第4話「宇宙へ(後編)」

 事前に仕掛けられた爆雷の巨大な爆発がデブリ帯で起こり、計算されて起こった爆風がデブリを追撃する艦に向けて吹き飛ばし足止めをする中、輸送船Hー2501号は衝撃波を背に受けてスペック以上の加速を引き起こし、星の海を進んでいく。


「駆逐艦、巡洋艦ともに減速を確認!! 飛び散ってくるデブリの処理に追われてるみたい!!」


「よし。フェイズ1は無事成功だ!! 各所問題は無いか?」


『こちら機関部。問題ないよ!! 計画通り爆風に押されてる間は少しエンジン休めておくさ!!』


『こちら格納庫~。同じく問題無いです~。改造の方もあと1時間かからずに出来そう~』


「了解。とりあえず帝国軍は完全に撒いたから、これからが本番のフェイズ2だ。勿論迎えが間に合えば問題ないが、念のため皆警戒体制についておいてくれ。以上、通信終わり」


 手早くコンソールを操作し、リーベルは各所の安全確認をとる。そして問題無いことを確認した後、リーベルはバキバキと肩をほぐし、レオンハルトのいる操舵席へと向かっていった。


「さてじゃあ交代だ。後は任せたぜレオン」


「……了解。……安全運転で頼む」


「はっ。そいつはハイエナ達に言ってくれよ」


 軽口を叩いた後、レオンハルトが座っていた操舵席にリーベルが座り、レオンハルトは艦長席へと移動する。

 その光景にロアと同じくオブザーバー席に座っていたリンダが驚きの声をあげた。


「え? 交代するんですか?」


「そうだぞ!! ここからが大変なんだろ!? なのに何で!?」


 先程までのレオンハルトの操舵は見事なものであったし、リーベルの指示も問題は無かった。それ故自然に生じた疑問に、レオンハルトとリーベルは手早く自ら引き継いだ操作を、自分用にカスタマイズしながら答える。


「……この方が適材適所だからな」


「そ。さっきみたいなデブリ帯みたいな細かい所で奇策を用いるならあれが最適だったけど、これからはどれだけリスクを負った操舵を行い、同時に定石通りの撤退戦が出来るかが勝負になるからな。この組み合わせが正しいんだ」


 言いながらカスタマイズを終え、爆風の波に乗るように操舵を始めるリーベル。それは確かにレオンハルトと比べると荒っぽいが、エンジン出力が減少しているにも関わらず減速せずに進ませるその技量は十分に卓越していると言えた。


「凄いです……」


「はっ。こんなんで驚いてたら合流してから俺らの艦に来る正操舵手の腕前にはぶったまげるぜ? あいつはレオンのような繊細さとこれの比じゃない豪快さを兼ね備えた操船技術を持っているからな」


「……人間的にめんどくさいがな」


 驚くリンダに応えるリーベルとレオンハルト。そんな様子を見ながら、マリアベルはふと疑問に思ったことを訪ねてみる。


「ねぇ、聞いたこと無かったけど、やっぱりエリルを含めたあんた達って士官学院に来る前はの一員として活動してきたの?」


 これからランデブーポイントにて合流する予定であるあるバウンサー。彼らとリーベル達の関係こそ事前に聞いていたものの、詳しい過去まではマリアベルは知らなかった。


「ん? ああ、そうだぜ。あそこは子供だろうが容赦なく酷使するからなぁ」


「……正確には宇宙へ出たいと駄々をこねるお前のお目付け役として俺達は付き合わされたのだがな」


 やれやれといった様子のレオンハルトと対照的に、そうだっけ?と陽気に答えるリーベル。その返答にどこか満足そうな笑みを浮かべた後、マリアベルは自身が仕掛けた電脳世界の網に、必要な情報があるのを見つけた。


「へぇ~。ふふ、やっぱ貴方たちの誘いに乗って正解だったかな? っと……お、来た来た。副艦長。やっぱり学院長達はバウンサーに依頼するみたいよ~?」


 学院に居たときに作り上げ、学院と帝国軍のネットワークに仕掛けておいた自動情報収集システム“エシュロン・ベル”。それにより現在ポルート宙域における帝国軍関係の全ての通信情報がマリアベルの元では筒抜けとなっていた。


