなり、弱々しい機動になる。

半壊した複眼が牧村を睨み、腹の銃口を三度向ける。短機関砲の弾数はゼロ。牧村はある指示を出していた。あとは「発射」と言うだけだ。

息が上がり、上手く声が出せない。

永遠のような一瞬。

ごくりと唾を飲み込む。

「発射」

牧村の背後の廃墟が赤く瞬き―――


 ● ● ●


時は少し遡る。

「対空ミサイル?」

牧村は、コンテナから取り出されたカーキ色の箱の文字を読み、そう言った。

「アイツを手っ取り早く倒すにはそれしかない」

嵐山が慣れた手つきで梱包を解き、筒状の発射装置と四角い籠のようなセンサーを組み立てる。

「この戦車砲だと的が小さすぎるし、ライフルで墜とすにはちと骨が折れる」

「?」

「どうした?」

「どうしてそこで『骨が折れる』んです?」

「…生きて帰れたら小鳥遊にでも聞け」

嵐山が操縦席近くのトレーからボタンの沢山付いたガラクタを取り付け、そのガラクタをしばらく操作する。

「今、遠隔操作できるようにした」

ガラクタを牧村に手渡す牧村。よく見ると、そのガラクタには小さい画面と幾何学模様に並んだ12個のキー、大きい十字のボタンがはめ込まれていた。

「ミサイルを廃墟に置いて待ち伏せする」

傍らから大量に書き込まれた白地図を取り出し、ペンでおおよその概要を伝える。

「まず、お前があのドローンを誘導する」

「えっ」

「んで、出てきた所を俺がライフルで足止めしてその隙にミサイルで仕留める」

「いろいろと適当すぎません?」

「?、そうか?」

嵐山は操縦席に戻り、再びエンジンを始動させる。

「ドローンの探知範囲ギリギリに廃墟がある。そこに移動しよう」


 ● ● ●


そして、現在。

牧村の背後から、炎の槍が射出された。すぐさまシーカーを冷却・弾体を加速させ、宙を舞う獲物に食らいつく。

爆発。何倍も大きい戦闘ヘリでさえ粉砕する炎が、跡形もなく化物を焼き尽くし、同じ重さのガラクタを撒き散らす。

熱風と光からとっさに身をかばった牧村は、爆風が収まったことを確認すると、恐る恐る姿勢を元に戻した。パワードスーツの全身に刺さった破片を手で払いつつ、化物の居た場所を見る。

化物は跡形も無く消し飛び、辺り一帯に破片が落ちていた。

牧村は安心し、その場に崩れ落ちてしまった。

『こちらビートル。シープ、状況を報告せよ』

パワードスーツの通信機が作動し、嵐山の声が聞こえた。ビートルは嵐山の乗る単軽、シープはまさしく牧村追われる羊のことだ。

『…シープ?応答せよ、シープ。成功したのか?』

「…!は、はい。撃墜できました」

『ならよかった。このまま偵察を続けるぞ。単軽の所に戻ってきてくれ』

牧村はその時、偵察がまだ終わった訳ではなく、むしろ始まったばかりであることを思い出し、暗澹とした気分になった。

「こんなことが何度も続くんですか…?」

半ば絶望し、自らに言い聞かせるかのような牧村の質問。嵐山はこう答えた。

「いや、そうでもない。今回が特別なだけだ」


 ● ● ●


「今日は寝なかったね」

友人が話しかけてきた。

「うん。ちょっとね…」

無事に偵察を終え、基地に帰還した牧村と嵐山は、いつも通りの生活に戻った。水上大尉に帰還の報告をし、嵐山先輩は二人分の書類は書いておくと牧村を早々と部屋に戻らせた。それから数日後、こうして私は嵐山先輩の授業を真面目に受けている。

「ちぇー今日もタダで飲めると思ってたのに~」

「そういつまで人をアテにするなってことじゃないッスか?伊川さン」

「お、言うねぇ~」

そんな他愛もない会話を交わしていると、不意に教室(という名の多目的室)に人が入ってきた。「ニンニク入れますか?」という文字がプリントされたTシャツを着た、だらんとした態度の小太り士官。小鳥遊先輩だ。

「おう、カケルいっかー」

友人が立ち上がり、先輩の元へと向かう。

「なんの用ですか。暑苦しいです」

「暑苦しいのは俺のせいじゃないもんねーだ」

「視界に入るだけで湿度が上がったかのような錯覚に陥るんでやめてください」

「そりゃーよかったな。冬場は加湿器になる」

よくもまああそこまで大胆に攻めれるねぇと他人事のように(実際そうではあったが)二人のやり取りを見ていると、牧村の視線に気づいたのか、小鳥遊がドスドスと牧村に近づいてきた。

「ねえねえ、どうだった?カケルと偵察」

カケルとは誰ですか、と聞く前に思い立った牧村は、大変でしたと答えた。

「うーん、そうじゃなくてだなぁ…」

「?」

「ヤったの?カケルと」

追いかけてきた友人がそれを聞き、なっ!?と声を上げたまま固まる。

「やるって、なにをですか?」

「なんてこと聞いてんですかこの変態!!」

「仮に変態だったとしても俺は変態紳士だ!で、ヤるってのはだな…」

ちょいちょいと耳を貸せというジェスチャーをし、牧村は耳を貸す。

一言目を発しようとした瞬間、小鳥遊の頭が丸めた教科書で叩かれた。リングマットに沈むかのように小鳥遊は倒れ、そのまま沈黙する。その向こうから、虫を見るかのような目をした水上が立っていた。

「誰か、レフェリー役。」

「は?」

「だから、レフェリー役。」

友人が水上の空いている手を握り、天高く持ち上げる。

「う、うぃな~、水上、センパイ~」

それをやられて満足したのか、水上は小鳥遊を教室の外へ引きずり出し、何事にも無かったかのように教卓へと向かった。

「結局、ヤるってなんなの?」

牧村は友人に尋ねる。

「あんたマジで知らないの?」

「うん」

「あんたにはまだ早いってことさッ!!」

小鳥遊が教室のドアに格好良くもたれかかり、キメ台詞かのようにそう言った。

容赦ない白墨のヘッドショットが決まる。

「さ、授業を始めるぞ。」

結局なんだったのだろうか…と牧村は思案し、そして彼なりの深い考えがあったのだろうと思案するのをやめた。


(終)

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