第4話 生まれ変わったのは異世界でした

 赤ん坊に生まれ変わり、ママンの母乳を吸い続けておよそ三ヶ月。

 さすがツンツルテンな脳みそだ。

 パパとママの会話を聞いているだけで、語学の習得が大方出来るとは……

 流行りのスピード○ーニングを、まさか赤ん坊で体感する事が出来るなんて思ってもみなかったぜ。

 さすが、英検一級と自分を褒めてやりたいところだ。


『習うより慣れろ』


 この言葉が染み染みと感じる今日この頃である。


 さてさて、俺が赤ん坊に生まれ変わった事は紛れもない事実なのだが……

 どうやらここは俺が知っている世界ではなく、異世界のようなのだ。

 そう、俺、異世界転生しちゃったみたい。

 それも、どっかの国の農村に。


 何でも、領地としてはそれなりの広さはあるが、村の人口そのものは少なく、お隣さんとは顔見知りどころか、村人全員お友達的な空気があるようだ。


 ……とは、両親の話を聞いていて知った事。

 ちなみに俺の両親は開拓者としてこの村に来たらしい。

 よく家に尋ねてくる人がいて、その人が、


「よぐ、ごんな村さ来だなぁ」


 とか、


「おらんちの母ちゃんも、あんたみだいに美人だっだらなぁ」


 と言いながら、ママンのナイスバディをエロい視線で舐めるように眺めていく……


 笑うと歯がないあのおっさん。

 散々人の母親を視姦した挙句、失礼極まりない事ばかり並べて帰って行くもんだから、ママンはその人が帰ったら必ず塩を巻いていた……

 

 そんな事を言う為に訪ねてくるなんて。

 案外時間を持て余してるんですね、この世界の人は。


 それから何と、最近になってようやく俺の名前が分かった!

 やっと分かったかと言われても仕方がないが……

 言語を習得するのに少し時間が掛かったもんでね……

 この世界の言語は、どうやら日本語の文法に近いようだ。

 基本的な母音に子音を組み合わせて発音する。

 主語と動詞の間に、形容詞などの単語を組み合わせて文章を成り立たせる方法は、日本語と韓国語の文法でよく見られる方法。

 理解出来れば問題無い。

 ノープロブレム。


 そうして知る事が出来た俺の名前は「マーベリック」。

 両親からは「マーブ」って言われてる。


 更に最近分かった事。


 この世界には、魔法が存在する。


 これって凄くね?

 だって魔法だよ、ま・ほ・う!


 何でそんな事が分かるかって?


 だって、うちのママ。キッチンに火を入れるのに薪をくべるんだけど、普通ならそれにマッチとかで火を付けるのを、なんかブツブツ呟いて、


「ファイア」


 とか言ったら、ボッと薪に火が付くんだぜ?

 最初見た時は目ん玉が飛び出るかと思った!


 だって、前世だと、火を付けるのには、ガスかライター、マッチなどなど。

 火を付ける為にわざわざ多くの道具を使っていたのに、うちのママと来たら、


「ファイア」


 の一言で終わりよ?


 なんかのヒーロー見たく、指輪付けてベルトにかざして……

 とか、しないんだぜ!


 凄くない?

 これには感動したね!

 いや、むしろ興奮したね!

 ゲームやアニメとかでしか聞いた事のない言葉、『魔法』。

 それを目の当たりにしちまったんだから!


 ママンに使えるなら、きっと俺にも使えるはず!

 でも、使えるとしたらあんまり覚えないでおこうと思う。

 何故かと言うと……


 この世界では頑張らないって決めてるから。


 前世では頑張り過ぎて虚しくなった。

 頑張り過ぎて多くの事を見逃したり見過ごしたりしてきた。

 そんな毎日はもう沢山だ。

 何事も程よくこなしていれば、それなりに楽しい。

 何より、『ぼっち』にならない。


 何かに秀でた才能を持つと、人は嫉妬して離れていく。


 結果、友達が周囲にいなくなり、毎日がただの時間経過だけになる。


 友達と笑って、泣いて、喧嘩して……


 なんて、やった事がないし、やってみたい!

 カラオケや喧嘩もやってみたい!

 ……カラオケはさすがに無理かもな……


 とにかく、この世界では頑張らない事に決めた!



 俺は、自分でレールを敷いて、その上をしっかりと歩く!



 そう決めてるんだ。


 俺の名前はマーベリック。


 今日から自由な人生を送るのだ!


 

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る