「……どこに依頼したかわかるか?」


 マリアベルの言葉にブリッジ全体の雰囲気が若干ピリピリしたものへと変わる中、レオンハルトに答えるようにマリアベルは素早く目の前のモニターに情報を表示する。


「えっと……〈キャリアブル〉? 聞いたこと無いバウンサーだけど、なんでもっと有名どころにしないのかしら? ま、貴方達の読みが外れてよかったじゃない。〈キャルドーネファミリー〉は出てこないみたいよ」


 ポルートのあるこの宙域は辺境であるがため、ランキング上位に位置するバウンサーが居座ることはない。そのため現在は中小レベルのバウンサー達が輸送業や交易、それに旧時代でいうマフィアのような活動を行いながら名声をあげる日々を過ごしている。

 持っていても駆逐艦や高速挺が一隻程度が精々の有象無象。成り上がりを望む者達は帝国本星宙域の方へと出ていってしまった残り物の集積場。だが、そんな中で唯一〈キャルドーネファミリー〉と呼ばれるバウンサー達が、幾つもの艦船を所有しながら宙域に留まっており、宙域の主として君臨していた。


「いや、予想通りの展開だな。〈キャリアブル〉は退役した帝国軍人の親爺達が小遣い稼ぎでやっているところだから学院長達が泣きつくにはうってつけだし、同業が動くとなればキャルドーネは動く可能性は高いだろう。チッ、最初からキャルドーネに依頼してくれていたらもっと楽だったんだけどな」


「で、でも、いくら多くの艦船を所有しているといっても僕達を拿捕しようとするなら数は問題にならないんじゃないか?」


 操舵を続けながら舌打ちまじりに呟くリーベル。それにロアが疑問を投じるも、レオンハルトが冷静に答える。


「……俺達の立場は帝国からの脱走兵と言ってもおかしくない。ならキャルドーネの奴等はわざわざこちらを拿捕する必要はなく、最悪撃ち落とした後で脱走兵という不名誉を隠蔽したい帝国に揺すりをかける材料にすることも出来るだろう」


「そう。その上ランデブーポイントまでの航路においては、必ず奴らの方が先回り出来る。つまり、後は迎えが間に合うまで俺達は逃げ続けるか、奴らを逆に仕留めるかというどちらかにしか活路は無いのさ」


 もし帝国軍が、〈キャルドーネファミリー〉に拿捕の依頼を出していれば、わざわざ強者の得物を横取りしようとする者達がいない分、後ろを気にする必要もなく、また拿捕のため戦艦を出す可能性は減り、何とかなる可能性は高まっただろう。だが、まだ可能性の段階とはいえリーベルとレオンハルトが想定した事態の中で一番来てほしく無かった状況へと向かってしまっていた。

 そのため、少しでも成功する確率を上げるためレオンハルトは格納庫への通信回線をオンにする。


「……こちらブリッジ。有事に備え後1時間以内に改造を完全に終わらせてくれ。以上」







    ※※※





『……リーベル、主砲にロックされた。右上に振り切れ』


『もうやってるよ!! エリル!! エンジン出力さらに20%増加!!』


『あいよ!! 任せな!!』


 デブリ帯を抜けてから宇宙標準時換算にして1時間30分程度が経過し、現在リーベルとレオンハルトの読み通り〈キャルドーネファミリー〉に追いかけられるという事態の中、エリシア・ヘスティアールは右肩に背負う形で巨大な砲が取り付けられた訓練用ギア、プリヴァールのコックピットで、リーベル達の通信に耳を傾けながらペダルとレバーを操作し、ゆっくりと格納庫のカタパルトリフトへ白く全体的に丸っこい形状をしたプリヴァールを動かしていた。


『どお~? シアちゃん~ バランスは大丈夫~?』


「ああ、照準はつけられそうさね。高速戦闘は流石に無理だけど、固定砲台として船の上から射つなら何とかなりそうさ」


 右肩に巨大過ぎる砲を背負い、ウェイトバランスはかなり悪いものの、このくらいの調整ならさしたる苦労も無い。そのままプリヴァールをリフトに乗せたエリシアは、内蔵されたワイヤーアンカーで機体を固定しそのままリフトを上昇させ、丁度肩に背負った砲と頭部のメインカメラだけが宇宙に露出させるようにリフトを止める。


