第8話 どうやら天才らしいので
翌日から、我が家の日課は変わった。
農家である我が家の起床は、当然ながら早い。
パパンの持論は「農家は早朝作業」
夜明けと鳥の鳴き声と共に目覚め、柔軟体操に勤しむ。
ママンはパパンの優しいキスで目覚め、稀に二人でギッコンバッタン、ギッコンバッタンと柔軟体操よろしく、マッスルタイムに入る事があるが……
それ早朝作業と呼ぶのかは、幼い俺には判断出来ない……
まぁ、二人ともまだまだ若いって事だな。
五歳児の俺には既に部屋が与えられ、俺はそこで寝起きをしていた。
五帖程度の広さにベッドと机、小さい本棚が備えられた部屋は、小さいながらも俺の城である。
基本はリビングで過ごすから、寝る時くらいしか部屋に居ないが、とても居心地がいい。
因みにこの体は朝に強く、窓から太陽の光が差し込むとパッチリ目が開くので、非常に助かる。
そして朝食だが、家族揃って少し早めの朝食を摂る事が我が家の家訓だ。
ママンの手料理は非常に美味しく、パンにスープ、野菜サラダと基本を徹底している。
そこに鳥の蒸し焼きやハム、時には魚が盛られ、バラエティよりも栄養バランスが整った食事が多い。
朝食を終えると、パパンは爽やかな笑顔を俺達に向けて、スマイルを送った後、鍬を担いで畑へ出発。
俺とママンは、食後の片付けをした後、家の掃除など諸々を済ませてから庭に出て魔法の練習をする。
初めてしっかりとママンの魔法を見せて貰ったのだが、魔法を放つ前に、何やらブツブツ言っている。
何だろう? と思い、尋ねると、
「詠唱よ。魔法は、この世界の神様から力を借りて使う物だから、まず、神様にお礼を言ってから使うの」
と、キュートなスマイルで教えてくれた。
ママンの話を聞いていて、気になるワードが出てきた。
それは神様である。
俺は詠唱という物をした事がない。
いきなり感覚でできたから、詠唱やらお礼やら考えた事も無かった。
「マーブには少し早いけど、理論も掻い摘んでおきましょうか」
ママンの目がピカーンと光る。
俺の眉間にピリリーンと電撃が走る。
いいねぇ、理論!
俺は感覚派と言う事は自負しているが、キチンと筋が成り立っていないと納得出来ない性格でもある。
特に、物事に関しては理論立てして考えるようにしていたので、この提案は非常にそそる。
「詠唱はね、さっきも言ったけど神様の力を少しだけ貸して下さいっていうお願いなの」
ママン曰く、この世界の魔法は、火・水・風・土・闇の五つのエレメントから成り立ち、それぞれを統率する神が存在する。
詠唱とは即ち、この神々に対してエレメントを使用する為の伺いを立てるようなもの。
その詠唱を無視すれば、神々からの恩恵は無く、自分自身の生命エネルギーを転換して消費しなければならない。
つまり、魔力を使用する事になる。
その魔力は個人差があり、成長、もしくは経験を重ねる事で増やす事が可能らしい。
その増え方と言うと、俺のように「使ったら使った分だけ」ではないらしく、増え方に関しても個人差があるとか。
逆にエレメントを使えば、使用者の負担は少なく、使用回数に制限がかかるだけ。
成る程……
詠唱は自分自身の負担は少ないが使用回数に制限あり。省エネだな。
詠唱無しは自分自身の魔力頼みとなるから、使用回数は魔力に応じて変わり、負担は大。燃費が悪いって訳ね。
メリット・デメリットがはっきりしてますな。
つーか、詠唱無しの方がデメリット多くね?
ま、神様の加護無しだから仕方ないのか。
え? じゃぁ、俺の負担てかなりデカい訳?
それ、やばくね?
「それとね、使う場所によってはエレメントの属性も作用するからね。
例えば、水気の多い所では、火の作用は極端に弱まるし、負担が大きくなる。
逆に火がある所に風が舞うと煽られて強くなる。
エレメントの加護の相性って言うのも影響があるから、その辺りも考えて使うと、効率良く魔法を使えるんじゃないかしら」
っと……
そんな難しい事言われても……
慣れない内はそれに気を取られて殺されそうな気もする。
いきなり躓きそうだな……
「でも、詠唱無しならエレメントの加護は無視する訳だし……あまり影響は考えなくてもいいのかも」
おい! いいのかよ!?
それはそれで助かるが……
いちいち、状況を見ながら現場に合わせて属性を変えるなんて、そんな器用な事は出来んぞ!
それよりも、自分への負担が気になる所だ。
いや待て。それを理由に必要最低限で止めるってのもありじゃないか?
足りない所は剣術で補えばいいし。
それなら、自分への負担も抑えられるかもしれない。
それから、ママン曰く。
魔法には階級が存在し、階級が上がる毎に呼び名が変わるらしい。
うん、異世界っぽい。
まずは初級。
誰でも習得可能。「生活の基本は初級から」がこの世界の常識らしい。
次に中級。これ位になると、戦士系であれば戦闘補助。魔導師なら援護ってとこみたい。
そして言わずもがな、上級。
ここまで来ると、他人に教えたり、戦闘でも主力で参加出来るそうな。
後は特に名称は無く、強くなりたければとことん経験を積んで魔力レベルを上げて、現状維持ならそこそこ経験積んで。
どーでも良くなればグータラすれば良いと……
それはちょっと嫌だな……
まずは俺は初級だな。で、中級位までは覚えて、後は現状維持を選ぼう。
向上心が無いのではない。
せっかく生まれ変わったんだ。
人生がやり直せるんだ。
それなら、やりたい事が見つかるまで、のんびりスローライフを楽しめればいいじゃないか。
焦る必要はない。
この時点で、俺はそう考えていた。
ちなみにママンは上級者だ。
じゃないと、こうして俺に教えれないし、宮廷魔導師なんて務まらない。
只者じゃなかったったて事だね、ママン!
「ところで、マーブ。あなた、一日にどれ位魔法が使えるのかしら?」
ママン。よくぞ聞いてくれやした。
あっしはですね……
と、可愛らしく首を傾げて、
「んー、十発は出せるよ?」
途端にママンの顔から血の気が引いた……
あら……、な、何かマズイ事言いましたか……?
「あなた……その年で……十発⁉︎」
いや、そんな……
初めての時に相手の最大回数聞いて驚くような顔しないで!
何ですか?
何か悪いんですか?
「あなたの年ならせいぜい一発出ればいい方なのに……それが、十発なんて……それでいて無詠唱?」
ママン、お願いだから、口元に手を当てて驚くのやめて。
なんか、抜かずの○発とか、絶倫○○とか、勘違いされたくない方向の勘違いをされそうだから……
「……天才だわ……」
「え?」
俺がまた可愛らしく首を傾げると、ママンは勢い良く抱き上げて、声高らかに言い放った。
「マーブ! あなたは天才だわ!!」
と歓喜の声を上げるママンの顔も、これまた歓喜に満ち溢れていた。
かくして、俺は五歳児にして、「魔法に関しては天才児」というレッテルを貼られてしまったのである……
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