♯4大崎の仲間
俺は一点を見つめていた。
少し固めのベッドの上で、真っ白な壁をただただ見ていた。
何気なく周りを見渡す。
左側には重厚感のあるドア。
右側には椅子と机、その真上には小窓がある。
部屋の広さは狭くもなく、広くもなく。
ここが別の部屋だと気づいたのはその数秒後だった。
「え?え?お?は?」
さっきまで大崎の研究室にいたはずだ。
ここに泊まってくれ、と言われ大崎をじっと見ていたはずだ。
ピーン ポーン
突然、部屋の中に音が響く。
「杉崎君、第一会議室に来て下さい。会議室はその部屋を出て、左手にある廊下を奥に進めば見つかります。」
混乱した頭は警告を鳴らしていた。
どうしたらいいのだろうか。
イライラする気持ちを抑える。
しかし、考える必要もなく、呼ばれたので行く他無いだろと思った。
立ち上がり、ドアに向かう。
ドアを押して外に出る。周りには特に人影は無かった。
足早に会議室に向かった。
(はぁ、なんで俺がこんな羽目に...)
〘ごめんね、大崎が強引で。後で謝罪させるわ。〙
「第一会議室」と書かれたプレートの前で足を止める。
周りを見るが誰もいない。
突然のことが多すぎて警戒心が最大になりつつあった。
困惑している俺は、会議室のドアが開いたことに気が付かなかった。
「杉崎君?おーい、すーぎーさーきーくーん。」
少し可愛らしい声にハッとする。
困惑としたままの顔を向けると20代ぐらいの女の人が立っていた。
「ほらほら。入って入って。」
手招きをされる。
「え、あ、はい...。」
恐る恐る部屋に足を踏み入れた。
真っ先に目に入ってきたのは楕円形の机。
そこに白衣を着た5人が座っていた。
1人は見慣れた顔である。
「新しい部屋はどうだったかな?そんなに窮屈ではないとは思うよ。」
大崎の発せられた一言は警戒心を怒りに変えた。
「もう何なんですか!?次から次へと。突然連れてこられるわ、カブトムシが喋るわ、能力の割合がどうだの、ここで泊まってくれだの。展開が早すぎるんだよ!
納得の行く説明をして下さい!」
できるだけ声を張り上げて言った。大崎が言っていた精神操作は既に無いようだ。
大崎はギョッとした顔した。
ドアを開けた女の人は俺のそばで固まっていた。
他4人はキョトンとしている。
「ちょっと、大崎さん。杉崎君は大人しい子だってさっき言ってましたよね?ど、どうしたんですか?」
短髪の男が焦った様子で大崎を責めていた。
どうやら動揺しているようで、大崎は返答しなかった。
「大崎さん!しっかりしてください!」
横にいる長髪の30歳ぐらいの女の人が大崎の体を揺する。
俺はやってしまったと思い、すぐに謝罪した。
「す、すいません。いきなりのことが多くて、つい。」
「何も大崎さんからは聞いていないのかい?」
冷静な声で聞いてきたのはどこか見覚えるのあるメガネの男。
「あ、猪頭さん...。一応協力内容は聞いたんですけど、勝手に事が進むんで...。」
「はぁ、やっぱり大崎さんにやらせるべきではなかったか。」
「そのようね。」
猪頭と長髪の女の人が顔を合わせる。
「とにかく杉崎君、納得の行く説明はできるか分からないが、今から説明をする。
そこに座ってくれるかい?」
猪頭は目の前の空席に指をさす。
自分を冷静にしつつ、席に座る。
「おい、篠田。いつまで突っ立ってんだ。」
「は、はい。」
篠田と呼ばれた人は俺の後ろを通り、軽くこっちを見て席に着いた。
「すいません、取り乱して。あの、怖がらせたようで、あの、申し訳ありません。」
篠田がそんなことないよ~と言っているが、少し顔がこわばっていた。
大崎が落ち着くまで少し時間がかかった。
「大崎さん。まず、状況の説明をして下さい。なぜ、杉崎君がこうなったのかを。」
短髪の男は強めに責めている。
「羽柴、よせって。こうなることは少し予想はしてたろ。」
「まぁ、そうだけど...。」
「今は杉崎君に我々を知ってもらう必要がある。」
猪頭が大崎の代わりに指揮をとっている。
大崎はなぜか何も言わない。
「じゃあ、俺から。俺は猪頭 亮。見ての通り大崎チームの1人だ。さっきはアヌビスが世話になったね。彼は俺の使いだ。なんで喋ってるかは話すと長くなる。
一応、能力も言ったほうがいいかな?動物操作というものだ。よろしく。」
動物操作.....なるほど。
「てことは動物を自由自在に操れるんですか...。」
「そう言いたいんだが、なぜか虫だけしか操作できないんだ。」
「虫だけですか...。」
なんだその微妙なクセは。よくわからないものもあるのか。
「私は永谷 真子よ。さっき頭の中に話しかけられたの覚えてる?あれ私。
びっくりさせたみたいでごめんね。大崎チームの中ではお姉さんみたいな感じ。
