♯3能力の種類
自動ドアを抜けると大きなエントランスに出た。
大崎は足早に奥にある受付に向かった。
周りが気になったが、離れるのは不安があったためくっついていった。
大崎は何かの手続きをしたようで、受付から何かを受け取った。
「はい、これを首に掛けておいてくれ。」
紐につながったカードを手渡された。
俺の名前が書いてある。あぁ、と理解し首に掛けた。
「じゃあ、研究室に行くとしよう。」
「あ、はい。」
正直のところ、なんで俺はこんなにも素直についていってるのかがよくわからなかった。なにをするのかもわかっていないのに。
向かう研究室は少し遠いらしく、長い廊下を歩くようだ。
両側は壁で挟まれれおり、閉塞的だった。
「実を言うと、杉崎君に謝らなければならないことがあるんだ。」
突然そう言い出して、ドキッとした。
「な、何ですか?」
「実は君の精神を操作させてもらってたんだ。」
「え?」
「運転手いたろ?あいつは同僚で、精神操作の能力を持っててな。抵抗する気力を抑えさせたんだ。」
はぁ、なるほど。だからか。こんなにも素直なのは。
「危害は加えないと言っておきながら申し訳ない。」
「あ、いえいえ。大丈夫ですよ。危害ってレベルじゃないですから。」
「そうか、ならよかった。」
セコイなこの人。まぁ、自分のやりたい事を達成するために誰かに迷惑をかけてしまうのはよくあることだ。
気分は良くないが。
廊下を2分ほど歩いたところで右側の壁が消え、開放的な空間が現れた。
そこには噴水があり、近くにはベンチがある。
白衣を着た人がちらほらいる。
どうやら休憩所かなんからしい。奥には売店があった。
(会社の中に噴水ってすげーな...)
驚きで足が止まってしまった。
前を歩いている大崎はそのことに気づいておらず、歩みを進めていた。
噴水を眺めていると突然横から
「前失礼します。」
紳士的な声が聞こえた。
「あ、すいません。」
反射的に体が後退する。
しかし、そこには人がいなかった。代わりにカブトムシがいた。
(カブトムシだぁ...)
カブトムシ?ん?
ツノの生えた茶色の物体は何事も無く前を通り過ぎていく。
「え?」(え?)
初めて口から出る言葉と思っていたことが同時になった。
その言葉に
「はい?」
明らかにそのカブトムシから発せられていた。
目の前の事に呆然としていると
「杉崎君?どうした?」
大崎は俺が後ろにいないことに気づいたらしい。
俺は無言でカブトムシに指をさす。
大崎は俺の指先に視線を合わせ、その先を見た。
「あ、大崎様。お疲れ様でございます。」
「おぉ、アヌビス。また調査にでも行ってきたのか?」
大崎は当然のように会話していた。
「はい、またマスターから頼まれまして。えっと、こちらの方は?」
「こないだ話してた杉崎君だよ。これから話し合いをしようと思ってね。」
「あ、こちらが例の杉崎様でしたか。どうもアヌビスと申します。先程は気づかず、大変失礼いたしました。」
「あ、いや、そんなことないですよ。えっと、あの、え?」
整理がつかない。なんだこの礼儀正しい虫は。てかなんで喋ってんだ?
