#6 理奈
リナ:寂しいな……本当に引退しちゃうの?
りょう:うん。今年受験だから、さすがにゲームやってる場合じゃないからね。俺も寂しいけど、仕方ないよ……
リナ:また、お話出来るかな?
りょう:もちろんさ。これ、俺のLINEのIDだから→「******」 後でメッセージちょうだいよ。ゲームは無理でも、チャットで話すことは出来るからさ
リナ:うん、分かった
りょう:そうだ。どうせ引退するし、俺のアイテムとゴールド全部あげるよ。メールに添付するね
システム:りょうからメールが送られてきました。
リナ:えっ。そんな、いいのに……。
りょう:持ったままキャラ消すのももったいないじゃんw
リナ:ありがとう、大事に使うね!
りょう:じゃあ、そろそろ落ちるね。LINEで待ってるよ。アディオス!
りょうがログアウトした。よし、もうこいつに用はない。僕はりょうを迷惑プレイヤーリストに入れてブロックし、更にフレンドリストから、りょうを抹消した。これで万が一りょうがゲームに復帰してきても、リナを探し出すことは不可能だ。ブロックしているからメールも送れない。LINEでいつまで待っても現れないリナの様子を窺うために、こっちで絡まれても面倒だからな。
さて、メールの中身を見てみるか。りょうは格闘家だから、残念ながら装備は合わない。しかし、そこそこやり込んでいただけあって、なかなかの資産だ。全て売って金にして、他のプレイヤーから僧侶用の装備を買うことも出来る。まあ、極力このようにタダで貰っていくつもりではあるがな。課金はしない。課金アイテムは全て他のプレイヤーに貢がせ、無課金でトップを目指す。それが僕のネカマとしてのポリシーだ。
僕はりょうとの最後のチャットログと、メールの中身をスクリーンショットで撮った。これは後で使うことになる。良質なパトロンを1人失ったことだし、また新たなパトロンを探すとするか。僕は街の広場に行き、物色を始めた。人が大勢いるので、チャットログが凄い早さで流れていく。その中から、ピンと来る者を探し出すのだ。はっきり言ってほとんど勘任せだが、その勘が外れたことは未だにない。
部屋のインターホンが鳴った。ああ、そうだった。今日はあいつが来る日だったな。僕は席を立ち、玄関先へ足を運んだ。僕が鍵を開け、ノブを回した瞬間に勢いよくドアが開け放たれ、そいつが僕に飛び付いてきた。
「ダーリン! 会いたかった~ん!」
「…………先週デートしたばかりだろ?」
「本当は毎日会いたいの!」
「はいはい。まあ、とりあえず上がりなよ。理奈」
会う度にケバくなっていくなこいつは。浮かれながら僕の部屋に入る理奈を目で追いながら思った。そのうち、昔流行ったヤマンバギャルみたいになりかねない。だが、別にどちらでも構わない。見た目などどうでもいいのだ。もっと言えば、性格の良し悪しさえもどうでもいい。僕にとって全ての女は……いや、全ての人間は2種類に分けられる。利用価値のある人間と、ない人間だ。理奈はキャバ嬢をやっていて、金がある。だから利用価値があるだけだ。
「あっ、ダーリン新しいゲーム始めたんだ?」
理奈が、付けっぱなしになっているパソコンのモニターを見て言った。
「まあ、始めたのは先月ぐらいからだけどね。ドリームオブゴッドっていうネットゲームだよ」
「って、またあたしの名前使って女の子のふりしてるぅ! やだもう~」
やだと言いながら満更でもなさそうだ。彼氏の趣味はネカマ。普通ならドン引きされてもおかしくないが、理奈はそんなことは気にしない女だ。むしろ、一緒になって楽しんでいる。何故なら、僕がやっていることと、日頃から理奈がキャバクラの客に対してやっていることは、それほど大差ないからだ。いかに自分の魅力を武器にして、男から搾り取れるか。リナも理奈もそれが全てだ。
「ほら、見てみなよ理奈。笑えるよ、これ」
「えっ、なになに? ……あはは! マジウケる!」
さっき撮ったリナとりょうのチャットログを見て、理奈が手を叩きながら爆笑する。その後僕は理奈から、ここはもっとこういう風に話した方がいい、ここは聞き手に回った方がいいなどと言ったアドバイスを受ける。ステージは違えど、理奈も男を釣ることに関しては一流だからだ。見た目は馬鹿そうに見えるが、こいつは意外と頭がいい。まあ残念ながら、自分も利用されているだけの女であることには気づけないようだがな。
僕はゲーム内で完璧に女を演じるために、女性誌などを読んで、ファッションや化粧品なども調べて、その手の話題についていけるようにはしている。その努力の甲斐あってか、これまで男にはもちろん、女にもネカマだとバレたことも、疑われたことすらもない。しかし、理奈から見ると、まだまだ僅かながら粗があるようだ。理奈と付き合い始めて1年、そうやって僕はこの1年間で更にネカマとしてのレベルを上げてきたのだ。
「さて、上客様がログインなされたことだし、そろそろ再開しようかな。悪いけど、適当に寛いで待っててくれる?」
「太い客を大事にしなきゃいけないのはお互い様だね~。あたしも観たいドラマあるから、それ観て待ってるね」
ウザったい束縛をしてこないのも、理奈のいいところだ。最低でも週に一度会って、夜に何発か相手してやれば、そこまで文句は言われない。僕はライジングの溜まり場を目指した。上客……ライジングに2人いる。ハルトとレオンだ。もっとも、現段階ではレオンの方が明らかに優位だがな。だが、この2人はいいライバルになりそうだ。リナを巡って三角関係を激化させてくれれば、僕としては都合がいい。
溜まり場に着いた。ハルトとレオンの他、大体いつものメンバーが揃っているが……何やら騒いでいるな。何があったんだ?
Mr.プー:ちょwwwハルト君何持ってんのwwww
チルル:天竜出たの!?(゜Д゜;)
雷神:すげえええ!!
姫子:ほんとに出るんだ……
ハルト:いやあ、運が良かっただけだよw
天竜……? 天竜の杖か。ハルトのステータスをチェックすると、確かに装備している。防具は並なのに武器は最強だから、攻撃力だけが飛び抜けている。しかし驚きだな。成長の早いリナを見て、焦って課金する事までは計算通りだが、まさかこんな激レア武器を引き当てるとは。こいつも僕と同様、言葉では説明できない何かを持っているようだな。
リナ:こんばんは! ハルトさん天竜当てたの?
雷神:こんー。そうらしいよ。マジうらやま(´д`)
チルル:だねぇ。一体いくら課金したのかな?(▼∀▼)
ハルト:それは秘密w あっ、そうだ。リナに渡そうと思ってた物があるんだわ
システム:ハルトからメールが送られてきました
早速来たか。中身は大体想像つく。開けてみると、添付されていたのは…………ほう、大賢者の杖か。かなり強力だな。この前レオンから貰った杖も、これがあれば必要ない。そのレオンはというと……さっきからずっと黙っている。ふっ、分かり易い奴だ。悔しいなら、お前ももっといいアイテムを持ってこい。リナは分かりやすく、そして素直で正直な子だ。自分に最も尽くした者に、最大限のひとときの夢を与えるのだよ。僕は心の底からほくそ笑んだ。さあ、もっと……もっと僕を楽しませてくれ。
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