能力は特殊読心よ。よろしくね。」
「特殊読心?」
「普通の読心は心を読むだけだけど、特殊読心は自分の思いを送れるのよ。さっきみたいにね。」
「へー、そうなんですか。」
一瞬田沼が頭に横切り、この人めんどくさいかもしれいないと思ってしまった。
「そうね、面倒かもね。そのお友達と同様に。」
「あ、すいません。読心を持つ友達がいちいち心読んでくるんで、あはは。永谷さんは大人ですからそんなことないですよね、あはは。」
ごまかせる訳が無い。実際そうだし。
永谷は少し不満気な顔を見せた。
「ど、どうも、杉崎君。僕は羽柴 源太。さっきの君には驚いたよ。
大人しい子で良かった。」
羽柴は特に必要のない安堵の顔を浮かべた。
「あ、能力言って無かったね。ぼ、僕のは圧縮能力だ。聞いたことある?」
どこかの雑誌で読んだが、世界で未だに2,3人しか発見されていないクセのはずだ。
「え、圧縮って、あの圧縮ですか?」
「ど、どの圧縮かは分からなけど、珍しい奴だよ。」
羽柴は常に焦っている性格なのだろう、時々噛んだり、どもったりする。それに早口だ。
羽柴は両手を前に出し、空で何かを押しつぶす動作をしている。
「できた。す、杉崎君。ほら!」
投げる動作をしたかと思うと何かの塊がぶつかった。
「今なにかか、感じた?空気を固めたんだ。結構疲れるんだよねこれ。」
笑いながら言っている羽柴の頭の額には薄っすらと汗が滲んでいた。
「すごいですね...。」
初めて見るクセに感心した。
「いやー、さっきはびっくりしたよー。もう心臓止まるかと思ったよー。」
明るい笑顔の篠田は元気な声で言ってきた。
(う、苦手なタイプだ...)
永谷が横で軽く笑った。
この人も常に読んでのかよ...。
「私、篠田 奈緒って言うのー。よろしくね~。能力は空間移動!あ、さっき杉崎君を研究室から部屋に飛ばしたのあたし~。後ろからそっと近づいてね。」
あの突然の出来事はこの人が原因か。納得したが、篠田のキャラが耐えられない。
何なんだこのウザいのは。
「そ、そうだったんですか。びっくりしましたよ。」
笑いで心をなんとかごまかす。
ふと、疑問が浮かんだ。
「え、僕だけを移動させたんですか?篠田さんは移動しなかったんですか?」
前に黒田は俺だけを飛ばすのは無理だと言っていた。
「私は触った物しか飛ばせないの。自分はできないんだー。変だよねー。」
空間移動にこんなにも差があるとは知らなかった。
「篠田ははっきりとした空間移動とは言えないな。ただ、応用すれば多少の距離は移動できるようなんだが、篠田はするつもりは無いらしいんだ。」
大崎が口を開き、そう言った。。
「杉崎君、本当に申し訳なかった。君の理解が早いものだから先走って調子に乗ってしまったようだ。恥ずかしいところを見せてしまったな。」
大崎は深く頭を下げた。
「あぁ、気にしないで下さい。」
(先走って調子に乗るって...リーダーとしていいんだろうか...あ)
とっさに永谷の顔を見る。
〘私も時々思うわ。でも、この人が一番人をまとめるのがうまいのよ〙
目を瞑ることにした。
自己紹介され続けて気付かなかったが、いるはずの一人がいなかった。
現に1席空いている。
「あれ?ここに1人座ってませんでしたっけ?」
全員の視線が空席に向く。
「あら、またなの。」
「ちょっと、面倒になったな。」
「えぇー、や、やばいな」
「またなの~はぁー」
キョロキョロしだす5人。
一際目立つのは羽柴だった。
何をしているのかと思っていると、突然後ろから
「やぁ、杉崎君。こんにちは。」
後ろを振り返る。
誰もいない。
「あぁ、ごめんね。僕は透明だから何も見えないてないと思うよ。時々こうなるんだ。」
すると、おーいと大きな声を出した。他5人に知らせているようだ。
「あぁ、杉崎君の後ろにいるのか。」
猪頭がほっとした表情をする。
「えっと、どうなってるんです?」
「杉崎君の後ろにいるのは五条 仁。能力は見てわかるように透明になることなんだが、うまく制御ができない事があって暴発するようなんだ。」
「どのくらいこの状態なんです?」
「だいたい3~5時間ぐらいだよ」
後ろから返答が来た。
「大変ですね...。」
「さぁ、杉崎君。情報が足りてないのはよくわかった。これから詳しい話をしよう。」
大崎は篠田に指示をし、薄い冊子を全員に配布した。
当然、クセを利用して。
冊子を開く。
「じゃあ、納得する説明をするよ。」
大崎は張り切って言った。
クセナシ(無能) 茶甲 兜 @kabutp5810
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