懺悔する者
―――熱い。
背が熱を持って、全身の血がゆっくりと加熱されているようだ。
じとりと脂汗が浮かんでくるのは分かるのに、それを拭う事すら今は考えられない。
今はただただ熱い。
とにかく水が飲みたいけれど、何度か喉を通る水分は全身の熱を治めるのには全く量が足りていない。
もっと、もっと、と思っているのに思い通りに熱を下げられずに呼吸がどんどん苦しくなっていく。
死の苦しみにしたってこんなに長くて辛いなんて。
死にたい。
もう早く死にたい。
もう終わりにしたい。
熱い、痛い、苦しい。
でも、永劫のように長く感じられたそれは、実際には長い時間の苦しみではなかったのかもしれない。
冷たい何かが身体に触れたのと同時に身体に帯びていた熱が拭われて行くのを感じて、苦しかった呼吸が一気に楽になる。
助かったんだ、と虚ろな思考で考え、安堵の感情が心を満たす。
もう大丈夫。もう、死ななくて済む。
熱で消耗したのか目を開ける程の体力は無いのに、それでも早く開けなければならない気がする。
そんな感情を後押しするかのように、足りない体力を補うように外からゆっくりと何かが注ぎ込まれている。
この感覚には覚えがある。これに縋ればきっと目を開けられる。
そうだ。きっと目を開ければケイカが泣きそうな顔で心配しているだろう。
治癒術師が首が繋がったと安堵の溜息吐くのだろう。
そして扉の先には沢山の魔術師達が私の無事を待っている。
ちゃんとまだ闘える事を示して、戦場に戻って、
だから、早く目を開けよう。
どこか頼りない何かに縋ってどうにか目を開くと、最初に目に入ったのは誰かに握り締められた自分の手だった。
ぼんやりと光るそれは癒しの魔術だろうか。
手の先へと視線を動かしていくと、魔術を行使している人間が私の動きに気づいたように手を少しだけ強く握りなおした。
「……気が付いたか」
ぼんやりとした視界に映った人物にぎょっとして、意識が一気に覚醒する。
そこに居たのは自分の従者でも見知らぬ治癒術師でもなく、只一人の友人。
彼はほっとしたように微笑を浮かべてゆっくりと手を離すと、誰かに意識が戻ったぞと声をかけた。
私の顔をじっと眺め、長い長いため息を吐いて安堵するアトラスとは逆に、私は一気に混乱して心拍数が上がり始める。
さっきのは、夢?
でも一体どうしてこの人物が私の前に居るのかが分からない。
「な、んで」
「お前の従者だった女に教えてもらった。少し時間がズレたから回収が遅くなったが……でも逆に誰にも見られずに済んで良かった」
心配したと言って目元を緩ませている友人の言葉に、更に思考が混迷し始める。
従者は……ケイカの事だ。
ケイカは何て言っていた?
全部仕組んだのだと言っていなかっただろうか。
ではお父様を動かすだけでなく、アトラスにも助けを求めていた?
一体何処まで考えて私をアトラスに《回収》させたんだ。
……そうだ、ケイカはどうなったんだろう。あれから何日が経ったんだろう。
説明を求めようと慌ててベッドから起き上がろうとすると、微かな痛みが背に走って一瞬だけ息が詰まった。
固まった身体に背中を焼かれたのだったと思い出し、恐る恐る背に手をやってみて――そこには包帯すら巻かれていないにも関わらず、痛みは殆ど無かった。
治療されている?
