♯2杉崎の疑問
「杉崎君は世界三大能力って知ってるかい?」
突然、ロングコートの男はそう尋ねてきた。
「はぁ、まぁ、一応,,,。空間移動、読心、念動力ですよね?」
すると、男は何も言わないまま満足そうな顔して前を向いた。
どういう意図で聞いてきたのか分からなかった。
疑問に思いながら手元にある名刺に目をやった。
大崎 真司
この男の名前だ。
その上には少し大きめにACAとロゴがあった。
大崎という男は俺の家の前にうろついていて、俺を見つけるなり握手を求めてきた。
そして、
「大崎というものだ。ACAに所属している。」
とい言い、名刺を突き出してきた。
それを反射的に受け取った。突然の事だったため、頭の処理が追いついていなかった。
辛うじてACAという言葉で国家機関の人ということは理解していた。
ACAとは「Ability Control Association」の略で、個々人のクセを管理する、国に属した機関だ。
「少しお話いいかな?杉崎君。」
「は?え?」
思わず威圧的になってしまった。
大崎は俺がしかめっ面になったのに気づいたのか
「あぁ、突然のことで混乱させてしまったな。申し訳ない。」
軽く体を前に傾けた。
「えっとー、何の御用でしょうか?」
情報を整理するためにとりあえず質問をした。
「お話がしたいんだよ。ご両親には許可はもうとっているよ。」
「話?...いや、ちょっと待って下さい。よくわかないんですけど。なんで国家機関の人が僕なんかに?」
「詳しい話は車の中でしよう。外で聞かれるのは少々まずいんでね。」
ガッと肩を捕まれ、半ば強引に家の前に停まっていた車に入れられた。抵抗したかったが、大崎は大柄で力が強かったために恐怖心があった。
まもなく車は走り始めた。
大崎は俺の隣に座った。
パッと家の方を振り返ってみると、玄関の前で母さんが立っていた。よく見えなかったが、表情が暗いように見えた。
名刺から目を離し、外に目を向けた。
知らない町がそこにはあった。
「大崎さん、これって何処に向かってるんですか?僕になんかするんですか?家には戻れますか?」
不安と恐怖で聞きたいことがまとまらなかった。
「まぁまぁ、落ち着いて。今向かってるのはACAの研究室で、君に害は与えない。約束する。協力してもらいたいんだ。」
「協力?」
「そうだ、杉崎君は今度の研究で必要な人材なんだ。」
「別に僕にはそんな協力できるような力なんて無いですよ?単なる高校生ですし...。」
「こちらにとっては、いや、世界にとっては"単なる"じゃ済まないんだ。君は人類の歴史を覆しているんだ。君は自分がどれだけ異常かわかってるだろ?」
口調が強くなったせいで固まってしまった。
"異常”
その言葉に嫌な記憶が蘇ってしまった。
俺は小さい頃、世界から注目されるような子供だった。
人類は昔から必ずクセを持っていた。
しかし、俺にはそれが無かった。
その当時は世界中の生物学者や能力管理団体が混乱していたらしい。
「ありえない」
「異常だ」
「新人類か?」
そんな言葉が飛び交っていたようだ。
父さんと母さんは至って正常だった。
父さんは電機統制能力 母さんは治癒能力
どちらも世界的には数少ないクセだった。
なぜなら、世界三大能力が全世界の7割以上を占めているからだ。
そんな間に生まれた俺。期待されていたようだ。珍しいクセを持つかもしれないと。
世界は俺を求めた。しかし、父さんと母さんは俺を必死に守ってくれていたようだ。
小学生になる頃には殆どの研究機関は、注目はしていたが、直接言ってくることは無くなった。
しかし、小学生、中学生の初期までいじめを受けていた。
テレビで流れていただけあって名は知られていたのだ。
「無能」
「能無し」
そんな心のない言葉を浴びせられていた。
高校にあがる頃に遠くに引っ越し、今の理解者である三人と仲良くなった。
そんな昔の事を思い出した。
ふと、幾つかの疑問が浮かんだ。
なんで母さんは許可を出したのか。
なぜ今更研究をし始めたのか。
違和感を感じた。嫌な予感がしなくもない。
いや、何かの思い過ごしだ、と自分に言い聞かせた。
でも、腑に落ちなかった。
「着いたぞ、杉崎君。」
考え事していて気付かなかったが大きな建物の前に停まっていた。
「あ、そういえば、協力の内容聞き忘れてました。」
「それは研究室の中に入って話そう。そっちの方が早い。」
ガチャンと車のドアを開き、出て行った。その後に俺も続いた。
目の前にそびえ立つ建物には大崎の名刺にもあったACAのロゴがでかでかと掲げてあった。
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