#7 レオン

Mr.プー:ちょwwwハルト君何持ってんのwwww

チルル:天竜出たの!?(゜Д゜;)

雷神:すげえええ!!

姫子:ほんとに出るんだ……


 ああ……気持ちいい。何という優越感だ。もっと驚け、もっと褒めろ。ガチャにハマる奴の気持ちがよく分かった。たとえリアルでどんなに冴えない奴でも、ゲームに金をかけて運が良ければ、誰もがヒーローになれるのだ。そして、この余った大賢者の杖をリナに……。


リナ:えっ、嘘! こんな凄いのくれるの!?

ハルト:うん、武器は1つあれば充分だからさ

リナ:でも、高く売れるんじゃないの……?

ハルト:だろうねぇ。まあでも、ゴールドはそのうち貯まるからさ。売るぐらいならギルメンにあげた方がいいでしょ


 もちろん嘘だ。ギルメンだろうと、リナじゃなければ、タダで譲るわけがない。それに、今はレオンがこの場にいる。こいつの前でリナに大賢者の杖をあっさりとリナに譲ることによって、格の違いを見せてやるのだ。


レオン:そんなことより、そろそろ経験値ボーナスタイム始まるよ。狩りに行かない?


 ……あ? そんなことだと? カチンときたぞ。今まで黙ってたくせに、いきなり話題を変えてきやがった。何て嫌な野郎だ……! いや、待てよ? かえって好都合だ。この天竜の杖の破壊力を皆に、そしてリナに見せ付ける絶好のチャンスだ。ふふ、いいだろう。目ん玉飛び出さないように、今のうちに両目に眼帯でも付けておくことだな。


ハルト:あっ、そういえばそうだね

雷神:よっしゃ、そんじゃ行くっぺや

Mr.プー:今はイベントのボスが湧いてるから、そいつを狙いつつ狩ろうか

チルル:倒せばレアアイテム出るらしいしね~

リナ:行きましょう(*'▽'*)

姫子:あたしは夕飯作るから落ちます~。皆頑張ってね!


 姫子を除いた6人で、夏休み限定イベントのクエストをこなすことになった。ボスはランダムで出現するのでなかなか現れないが、倒すことが出来ればレアアイテムが手に入ることがある。あくまで運が良ければだし、何が手に入るかは公表されていない。それに始まったばかりのイベントだから、他のプレイヤーの報告もまだ無い。レアアイテムに興味はあるが、俺はそれよりも早く天竜の杖を使いたくて仕方が無かった。目的地に到着すると、物凄い人だかりが出来ていた。


Mr.プー:うお、すごい人だな

チルル:今日から始まったイベントだからねー。皆考えることは一緒だわ

雷神:しゃーない。とりあえず、手分けしてやるか。ボスが湧いたら速攻でFA取るぞ

リナ:質問! FAって何ですか?

レオン:ファーストアタックの略だよ。最初にボスに攻撃したパーティに、経験値やドロップアイテムを獲得する権利が与えられるんだ


 へえ、そんなシステムがあったのか。確かにそうでないと、とどめの瞬間だけ攻撃して横取りする輩が出てくるしな。よーし、ならばFAとやらは俺が取って、ギルドに貢献してやる。そして、ボスが湧くまでの間、雑魚狩りが始まった。手分けするということだったが、俺はなるべくリナと離れずに狩りをする。天竜の杖……凄まじい威力だ。普通なら3回4回と攻撃しなければ倒せない敵も、ほとんど一撃で倒せる。ハルトの雄姿は周りのプレイヤー達はもちろん、リナの目にもきっと映っているだろう。ギルメン達にも自慢してやりたいが、まあとりあえずリナに見せられればそれでいい。


レオン:ボス出た


 むっ、しまった。雑魚狩りに夢中で主旨を忘れていた。


Mr.プー:FAは?

レオン:取れた

雷神:よっしゃでかしたあ!

チルル:すぐ行くよんo(^o^)o


 くそ、よりによってレオンに手柄を取られたか。まあいい、たかがFAだ。そのボスを瞬殺してやればいいんだ。俺はレオンの元へワープした。そこには、見たこともない巨大な二頭のドラゴン、マスチフドラゴンが暴れていた。


マスチフドラゴン HP 360000


 何だこりゃ……とんでもない数字だ。これじゃあ、どう考えても瞬殺は無理だ。


Mr.プー:ちょ……強くね?ww

チルル:やばいこれやばい

雷神:無理ゲーな予感(゜Д゜)