今アトラスが治癒魔術を施してくれていたのは間違いない。
でも専門魔術でもないのに、お父様のような魔術師が焼いたような傷を治せる程の治癒魔術は使えないはずだ。
混乱して問いかけようとしたところで、アトラスとは違った穏やかな男性の声がした。
「火傷は消した。でも、今はまだあまり激しくは動かないで」
声がした方に顔を向けると、金髪の青年が居た。
窓の外を見ているだけでこちらに振り向こうとはしない。
最初は夕日の逆光で上手くその存在が誰であるのかが認識出来なかった。
けれどアトラスが背にゆっくりと手を添えて起き上がらせてくれると、それが誰であるかがはっきりと分かる。
この人は。
ぞくり、と背筋に歓喜が走る。
「おにいさま?」
存在を確かめるように声を出すと返事は無かったが、それでもそこにいる人物がお兄様である事を間違えようはずもない。
そうだ。そうだそうだそうだ。
アトラスの元にはギル様がいる。
彼の元に運ばれるようケイカが手配したのなら、この火傷の治療の為にアトラスがギル様を呼び寄せたのだとしてもおかしくない。
どうして私の火傷を治療したのかは分からないけれど、きっと怪我人には手を差し伸べてしまう性分だからだろう。
甘い判断だとは思うけれど、このキャラクターの思考からはそうとしか考えられない。
それでも怪我が治り、目を覚ましてしまえば、そこにいるのは――。
「君の事は色々調べたよ、オリガ。君が言っていた事の意味も理解した。今から言う事は、それらを全て勘案した上での結論だ」
その言葉に心臓がばくばくと一気に拍を刻み始める。
調べ、言葉を理解したというのであれば、もうやるべき事は分かっているはずだ。
自身の妹は善悪の判断もつかない程に好戦的な人間なのだ。
生かしておけば幾人もの人間を手に掛け続ける。
復讐の機会があればルージルの人間にだって手を出すと思うだろう。
待ち望んでいた断罪の言葉に、涙で視界が潤み始める。
良かった。本当に良かった。
私はこれでようやく物語に回帰出来る。
やっと殺して貰える。
やっと物語が幸せな結末に向かっていく。
やっと私はこの役を降りられる。
やっと私は価値のある人間に――。
「オリガ・エメルダ・ルージルは死んだ。先の戦いで負った傷が癒えず、継承の儀によって当主の座を父親に譲ってこの世を去った」
「……え?」
心臓が動きを止めたかのように冷え、視界が狭まる。
私が、【オリガ】が、死んだ?
私は確かにまだここに居て、ギル様の前に居る。
公的な死なんて、そんな死に方は私の求めていたものじゃない。
ギルフォードが殺さなければ私の死は無駄だ。
私が殺してきた多くの人間の死は無駄になる。
大罪人を罰する事で救国の英雄として非の打ち所の無い魔術師となるのに。
私が生きていたって何の意味も無いのに。
「君には、この国から去ってもらう」
――それなのに、私を生かすとこの男は言い放った。
金髪の青年は窓の外を見つめたまま振り返ろうとはしない。
一体何を言っているの。
そう一言言いたいのに口の中は急速に乾燥して喉はひゅ、と空気を鳴らすだけ。
私に聞かせるために言葉を紡いでいるはずなのに、誰とも視線を合わせることなく独り言のように呟いていく。
「本当は今すぐにでも移動させたいけど、今動かす方が危険だと判断した。暫くは君の存在を隠す。ほとぼりが冷めたら俺の方で国外への移動手段を手配する。……それで良いだろ」
「ああ」
身を引いて立ち上がったアトラスが、ギル様の言葉に神妙に頷く。
ギル様の言葉のどこにも淀みはなく、感情の揺れも無い。
決定事項を淡々と伝えていくだけの背中は、まるで私の行い全てを拒絶するようだ。
そこにはまるで一片の穢れも無いかのように完璧な姿勢で、無様にベッドの上でどうにか座るだけの私に求めていないものを突きつける。
何で、どうして。
どうしてこうなってしまうの。
どうしてケイカも、お父様も、アトラスも、ハーベスタ様も、貴方までも勝手に物語を逸脱するの。
「……して、」
――どいつもこいつも。
怒りが、私の身体を揺さぶる。
喉の奥から咆哮のような怒声が出た。
「どうして私を生かそうとするの!!」
貴方は私を殺さなければならないのに。
私は貴方に殺されなければならないのに。
それこそが誰も彼もが幸せになれる道だっていうのに。
すぐ傍らに立つアトラスを勢い良く睨み付け、少しだけ力の戻った手を握り締めて腹の底から声を出す。
「私の行いを知ったんでしょう?アトラスから聞いたのでしょう?私は死ななくても良い人も多く殺した、邪魔だからってそれだけの理由で殺した!なのにどうしてっ」
どうして私を殺してくれないの。
もう耐えられないのに、やっと貴方が私の前に現れたって言うのに。
全部を失っても、どれだけ屈辱を味わっても、諦めずにここまで生きていたと言うのに。
「私はずっと、ずっとずっと待っていたのに!死ねる日が来るのを待っていたのに!!」
――貴方をずっと待っていたのに、どうして。
「………」
大きな声で詰っても、お兄様が動く気配は無い。
口内で舌打ちをすると息を大きく吸って言葉を紡ぎ続ける。
どうしたら私を殺すために動く?
