#11 闘技場

 7時起床。僕はいつも通りDOGを起動させ、ロード中にトーストとコーヒーを交互に口に運ぶ。昨夜はハルトが帰宅後もしばらくやっていて、結局寝たのは4時だ。睡眠時間3時間は流石に堪えるが、今日はいろいろとやりたいことがある。カフェインの力を借りてでも、この時間からログインする必要がある。予想通り、他のギルメンは誰もいない。今日は日曜日だから、まだ寝ているに違いない。クエストの誘いなどをされても面倒だから、この方が好都合だ。


 僕はアップデートで新たに実装された、プレイヤーのランキングを細かく確認する。リナの戦闘力ランキングは現在25468位。DOGの人口は約10万人だから、始めた時期を考えるとこれでも上出来なのだろう。レベルは低いが、パトロン達のおかげで装備は強いからこそ、この順位につくことが出来た。しかしもちろん、こんな所で満足する気は無い。僕は続けてギルドランキングを確認した。ライジングは349位。しかしそんなことはどうでもいい。気にするべきは、1位のギルドだ。1位は……チーム白桜。これが今のDOG内の最強のギルドか。


 ライジングは所詮、マイペースに楽しむだけのまったり系ギルド。そういう楽しみ方を否定するつもりはないが、ここにいても決して上には行けない。最強を目指すなら、それだけ強いギルドに入るのは必要不可欠なのだ。しかし当然そういうガチギルドは、誰でも受け入れるわけではない。ギルドは30人までという制限がある以上、雑魚はお断りするというのは必然だ。チーム白桜の募集要項を確認してみた。


・毎日ログイン出来て、1日5時間以上プレイできる

・ログインできない日がある場合は前日に必ずギルマスに報告

・レベル100以上、全身レア5装備

・暗黒魔神ブルート討伐済み

・無課金お断り

・闘技場には毎日参戦

・毎週末にギルドレベル上げのための集金あり

・↑ノルマ50000ゴールド

・戦闘力ランキング300位以内 ←New!


 思わず苦笑いがこぼれた。今のリナでは門前払い確実だな。分かりやすいぐらいのガッチガチのギルドだ。もはやリアルの自分は捨て去り、DOGの世界へ移り住んでしまった者達の集まりといったところか。以前やっていたネットゲームのトップギルドも、ここまでは徹底していなかった。流石に超人気作で人口も多いとなると、そこのトップに君臨する者達は、頭のネジがぶっ飛んでいるようだ。やはりそう簡単には上には行けないらしい。リリース当初からプレイしなかったことが、今更ながらに少々悔やまれる。しかし、諦めるつもりはさらさら無い。


 一旦DOGからログアウトして、チーム白桜と検索してみると、予想通りギルドのホームページが見つかった。ガチギルドは大抵自分達のホームページを持っているものだ。メンバーの紹介や、ゲーム内で見たのと同じ内容の募集要項、スクリーンショット付きの日記、活動スケジュール、溜まり場の場所なども載っていた。掲示板は、残念ながらメンバーしか見られないようだ。とりあえず、チーム白桜の溜まり場……闘技場北口の石像前に行ってみるか。


 闘技場は街の中心部にあるから、すぐに着いた。チーム白桜が集まって行動するのは夜だから、この時間に行っても意味はない……ということはない。丸一日張り付いている廃人集団だ。誰かしらは必ずログインしているに違いない。そのまま闘技場の中に入ると、チーム白桜のメンバーの1人が、ちょうどデュエルの最中だった。せっかくだから観戦させてもらうか。


 そのメンバー、JETはレベル132の魔法使いだ。相手はレベル118の忍者。廃人同士のタイマン勝負ってところか。魔法使いはタイマン勝負には向かないが、JETにとってはそんなことお構いなしのようだ。魔法使いとは思えない耐久力で攻撃を受けきり、桁違いの魔力で相手を葬った。さっきホームページで見た限りでは、JETはチーム白桜のナンバー2だったな。戦闘力ランキングでも2位に名を連ねている。よし、こいつでいいか。僕はJETに向けて囁きチャットを開き、キーボードを叩いた。


リナ:こんにちは! 対戦観てたんですけど、凄く強いですね

JET:おわ、ビックリした

リナ:あっ、いきなり話しかけてごめんなさい。つい興奮しちゃって……

JET:いや、いいよ別にw でも俺なんかそんな大したことないよ~


 ふっ、ナンバー2の強者がよく言う。そんなことないですよって言ってほしいんだろ?


リナ:いやいや、そんなことないですよ。こんな強い人初めて見ました(・_・;)

JET:そうかい? ありがとう。君、あまり見ない名前だけど、闘技場は初めて?