「よし、固定完了。メインカメラ及び右肩部以外の全エネルギー回路カットの後、ジェネレーターと砲の直接接続に入るさね!!」


 肩に背負いし砲。レイナ達がスクラップ置場から回収してきたそれは、旧式ながら戦艦の主砲としても使われる三連装砲の一門を改造したものであり、本来ギアが用いるものではないその巨砲からレーザーを打ち出すために、必要最低限以外のエネルギーを全て砲に回す必要が生じ、非常電源のみの暗くなったコックピットでメインカメラの映す映像を目にしながら、エリシアは各所の作業を行っていく。


 そのメインカメラには自分達を追撃するように砲撃を行いながら迫る紫に染められた戦艦と、申し訳なさそうに戦艦の斜め後ろを航行する牛のマークが書かれた高速挺が映っており、また、それらと自分達の間では、船と同じく紫に染められたギア数体を相手に、自分と同じプリヴァールが奮戦しているのが映っていた。


「カレル!! 大丈夫かい?」


『ああ。シアを相手にするのと較べたら楽だけど攻めきれないね』


 宙間戦闘時は必ず艦砲の射線を意識する。戦闘においてのそのセオリーを難なくこなしながらも、訓練用であるプリヴァールの性能の低さと、効果的な武装がレーザーブレードだけという状況で多数を相手どりながら、膠着状態に持ち込んでいるカレルソン。そんな彼にエリシアは信頼と不安の入り交じった感情を抱きつつ、モニターを眺めながらジェネレーターと砲の接続を開始する。


「さて、カレルも頑張っているし、ちゃっちゃと準備をするさね」


 エリシア・ヘスティアールにとってカレルソン・シュタインツベルは、戦友であり、ライバルであり、そして、愛してやまない彼氏である。


 ……正直、士官学院に来るまでは自分には恋愛沙汰など無縁であると思っていたし、帝国軍式を学ぶことに意欲を示すリーベル、レオンハルト、エリル、レイナの4人の同朋の手綱を握ることで精一杯だろうと思っていた。


 だが、だからこそ入学してすぐにカレルソンに出会った時、エリシアは身体に電流が流れるような感覚を感じたことに驚いたし、後で聞けばカレルソンも同じ思いを抱いていたと知って嬉しい思いもした。


「ジェネレーターとの直接接続完了。エネルギー蓄積開始」


 士官学院に知らぬもの無しのバカップル。気づけば呼ばれたその名称通りの関係になるまでさして時間はかからず、また、カレルソンはリーベル達の計画を打ち明けた時は当たり前のように乗ってくれた上、今も自分達を守るため、一人ギアを食い止めるために出撃して戦っている。


「エネルギー蓄積60%。砲上カメラ起動。メインモニターと直結」


 ならば。とエリシアはプリヴァールの右肩を動かし、砲門を完全に固定させ、取り付けられた砲上カメラの映像をメインモニターに映し、射撃体勢に入る。


 カレルソンがギア達を引き付けていてくれているがために輸送船は艦砲を避けることだけに集中することが出来、エリシアは動けない機体に乗っていても安心していられる。なればこそ、エリシアは己の成すべきことーーつまり、相手の戦力を削ぐための射撃を持ってカレルソンに応えようと気を引き締め、


「エネルギー蓄積90…95…100!! レオン!!」


『……了解。敵主砲の回避後、所定方向に艦を固定。リーベル。任せた』


『合点承知!!』


 リーベルの声と共に、輸送船が大きく右へ舵を切りながら紫の戦艦から飛んでくる主砲を回避する。

 そして、そのまま戦艦と丁度同じ平面軸に位置するように機首を上げ下げし、また、大きく距離を取ることでぎりぎり主砲を避けることができた艦船間の距離を、減速することで一気につめ、丁度戦艦の左舷とその斜め後ろの高速挺の右舷が射線上に入るように移動する。