どんな言葉をかけたら、どんな行動を取ったら、私に対して殺意を向ける?
死にたければ考えろ。
生きていたくなければ声をだせ。
「同情でもしたの?それとも無様な姿を笑いたくて私をこんなところに?」
「落ち着け、オリガ」
「余計な事を、どうして私を殺さないの、殺してよ!」
アトラスの身体を押しのけ、サイドテーブルに置いてあった花瓶を投げつけようと放り投げても、力が足りずにお兄様には届かず床に落ちて割れて散らばった。
振り向きもしないくせにそうなる事が分かっていたように、お兄様は微動だにしない。
アトラスは暴れる私の身体に障りが出ないかを心配しているのか、力を入れずに私をベッドに押し戻そうとするばかり。
「私から何もかも奪って、一門から追放させて、惨めに生き延びさせて、これで満足?私を貴方と同じ境遇に貶めて満足?」
どうして誰も彼も私の邪魔をするの。
私の求めるとおりに、世界の規定通りに動いていけば必ず幸せな結末が待っているって言うのに。
私が生きていたって何の価値も無い物語なのに。
私は死ぬ事を求められる役割なのに。
欲しかった物なんて何一つ手に入らないのだから、最後に望み通りの死に方ぐらい与えられたっていい筈なのに。
「憐れむな!私は王族に連なる血筋、ルージルの女!貴方のように下賤の人間とは違う!」
どんなに声を張り上げてもアトラスもギル様も私に敵意を向けようとしない。
【炎獄公女】がここまで怒りを露わにしているというのに、もう彼等を動かす程の影響力も無いんだ。
唇を噛みしめると、まだ力が十分に入りきらない脚をどうにか掛け布から引き抜いた。
――私に力がないと思って脅威に感じていないのなら。
身を乗り出してきたアトラスの肩を足で蹴り飛ばし、ベッドから体勢を崩しながらも降りると、お兄様に向かって走り出す。
床に散らばった花瓶の欠片が足に刺さる痛みよりも早く、アトラスが体勢を立て直すよりも早く。
「こんな惨めな思いをさせるぐらいなら、貴方なんて私が殺してやる――!」
一回だけ。
あと一回だけなら魔術の行使も出来るかもしれないと医師は言った。
ならその一回に全てを賭けるしかない。
歯を食いしばり、体の底から一滴残らず魔力を掬い上げると、掌の中に練り上げた魔術が熱を帯びる。
自分の皮膚の防護にまで魔術を使えるほどの余力は無いから、熱がそのまま肉を焼き始めるだろうが――けど、こんな程度の規模の魔術では人一人殺すのが精一杯だ。
それでも、防ぎたければ必ず私に向けて魔術を使わなければならない。
そこにほんの少しでいい。
一握りでも感情を発露してくれさえすれば。
私の所業に怒りを抱いているのであれば、その魔術は感情に左右されて威力が大きくなるはず。
当たり所さえ自分で調節すれば、私は【主人公】に殺される事が出来る。
それさえ我慢すれば私は、救われる。
まるで世界がゆっくりと動いているかのようだ。
練られていく魔力が炎の形に成っていく。
身体の奥底から力が失われていくのに、唇はゆっくりと笑みの形を取っていく。
救われる。終わりだ。これで私は。
【器】がぎちり、と嫌な音を立てるのを感じながら魔術を手に翳し、ギル様に叩き付け―――。
そして。
ギル様は一歩も動かず、避ける事も反撃する事もせず、火球は空気に掻き消えた。
音が、消えたような気がした。
私以外、ここに居る人間は魔術を一切発動していない。
それが意味する事が頭の中で結びつくと、すっと力が抜け、立っていられずにぺたりと床に座り込む。
焦げ一つ無い衣服を纏った背中は微動だにしない。