リナ:回復間に合わないかも……


 本当に強い。雷神達は回復アイテムやパワーアップアイテムをフルで使い、リナの魔法でかろうじて生きながらえている。恐らくハルトやリナの耐久力では、一撃でも食らえば即死だ。FAを取れなかった他のプレイヤー達が、巻き添えを食わない所で俺達の戦いを見物している。ここであっさり死んで、大衆の前で情けない姿を晒すわけにはいかない。俺はハルトを、万が一にも敵の攻撃が届かない所まで移動させ、ひたすら魔法を撃ち続けた。これは別に恥ではない。前線は戦士や格闘家などに任せて、後衛から強力な魔法で敵を攻撃するのが魔法使いの役割なのだから。


雷神:あ、やばい。リナちゃんにターゲッティング行った


 気付くと、マスチフドラゴンが方向転換し、リナに向かって真っ直ぐ歩き出した。回復魔法を使っていると、敵のヘイト……つまり、狙われやすくなるのだ。要は、殴るよりも敵を怒らせやすいということ。まずい、ハルトでは何も出来ん。しかし、リナに攻撃を仕掛ける瞬間、マスチフドラゴンはまたしても方向転換をした。よく見ると、レオンが挑発スキルを使い、マスチフドラゴンの注意を引きつけている。聖騎士ならではの、味方を守るスキルというわけだ。ちっ、カッコつけやがって。いくら頑丈な聖騎士だろうと、こいつの攻撃を一身に受ければ即死だ。精々恥をかくがいい。


 …………? なんだ、やけにしぶといぞ。マスチフドラゴンの猛攻を受けているにも関わらず、HPの減り方がやけに少ない。いや、それだけじゃない。レオンがマスチフドラゴンに与えるダメージも、ハルトと同等以上だ。俺は恐る恐るレオンのステータスをチェックした。


「はっ!?」


 俺は身を乗り出し、モニターに釘付けになった。レオンの装備が一新されている。しかも、天竜の杖に並ぶ、現状の聖騎士の最強の武器、セイントセイバーを装備している。そんな馬鹿な……さっきはそんなの持ってなかったじゃないか。


 …………こいつ、まさかさっき溜まり場で黙りこくっていた時、一人でガチャを回してやがったのか? 俺の天竜の杖に対抗するかのように、しれっと自分も最強武器を引き当て、しかもそれを黙っていたというのか。クソ……クソクソクソ! クソッタレが! そして遂にマスチフドラゴンが、断末魔の雄叫びをあげて倒れた。


雷神:勝ったああああ!

リナ:お疲れ様でした!

チルル:乙カレー(≧∀≦)

Mr.プー:いやあ、危なかったわ

雷神:誰かアイテムでた?


 FAを取っても、必ず何かが手に入るわけではない。経験値とゴールドは確定で貰えるが、アイテムは運次第だ。それに、そのアイテムも全員に平等に分けられるわけではない。誰が手に入れるかもランダムで運次第というわけだ。当然のように、俺の元には何も来なかった。


ハルト:俺は何も無し

Mr.プー:俺もないな

チルル:同じく

リナ:ポーションが1個だけ出た(^_^;)

雷神:やっぱ1回倒したぐらいじゃ出ないよな

レオン:俺出たよ

雷神:まじで! 何が出た?

レオン:ドラゴンローブと法皇の帽子。魔法使いと僧侶の装備品だね


「……」


 俺は無意識のうちに貧乏ゆすりをしていた。心拍数も上がっている。俺は瞬きもせずにモニターを凝視し続けた。そして……最も見たくない文章を目の当たりにした。


システム:レオンからメールが送られてきました。

添付アイテム「ドラゴンローブ」


 握っていたマウスがパキッと音を立て、ヒビが入った。モニターを殴り壊したい衝動を必死に抑え、震える手をキーボードの上に置いた。


ハルト:ありgとう

リナ:レオンさんありがとう! うわっ、この帽子凄い強い(@_@)

雷神:おうおう、太っ腹だなー

レオン:俺が持ってても仕方ないからね。ハルト君とリナちゃんが使ってよ

リナ:あ、そういえばさっきは助けてくれてありがとうw

レオン:いや、敵を引きつけるのは聖騎士の役目だから。一時的にでもそっちにヘイトが行っちゃったのは俺のミスだよ。悪かったね

チルル:ていうか今気づいたんだけど、レオン君セイントセイバー持ってる!

Mr.プー:マジかよw


 話題の中心は完全にハルトからレオンに移った。こんな屈辱は生まれて初めてだ。顔も知らないが、俺を嘲笑うレオンが思い浮かぶ。今すぐにでもドラゴンローブをたたき返してやりたいが、そんなことをしても余計に惨めだし、他のギルメンの心証も悪くなってしまうだろう。ならば、利用してやる。レオン……こいつは必ず潰す。余裕ぶっこいて敵に塩を送ったことを、後悔させてやるからな。

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