『エリシア!!』


 カレルソンがその瞬間相手ギア達をギリギリ射線上に入るように押し出し、エリシアに合図を送る。


 そしてーー


「いくさね!!」


 砲門内で圧縮されたレーザーが閃光と共に吐き出され、星々の輝き瞬く宇宙を真っ直ぐ突き抜けていくのだった。





    ※※※





「左舷被弾!! 防災隔壁降ろしやす!!」

「左翼バランサーに損傷!! 戦闘機動は困難!!」

「ギア01及び02から通信!! ブースターユニット破損!! 至急回収求む!!」

「〈キャリアブル〉の高速挺後退していきます!!」


 各所から聞こえる良くない知らせに、ガレオス級戦艦マニーフィコキャルドーネ号のブリッジの艦長席で、アリエッツィ・キャルドーネは丸い身体を揺らしながら、右手親指の爪をしゃぶる様にかじる。


「ええい!! 何故光学シールドを展開をしていなかった!! 」


「そりゃ艦長が『輸送船に攻撃手段はないから全エネルギーを攻撃に回せ』って……」


「うるさい!! それでも用意しておけ!!」


 完全な八つ当たりであることはアリエッツィも自覚している。だが、予想外のことに動揺し、それしか言葉が出てこなかったのだ。


 輸送船を奪った士官学院生の拿捕。〈キャリアブル〉が受けた依頼の内容を帝国軍内の間者から手にいれた〈キャルドーネファミリー〉の首領である父が静観を決め込んだのに反発し、次男坊であるアリエッツィは功績を手にいれるために自身の派閥の者達と共謀して無断で戦艦を借りて飛び出した。


 年の離れた兄であるマルコは早々に夢を求めて仲間達と独立したため、次男である自身に次の〈キャルドーネファミリー〉の座がくると思い次期首領という権力をかざし好き放題にやってきたアリエッツィ。

 だが、父親の盟友のバウンサーに預けられた三男であるアドリアーノが帝国中心の宙域で天才として名を知られ始め、それと同時にアリエッツィについていけないという者達の声が聞こえはじめてしまい、アリエッツィは流石に焦り始めてしまう。


 そんな折に降って湧いたように降りてきた機会。輸送船を撃破し、帝国軍にゆすりをかけることで大金を手にし、自分の実力を見せる絶好のチャンス。


 ……戦艦で出撃し、〈キャリアブル〉の連中を恐喝して下がらせた所までは良かった。


 しかし、よほど相手の運が良いのか、全く相手に当たらず、仲間で最もギアの操縦が巧い者が乗ったギア達がろくな武装を持たない訓練用ギアを相手に攻めあぐねていることにイラついていた時に、予想外のそれが来た。


 攻撃手段を持たないはずの輸送船が突如減速し、それと同時に輝くレーザーの光。

 その光はギアとこの艦の左翼、そしてもうすでに後退を始めている〈キャリアブル〉の高速挺の右翼を飲み込み、甚大なダメージを負わせてきたのだった。


「アリエッツィ様。左翼の損傷により戦闘機動の出来ない今、当艦も撤退すべきです」


「ええい!! 黙れ!! 輸送船ごときに戦艦を傷つけておめおめと帰れるものかよ!! 通常機動のまま狙い打て!! 敵もそう何発も撃ってくることができるはずもない!!」


 勝手に戦艦を持ち出した上、輸送船に返り討ちにあったとなっては次期首領の座が自分の元に回って来るどころか、〈キャルドーネファミリー〉の名に泥を塗ったと何かしらの制裁を受けてもおかしくない。


 保身とプライドに縛り付けられ、アリエッツィは部下の制止にかまわず追撃を続けようとする。

 と、その時、


「輸送船より映像通信!! 出ます!!」


 オペレーターの声が響くと共に、メインモニターに輸送船からの映像が表示される。

 映された輸送船のブリッジにある艦長席。そこには、黒の長髪を持つ赤目の整った顔立ちの青年が座っており、こちらとの通信が繋がったことを確認した後、その青年はゆっくりと口を開く。


『……こちら輸送船H―2501号副艦長レオンハルト・クルニア。……当艦にこれ以上の攻撃の意思はない。……貴艦の撤退を推奨する』


 淡々と言葉を紡ぐ青年。その言葉は完全に向こうが主導権を握ったことを意味しており、それが事実であるとわかっているが故に、アリエッツィは青すじを浮かべ、わめき散らすように声を荒げる。