背後でアトラスが詰めていた息を吐いた音だけが聞こえた。
「……な、んで」
どうして、避けないの。
ギル様は一歩たりとも動かず、アトラスも痛ましげに目を伏せるだけで指一本動かそうとはしなかった。
放った魔術は確かにギル様に当たった。
けれどそれは彼に害を及ぼす前に消え失せる。
まるでそうなる事を知っていたと言わんばかりに、この場に居る人は動かなかった。
「知ってたんだ。オリガが刻んだ魔法陣」
呆然としたまま言葉を紡げずに居る私に、ギル様はぽつりと言葉を落とした。
「何があっても火の魔術師は僕を殺せない。そう定めたのは君だ」
何故。一体いつの間にそれに気づいたのか。
決して気づかれないように派手な火傷の奥に、心臓に直接焼き付けた物に一体どうして気づいた。
――私には絶対に
私が追放の焼印に混ぜた陣は、守護の魔術陣だ。
自らの能力よりも低い魔術を打ち消す魔術陣――けれどそれは最強の火の魔術師だった私が刻めば、生涯誰の火の魔術も彼に害を及ぼす事はない鉄壁の守りとなる。
一度魔術陣を与えてしまえば、たとえ全盛期の私だったとしてもそれを破る事は叶わない。
それを知っていたのだとギル様は言った。
「ルージルから逃がしてくれた日に、君は魔術陣をくれた。どんなに挑発したところで、君は俺を殺す気なんて最初から無いんだ」
君の掌にケイカさんが刻んだように、と続く言葉に、自然と自分の掌に視線が落ちる。
防護魔術を張らずに火の魔術を扱ったのに、そこには傷一つない皮膚があった。
生を願う言葉を口にしながら刻まれたこれは、火の魔術から私の身を護る。
今の衰えた魔力量しか持たない私の魔術からも。
いつかの日に私はこれと同じ物をお兄様の心臓に焼き付けた――お兄様の生を願って。
「ち、が……私は、」
否定の言葉と共に自分の底にあった醜い感情が湧き上がってくる。
そう、私は。
本当は。
私はギル様を
万が一にでも私がギル様を殺してしまうかもしれない事を恐れただけだ。
生きて、必ず私の凶行をその手で止めて欲しいと願いを込めた。
それ以外に何の意味も込めてなんていない。
私の手に刻まれたそれとは全く意味合いが違う――そこまで考えて、彼女の願いが頭を過ぎった。
生きてと願った事は何も変わらない。
「君は随分変わってしまった」
「……ギル、オリガは」
「分かってる。仕方がなかった、だろ?」
背後でアトラスが立ち上がったのか物音がするけれど、振り返って確認する気にすらならない。
お兄様の方に顔を上げると、見上げたお兄様の背中はとても大きな物に見えて身体が微かに震える。
「ケイカさんに君の身体に起きた事は全部聞いていたんだ。でもその診察内容が信じられなくて、君が眠っている間に少しだけ俺も診させてもらった。それで……確信を得て、君に今、敢えて魔術を使わせた」
ギル様は振り返らない。
けれどその言葉には明確な意思がある。
瞳を見ずとも突きつけてくるような圧倒的な意思。
「これでもう、君は魔術師ですらなくなった―――二度と魔術で人を殺せない」
最後の魔術も、結局は昔に保険として自分で施した魔術陣に吸収され無力化された。
これでもう魔術師としての【オリガ】すら保てなくなった。
主人公の脅威とは成りえない。
「君の器は壊れた。どんなに万全の手を打ったところで、身体は長く持って十年程度だろう……魔術師でない君は非力だ。敢えてここで殺す意味も無い」
その声は、まるでお父様のような冷徹さがあった。
突き放す言葉が意味するのは、私を生かすという決断だ。
