第10話 先生はママン

 魔法と一口に言うが、その種類は多い。

 

 ・攻撃魔法

 ・治癒魔法

 ・召喚魔法

  ・重力制御

  ・その他……


 …………




 そ、その他って……

 ママン、真面目な出だしでボケをかますのはやめてもらえませんかね?


「ボケ?」


 俺が思わず放った突っ込みを、ママンは真剣に考えていた。


「いや、いいの……ごめんなさい……続けて?」


 俺が笑顔で再開を促すと、ママンはちょっと困ったようにニッコリ微笑んで口を開いた。


「攻撃魔法と治癒魔法は聞いた通りね。お痛させるのと、痛いの痛いの飛んでけ〜ってさるのと、二つ」


 と、ピースサインを俺に向けて、子供が分かりやすいように幼児語を交えて教えてくれるママン。

 んな事、分かっとるわぃ。

 こちとら、体は子供、頭脳は大人じゃい!


 俺がつまらなそうな顔をしていると、ママンは困惑してきたようだ。

 我が子の反応にオドオドし始めている。

 無理もないな。

 天才児を相手にしているのだ。

 何が必要で何を教えればいいか。

 なにせ物分りがよく、教えた事を全て吸収してしまうのだ。

 正直な所、教え辛い事の方が多いだろう。

 そこで、俺は提案した。


「ママ、他の魔法の説明はいいから、今は攻撃と治癒を教えて下さい」


 どうだ? 決まっただろ?

 今の所、必要なのは攻撃魔法と治癒魔法。

 他のは、色々制限とかあるだろうから、後々でいい。

 つーか、目標は中級以上上級未満だから、それ以上覚えるつもりはない。


 もし学校に行ったら、その時はキャンパスライフを満喫してやろうではないか!


「そうね、マーブはまだ小さいから、少しずつ進めましょうね」


 と、はにかむママン。

 この人、実際可愛いんだよね。

 顔は童顔だけど、体はナイスバディ。それでいて、笑うと心をギューっと鷲掴みにされた気になるのは、俺が男だから?


 村の連中はよく悩殺されないな……

 子供の俺でさえ、この笑顔は殺人級だと言うのに……

 そういや、最近歯抜けのおっさんの姿を見ない。

 随分アタックしていたようだが。

 脈無しと思い、諦めたか。

 つーか、人妻だしだから当たり前なんだけど。


「水系は使えるのよね? 他のはどうかしら?」

 

 他? 他ってぇと、あれですかい?

 火とかですかい? 姐さん。

 使った……と言うか、試した事がないからなぁ。


「他のは……分からない」


 俺が気まずそうに答えると、ママンはまたニッコリはにかむと、お手本を見せてくれた。


「大いなる神に真意を問う。

 我に今こそ熱き魂の輝きを見せよ。

 全ての理を解き放ち、我が声に耳を傾けたまえ……!」


 おぉ、詠唱だ!

 詠唱ってこんな事をブツブツ言うのか!

 内容はカッコイイが、その姿は何と言うか……

 オタッキー……?

 いやいや、これはお手本なのだ。

 しっかりジックリ観察しなければ……!


 そして、ママンは右手を前に突き出すと、叫んだ。


「ハイ・ファイア!」


 すると、ママンの腕先から炎の塊が飛び出し、家の敷地に植えてある木の枝をへし折った。

 それを見ていた俺は、あんぐり空いた口が塞がらない……

 目から鱗とはこの事か……


 手から炎!

 ボリ○ョイサー○スもビックリだ!


 あ、いや、俺も指先からチョロチョロ水を出すから同じか……


 ボリ○ョイバンザイ……


「マーブはイメージで発動するタイプのようだから、頭で今の様子をイメージしてみて?」

「あの、長い言葉は言わないの?」

「詠唱の事? 詠唱した方が負担は少ないから良いんだけど、あなたは詠唱無しで水系を発動するでしょ?

 マーブは感覚派のようだから、見たままをイメージして練習した方が、成長が早そうだから詠唱はしなくていいわ。むしろ、癖が付くと良くないし」

「……」


 へー!

 魔法にも癖があるのか!

 変な癖ねぇ、どんな癖なんだろう?

 水が白く濁ったり、変な匂いがしたり。

 火が怪しく曲がったり、先が……

 い、いや……想像するのは止めよう。

 何だか良くない方向に進んでいく気がする。

 夜な夜な両親のマッスルタイムを、床板と言うサラウンドシステムで聞かされているのだ。

 怪しい妄想に進むのも否定は出来ないが、ここは集中!

 無詠唱による体の負担も、後で考えましょう!


 て事で、俺はママンに言われた通り、頭でイメージをする。


 炎が揺らめき、飛んで行くイメージ……


 ある程度イメージが固まったら、今度は指先に集中する。

 すると、指先がジンワリ温かくなる。

 うん、水系と同じ過程(プロセス)でいけそうだ。

 要はイメージの違いって事か。

 魔力が指先に集まるのを感じると、木の枝に向かって叫んだ。


「ファイア!」


 すると、シュポーンと情けない音を立てて指先から小さい火球が飛んで行った。

 それはヒョロヒョロと飛んで行き、木の枝までは辿り着いたはいいが、枝に弾かれて消えてしまった。

 何だ、これは?

 何とも情けない『ファイア』じゃないか?


 俺はもっとこう、ドゴーン! と飛び出してバチコーン! と枝を跳ね飛ばすイメージだったんだが……

 イメージが悪かったのか、魔力のタメが少なかったのか……


 しかし、ママンは喜んだ!

 飛び上るほどに!


「やっぱり天才ね! イメージしただけで魔法を発動させるなんて!」


 いきなりのぶっつけ本番で魔法が使えた事が嬉しいのか。

 母親ながら、微笑ましい限りだ。

 ともあれ、水系以外の魔法も使える事が分かった。


 気を良くしたママンは、俺に連発を命じたので、俺は言われるがままバカスカと火球を飛ばしまくった。


 結果、枝は折れずに俺が倒れてしまう事になる。

 どうやら魔力切れ?

 それでも火球は十発以上は打てたはず。

 意識が遠のく中、満足そうな笑みを浮かべてママンは俺を抱き上げてくれた。


 これにて本日の練習終わり。


 俺はそのまま眠りにつき、目が覚めたのは次の日の朝。

 ママンの優しくもスパルタな練習のお陰で、魔法の威力と残弾数はドンドン増えるのであった。

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