#2 ギルド

 ハルトとヒーロは街に戻ってきた。移動しながらいろいろ教えてもらったが、ここはダルメシアという拠点となる街だそうだ。他にも街はあるにはあるそうだが、ほとんどのプレイヤーはここに集まり、チャットしたり仲間を募集したり露店を開いたりしているそうだ。ここから全てのダンジョンへ行くことが出来、死んだ時もここに戻されるらしい。実質、街はここ一つしか無いようなのだ。これも俺が今までやってきたRPGとは、大きく違う点だ。街外れの公園に、数人のプレイヤーが屯たむろしていた。


雷神:おっすー、ヒーロ

ヒーロ:こんー(´▽`)ノ

チルル:ちゃお(^^ゞ

Mr.プー:新人さん?

ヒーロ:うん、リア友を誘ってみたw

雷神:おっ マジで?


 なんだなんだ……随分仲良さそうだな。この人らがギルメンってやつか。そういえば、広は昔からコミュニケーション能力はあるんだったな。容姿のおかげで断じて女にモテるわけではないが、親しみやすく弄りやすいタイプだから、クラスの女子とも普通に話していたのを思い出した。とりあえず俺もちゃんと挨拶した方がいいよな。俺は素早くキーボードを叩いた。


ハルト:ヒーロの同級生です。よろしく

雷神:ライジングのギルマスの雷神でーす。よろしくねハルトさん

チルル:よろよろw

Mr.プー:よろしく!


 ライジング? ああ、ギルドの名前か。皆の名前の横に(ライジング)って書いてあるのは、所属しているギルドを表示してたのか。雷神のライジングか……安直だな。その後、二言三言会話を交わした後、流れのままフレンド登録やギルドへの加入登録を済ませた。その時、部屋のインターホンが鳴った。誰だ、この忙しい時に。俺は玄関に向かった。スコープを覗き見ると、見知らぬ男だった。ドア越しに声をかける。


「はい、どちらさん?」


「こんにちはー。NHHですけどー」


 俺は舌打ちを鳴らした。放送局の受信料の集金だ。この前も別の奴が来て、追い返してやったばかりだというのに、しつこい奴らだ。


「うち、テレビ無いんで!」


 それだけ告げると、ドアチェーンをかけて部屋に戻った。モニターを見ると、既にチャットのログが結構流れてしまっている。


雷神:あれ?ハルトさんいる?

ヒーロ:おーい、ハルトくーん

ハルト:ごめん、NHHの集金人追っ払ってきた

Mr.プー:wwww

チルル:ワロタw

雷神:俺も毎回追い返してるw

ヒーロ:何て言ったの?

ハルト:うちテレビ無いって。まあ本当はもちろんあるけど、観てもいない放送局に金なんか払いたくないし

Mr.プー:だよねー。勝手に電波飛ばしておいて金払えとか無いよねw


 あれ……なんかウケてるな。広以外の人と普通に話せてる自分に違和感を覚える。匿名の掲示板で、熱い議論や罵りあい、煽りあいをしたことなら何度もあるが、名前を出して普通の会話をするのは初めてかもしれない。ちょっと楽しいかもな。しばらく雑談しているうちに、自然と敬語も無くなっていった。こんな俺でも、ネット上ならこうも簡単に友人というものを作れるのだなと感心した。


雷神:お、そろそろ経験値ボーナスタイムだな

ヒーロ:狩り行く-?

チルル:いこいこ(*^ー^)

Mr.プー:俺も最近サボってたから行くわ


 レベル上げしやすい時間帯があるようだ。雷神はレベル48、チルルは36、Mr.プーは42、ヒーロは32と、始めたばかりの俺とはかけ離れていた。一緒には行けないだろうな。


ハルト:じゃあ俺は1人でレベル上げしてくるね

チルル:一緒に行かないの?(・д・)

ハルト:いや、俺まだレベル5だから、足手まといでしょ

雷神:大丈夫だよ。敵に近付かなければ死なないよ

ヒーロ:パーティに入ってれば何もしなくても経験値入るから


 そんなんでいいのか。言われるがまま、狩り場へとついて行く。バーナード山という、レベル30~40のレベル上げに最適な場所だそうだ。モンスターも、さっきのスライムやゴブリンとは明らかにレベルが違う。


「あっ、しまった」


 近付くなと言われていたのに、うっかり操作ミスして一撃で倒されてしまった。ハルトが情けなく倒れ込み、街に戻されてしまった。慌ててパーティチャットを開いてキーボードを叩いた。


ハルト:ごめん……

雷神:気にしないでw

Mr.プー:すまん、そっちまで気が回らなかったわ

チルル:どんまーい!

ヒーロ:ハルト君、パーティ組んでればワープ出来るから、こっちに戻ってきて~


 皆いい人達だな……。改めて狩り場に戻り、モンスターの間合いに入らないように、遠くからチクチクと魔法を撃ち続けた。高レベルな狩り場なので、ハルトのレベルは更にどんどん上がっていく。ただ、はっきり言って俺は何の役にも立ってない。棒立ちしてるのも暇だから参加しているだけで、別にいなくても何の問題も無い。しばらくして、ハルトのレベルは14まで上がった。まだストーリーも何も進んでいないのに、レベルだけが上がっていく。しかし、ここで俺は1つの疑問を抱く。


「……何が面白いんだ? これ」


 思わず本音を口に出す。もちろんチャットにはそんな事は打ち込まない。狩りが終わった後、夕飯の時間が近づいてきたこともあって、パーティは一時解散となった。ヒーロだけが残り、最初のストーリークエストとやらに案内すると言った。ピンと来ないが、とりあえずストーリーを進めるそうだ。街の人に話しかけると、チワン洞窟という所のモンスターを退治して欲しいと依頼された。


ヒーロ:最初の洞窟だから、すぐ着くよ。ついてきて~

ハルト:了解


 洞窟内には、スライムやゴブリンに毛が生えた程度の雑魚モンスターが巣くっている。当然、今のハルトとヒーロの敵ではない。最深部のボスも、名前を覚える間もなく倒せていた。


ヒーロ:クエスト完了報告に行こうか。次のクエストが受けられるからね

ハルト:ああ


 そう言われて街に戻ったが、結局似たようなお使いクエストを2つ3つこなして終わりだった。つまらん……。RPGってのは、もっとコツコツと強くなっていって、ドラマチックなストーリーがあってこそなんじゃないのか? ボスにボコボコにやられて、悔しさを胸にレベルを上げたり、新しい装備を買ってリベンジしたり。そして、親友が裏切ったり、宿敵が実は生き別れた兄だったり、最初は不仲だったライバルが、徐々に主人公と絆を深めていったり、ツンデレなヒロインとの甘酸っぱい恋愛があったり…………そういうものだろう? しかし、これはなんだ? ストーリーそっちのけでレベル上げばっかりで、ストーリーもクエストという名のお使いを頼まれるだけ。いや、待て…………流行っているからには、それなりの理由があるはずなんだ。これから面白くなるのかもしれない。どうせ無料で落としたゲームだ。止めようと思えばいつでも止められる。もうしばらく様子を見てみるか。俺はDOGからログアウトし、カップ麺のお湯を沸かすため、溜まった洗い物でごっちゃになっている台所へと向かった。

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