名前がアヌビスってどういうこと。
「こいつは猪頭っていう研究員の召使いでいいのか?そんなようなものだ。」
「私は用事がありますので、これで失礼致します。それでは、大崎様、杉崎様。」
そう言うと休憩所の奥の方に向かっていた。
そこにはメガネをかけた研究員がいて、アヌビスはその研究員の肩に着地した。
猪頭と思われる人はこちらに体を向け会釈をしてきた。
こちらも会釈をし返す。
「杉崎君、びっくりさせてすまなかったね。また後程紹介するよ。」
「あぁ、はぁ。なんか漫画みたいな話しですね、動物が言葉を話すなんて...。」
休憩所を後にし、また長い廊下を歩いていた。
「ここには日常的には目にしない能力があるんだ。驚くのもしょうがない。」
「え、じゃあ、大崎さんも変わってるんですか?」
そういえば大崎のクセを聞いていなかった。
「私はどうだろう。割りと多いかもしれないな。パイロキネシスだよ。」
パイロキネシス...発火能力か。
大崎は指を鳴らすと同時に指先から火を出した。
「これのおかげでライターがなくて済むんだ。」
笑いながらそう言った。
しかし、その笑みをすぐに消し、真面目な顔して言ってきた。
「もうすぐ研究室に着くが、中の物はあまり触らないようにね。」
「は、はい。」
やはりこの人はどこか恐い。
大崎は一つの扉の前に止まり、鍵を開けた。
ドアのそばには大崎チームと書かれたプレートがあった。
リーダーだったのか、この人は。
大崎は部屋に入り、ロングコートを脱ぎ、いかにも偉い人が座りそうな、大きな椅子に座った。
「そこに座って。」
俺は向かい合うように置いてある椅子に座った。
「さてと、突然のことで申し訳なかった。改めて、ここの研究リーダーの大崎だ。我々の研究は個人が持っている能力の種類とその数に関する研究をしている。」
「はぁ...。」
「君も知っているように、この世界の能力の数は空間移動、読心、念動力で7割が占められている。」
「残りの3割を研究をしているということですか?」
「そうだ。理解が早くて助かる。いわゆる特異的な能力に重きを置いて研究している。そして、その中でも異彩を放っているのが君なんだよ。」
「”無能”力ですか。」
「その言い方は悪いかもしれんが、そういうことだ。今までになかったんだ、この例は。」
少し気分が悪くなった。
「君が生まれた時、大変だったろう?この研究所も何度か君のお母さんに頼み込んでいたんだ。全部断られたけどね。」
「なぜ今頃来たんですか?」
一番の疑問をぶつけてみた。
「君は大学受験を控えているだろう。でも、一般入試が受けれないのはわかっているね?」
「はい。」
この国の入試制度はペーパーテストだけでなく、面接がある。
この面接で自分のことがどれだけ理解できているのか測るのだ。
その一つに自分のクセを披露するところがある。どれだけ自分で制御できているかどうかが判断基準だ。ただ、前提としてクセを持っていなければならない。
「そこである条件を満たしてくれたら、ペーパーテストだけで入学を認めてもらうように手配しようというわけだ。」
母さんはこれを聞いたのか。
「条件は協力する、ということですね?」
「そうだ。協力の内容の前に、少しばかり君に教えておきたいことがある。」
そういうと準備をし始めた。
プロジェクター、パソコン、スクリーンを取り出し、せっせと作業をしていた。
ピッという音とともにスクリーンにACAのロゴが映しだされた。
「これから今現在の能力事情を話す。」
指示棒を取り出し、パソコンのエンターを勢い良く叩いた。
「この世の3割存在する特異能力はこうなっている。」
スクリーンには多くの字が並んだ。
透視
動物操作
発火能力
飛翔能力
水流操作
精神操作
治癒能力
電機統制能力
思念具現化能力
・
・
・
「意外に多いですね。」
「これだけ見るとそう感じるかも知れないが、出会える確率は高くはない。君のご両親は奇跡と言ってもいいかもね。」
父さんのクセは会社に大きく貢献しているらしい。電気機器を自由自在に操れるのだ。
母さんは治癒能力を持っているが完全な治癒ではないようだ。しかも、他人にしか使えない。
「この原子変形って危険そうですね。犯罪に使いそうな感じが。」
「名前だけだよ。実際は大したものではなかった。変形できる物体は限られていたんだ。不安定なものはできないようになっているらしい。本人も理解していなかった。」
「そうなんですか。」
「ここに載っているモノは今現在と言っても、半年前のものだ。大規模な調査は頻繁には行ってないのでね。まだ見つかっていない能力もあるかもしれない。」
スクリーンが切り替わる。
「この円グラフは能力の割合を示している。こっちが君の生まれた年で、こっちが現在だ。なにか気付くことはあるかな?」
その2つのグラフは明らかな差を示していた。
「僕が生まれた頃の特異能力の割合が1割ちょっと...。」
「そう、今より明らかに少ないんだ。この十数年で3倍近く増えたんだ。この結果に対して、世界中の学者が騒然としたんだ。原因は一体何なのか。未だに解決はされていない。」
なんとなく協力内容が見えてきた気がした。
「そこで我々研究チームは一つの仮説を出した。遺伝子の突然変異だ。」
スクリーンには螺旋構造のDNAがグルグル回っている。
「そこで杉崎君に...」
「あまりにも珍しいから、遺伝子の提供をしてくれないかってことですか。」
「そ、そうだ。口の中の細胞、血液、精子の提供を願いたいのだ。」
「そんなに必要ですか?血液で充分な気が...。」
「嫌なのもわかるが、念には念を入れてということでな。」
「そうですか...。」
「この他にも協力して欲しいことがあるんだ。」
「え?」
「研究を達成するのに必要になるんだ。」
「はぁ、わかりました。乗りかかった船ですから仕方ないですね。で?なんですか?」
「夏休みの間、ここの研究室に泊ってもらう。」
大崎は歪んだ笑顔でそう言った。
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