「ふざけるなよ餓鬼が!! こちとらやられておめおめと帰れるものかよ!! 〈キャルドーネファミリー〉の次期首領をなめるんじゃねえ!! 主砲!! あの糞餓鬼どもを打ち落とせぇ!!」


 叫びと共に部下達が慌ただしく動き、マニーフィコキャルドーネ号の前面に設置された大口径単装レーザー砲の砲門が可動し、前進を続ける輸送船へと照準を合わせる。するとその様子に映像ごしの青年が再び口を開いた。


『……先程までの言動および交戦時の対応より現在、貴艦、〈キャルドーネファミリー〉旗艦マニーフィコキャルドーネ号には正規クルーが乗船していないと推測される。……故にもし、ただ輸送船を落としたという功績が欲しいだけなら、索敵をした上で、宙を進む蠍の一刺しを食らう前に懸命な判断を行うことを推奨する。……以上だ』


 プツッという音と共に映像通信が切れ、メインモニターには大きく方向を変えて行く輸送船の姿が映り、同時に部下の一人が作業を中断し索敵作業を行おうとしているのがアリエッツィの目に入る。


「何をやってる!! あんな時間稼ぎの陽動に引っ掛かるんじゃない!!」


「ですがアリエッツィ様!! 宙を進む蠍とはもしかしたら……」


「ふん、あんなものは虚言だろう!! それより主砲の照準合わせをやれ!! 当たらないと思われているからあんな戯言も弄して逃げようとするのだ!! 」


 宙を進む蠍と聞いて思い当たるものは確かにあった。だが、それが想像通りならばこんな辺境宙域に居るはずもない。故にアリエッツィは虚言と決め付け、主砲を輸送船に向け発射させる。


 後に思えば慢心と呼ぶには酷であった。まさか、奴等の身内達が輸送船を乗っ取った士官学院生だとは知るよしもなかったのだから。


 だが、そんな後に噛み締めることになる後悔とは裏腹に、レオンハルトと名乗る青年の言う懸命な判断を下せなかったその瞬間、マニーフィコキャルドーネ号の主砲が輸送船の横を通り過ぎ、やがて何かに衝突するかのように彼方で閃光が上がる。


「外すな!! 馬鹿野郎!! 」


「すいやせん!! ……えっ、何だこの反応? …………!? 高出力レーザー来ます!!」


 言葉と共に激しい振動が襲い、先程の輸送船から放たれたのとは比にならないほどのレーザーが右翼をかすめ、艦のバランスが大きく崩される。


「なっ!? 何が起こった!?」


「前方からレーザー…………っ!? 当艦前方に超巨大艦反応観測!! ステルス航行していた模様!! この識別は……!?」


 驚く部下の言葉に合わせて、かなり遠くに位置するにも関わらず、ステルスを解除し、こちらに大出力レーザーを放ってきた艦の全容がはっきりと見え始める。


 黒い宇宙に映える緋色の艦色。全長、全高共に5キロは軽くありそうな超弩級と称するに相応しい船体。そして、艦の表面に彩られた蠍の紋章。


 全てを理解し、あんぐりと口を開くアリエッツィ。すると、メインモニターにブゥンと映像が出され、艦色と同じ緋色の髪を持つ黒の眼帯をした女性が映し出される。


『こちら〈緋色の蠍〉旗艦アンタレス艦長、アレシア・ヴァリウス!! 現在航行中に貴艦からのレーザー砲による攻撃と当艦のシールドの接触を感知。貴艦の行動を敵対行動と見なし、防衛行動に移らさせてもらう。……はっ。バカ息子達の忠告を聞かずに動いたんだ、ただで済むとは思ってないよなぁ?』


 豪華な椅子の上で足を組み、ニヤリと不敵な笑みを浮かべる女性。だが、アリエッツィはそんな顔を見る余裕もなく、ガタガタと身震いをして、そのまま思わず腰を抜かしてしまう。

 何故ならーー


「何で……!? 何で〈緋色の蠍〉がこんな辺境に現れるんだよぉ!!」


 目の前にいる艦は現在確認されている全宇宙で五指に入るほど名を馳せたバウンサーの旗艦であり、どう逆立ちしても、アリエッツィ達の敵う相手ではなかったのだったーー。

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宇宙を駆ける ライラック @lieluck

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