リナ:はい、デュエルに興味はあるんですけど、私はまだまだ弱いので……

JET:そうかそうか。良かったら俺と組んでやってみる? 立ち回りとかいろいろ教えてあげるよ

リナ:本当ですか! あ、足手まといにならないように頑張ります!

JET:はは、そんな堅くならなくていいよw とりあえず俺の後ろにいて、回復とか補助してくれればいいから

リナ:分かりました。うぅ、緊張するな~……

JET:大丈夫大丈夫。君に近づく奴がいたら速攻で焼き払ってやるからw


 すっかり姫を守る騎士気取りだな。それならば、利用させて頂くとしようか。JETとパーティを組み、2対2のデュエルに挑んだ。相手チームはレベル90代が2人。JETには劣るとはいえ、リナよりは遙かに強い。試合開始と同時に、真っ先にリナを狙ってきた。まずは頭数を減らそうということだろう。きゃー、JETさんたすけてー。なんてことをわざわざ言う必要も無く、JETはそのディフェンスラインを、決して敵に割らせなかった。巧みな魔法で足止めをして、最上級魔法で2人まとめて、宣言通りに焼き払った。


JET:まあ、こんなもんかな

リナ:やっぱりJETさん凄い(゜o゜;) 私全然役に立ってないですね……

JET:初めてなんだから仕方ないよ。次の試合行こうか?

リナ:はい、お願いします!


 その後何試合かして、いずれもJETの活躍により圧勝だった。その度にJETを褒め称え、思う存分に優越感という名の極上の美酒を振る舞ってやった。JETのように闘技場に入り浸っているプレイヤーが、最も求めているのはその優越感だ。時間と金を注ぎ込んで作り上げた、『最強の俺』。その『最強の俺』で弱者達を粉砕する快感。そしてそれをリナという、か弱い女に見せつける優越感。俺つええええ!! と言いながら、脳汁ドバドバでドヤ顔を決めている、モニターの向こうのJETが容易に想像出来る。表面上は謙遜しているが、ネットゲーム廃人なんて所詮そんなものだ。さてと……通常では入手が難しい、闘技場の連勝ボーナス報酬も大体手に入れたことだし、そろそろ終わらせるとするか。


リナ:JETさん、ありがとうございました。とても勉強になりました(*´▽`*)

JET:どういたしましてw 俺も楽しかったよ

リナ:私もJETさんみたいに強くなりたいです。JETさんのいるギルドに入れば、強くなれますか?

JET:あ~……俺は歓迎なんだけど、多分ギルマスが駄目って言うな。うちってかなりのガチギルドで、入団条件が厳しいんだよ

リナ:そうなんですか……残念ですけど、仕方ないですね(´-ω-`)

JET:でもフレンドにはなれるよ。それなら連絡取り合えるからさ、またいろいろ教えてあげるよ

リナ:ホントですか! 嬉しいな~w

JET:よし、フレンド登録完了。あと、ついでにお近づきの印にこれあげるよ

システム:JETからメールが送られてきました。

リナ:うわ、こんなにたくさんのアイテム本当にいいんですか?

JET:ああ、どうせまた闘技場で勝てば手に入る物ばかりだしね

リナ:ありがとうございます(>_<) いつかきっとJETさんのギルドに入って、必ずお返ししますね

JET:ははは、楽しみにしてるよ。頑張ってね。何か手伝って欲しいことがあったら、いつでもメールして

リナ:はい^^ では失礼しますね


 トップギルドのナンバー2に、初心者の相手をしてやる暇なんてないはずだがな。こいつ、完全にリナに惚れたようだ。ハルトといいレオンといいJETといい、どいつもこいつもイージー過ぎる。落とした消しゴムを拾ってもらったり、お釣りを渡す時に手を包み込んでもらっただけで、その女の子に惚れてしまうような引き篭もり童貞君を虜にするなど、リナにとってはたやすいことだ。もしそれが原因でJETがチーム白桜をクビになっても、リナを恨まないでほしいものだな。


 闘技場から出て、早速今貰ったパワーアップアイテムを使用、そして装備を入れ替えた。再度ランキングを確認。リナの順位は18235位に跳ね上がっていた。チョロいもんだな本当に。おっと、今のでハルトの順位を超えてしまったか。ふふ、悪いことをしてしまったかな? まあ、また焦って課金して追い抜いてくれるだろう。それが出来なければ、残念ながら僕の見込み違いだったということになる。


 そのハルトがちょうどログインしてきた。時間はまだ10時を回ったばかり。こいつもなかなか熱心だな。よし、ご褒美に遊んでやるか。リナのステータスを見てどんな反応をするか、楽しみでもあるしな。僕はハルトに向けてメールを打ち始めた。

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