私を殺さないように動いた人々がいるから、こうなった。
生きてほしいと願う人がいるから。こうなった。
――でも、それは、私の犯した罪の責任は全て私にあるという事。
違う。
違う違う違う違う違う。
違う、私が悪いんじゃない。
これは物語に規定された通りの展開だったんだ。
私が悪いんじゃない。
私は悪くなんかない。
全部全部お兄様の為だったんだ。
この物語は、この展開は、私の役割は、罪は、死は、全部お兄様の為だけにあって―――私のせいじゃない。
「……魔術がなくたって私には両手がある、両の脚がある。貴方を殺すことぐらい……。私を殺さない貴方なんて、私が殺してやる」
そうだ。
私はまだ生きている。
私を殺しさえすれば【主人公】は完成するんだ。
瑣末な出来事の違いなんてもうどうでも良い。
魔術がなくたって、ギル様に私を殺すように誘導する事なんて幾らでも出来る。
言葉でも行動でも何だって。
どうせ治癒魔術で治せるのだろうから多少傷つけるような事になってしまったって、もう構わない。
何だってしてやる。何度だって殺意を向けてやる。
それでも私を殺さないなんて綺麗事を言うのなら、主人公としての役割を果たさないと言うのなら―――いっその事、本当に。
「殺してやる、例え他の誰が止めようとしたって、毒でも刃物でも何を使ってでも貴方を殺してやる。殺してやる殺してやる殺してやる」
「……ねえ、オリガ。本気で俺を殺したい?」
当たり前だ。
悪役を殺さない正義に一体何の価値がある。
価値のない主人公を支える為に私は生きてきたんじゃない。
貴方が前を向いて、私の屍を踏みつけ世界に立ち向かっていってくれなくちゃ、【私】に一体何の価値がある。
私が今までしてきた行いに、一体何の意味がある。
かたかたと震える腕を握り、射殺すように睨み付けると、ギル様はその視線に肯定の念を読み取ったのか、平坦な声で。
「いいよ」
そう言って振り返って私を見下ろすギル様の瞳は、ぞっとするほどに何の感情も浮かんでいないようだった。
どうして――この人は、こんな顔をする人じゃない。
驚きが体中を駆け巡る。
主人公は、こんな顔をしない。
もっと感情豊かで、どんなときにだって瞳の奥には希望があって、誰をも勇気付ける明るさがあって、どんな逆境でも前を向いていて。
なのにこの人は。
このどこかに感情を落としてきてしまったかのように無表情なこの人は――一体、誰?
「君を助けにルージルに乗り込んだ日から、沢山の事があったんだ。ずっと疑問に思っていたことも、思いもよらなかった事も沢山知った」
ギル様は主人公だ。
知りたいと願えば、それはいつか必ず知ることが出来るだろう。
知りたくない事でも、いつか必ず目の前に示されるだろう。
先に進む為に必要なものは、何でも手に入るはず。
「多くの仲間が出来たし戦力は十分に揃った。ルージルの動きを封じる為に動く必要もあった。本当は幾らでも君を助けに行く機会も理由もあったんだ。でも――」
端整な顔は柔らかな印象なのに、瞳は凍りついたかのように冷徹で。
ギル様は笑みの形に唇を歪めようとし、結局それも出来ずに歪な表情が出来上がった。
出来損ないの道化のように誰も勇気付けられない、誰の心にも光を灯さない、空虚な笑い顔。
「君の言葉は正しかった。……俺は、君は死んだ方が良い人間だって、そう思って、しまったんだ」
俺は君を見殺しにする道を選んだんだ。
そういって、正義の
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